第3話 【格闘】


 メスのカラスが、そんなキッスの雨に打たれながら、ふと河の真ん中を悠々と歩むサギ姿を目に入れた。


「あはっ。お月様ン油差し(愛称)だワ」

 

それを聞いて、オスのほうも川面に目を彷徨せた。


「また、いやがるぜ。お月様ン油差したア、聞いてあきれるぜ。あ奴なんざア、おたんちんの、大猿の屁の、すかしたアろくろっ首だ。おまけにスケベもつけてやる」


「まあ、あんた、スケベたア豪華だねえ、自分のことを棚にあげてさア」


「おっ。あ奴、飛ぶ気だぜ。ちょっと、こらしめてやろうぜ」



 サギが水面から羽ばたいた。


 そうして、橋の上を抜けて、電信ばしらの上へと舞い上がった。


 二羽のカラスも、橋の欄干の上からちょいと跳躍して羽ばたいた。


 そして反転してブーメランのようにサギにせまっていった。

 電信ばしらの上の方で、しきりにサギとカラスが、わめきながら格闘した。


「ひっ掻くぞう。こん畜生」


「あはっ。アハアハ」


 サギは盛んにまとわりついてくるカラスたちを振りほどこうと、右へ左へ急な放物線を描き、時にはビルディングの壁すれすれまでカラスたちを引きつけておいて、急に直角に曲がって飛んだりした。


 カラスたちは、大きなビルの路地裏で、サギを煙に巻かれたように見失い、悔しまぎれに舌を鳴らした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る