第2話 【白サギとカラスと子どもたち】


 一羽の白サギは、橋の上から斜めに滑翔してきて、浅瀬の河底に二つの足をつけて立った。余力で柔らかく前に二歩あゆむと、長く痩せた足に、トポリ、トポリと水輪がにじむ。サギのいびつな爪先をかすめて、河底に映る日差しの金糸のような一群の魚鱗が、揺らめきながら消えていった。


 河口のほうでは、カモメの群が寄り集まって、水面に白く浮かんでいる。



 サギはゆるりと前へ出た。


 静かな足取りで、時々、動かぬ秒針のように立ち止まり、ほそほそとして白い首をカギに曲げ、胸中にすくめてみたりした。という間に、ひょいと首をもたげて前のめりに水面を見つめ出した。


 と、途端にクチバシを水面に打ち浸けて、一匹の小魚をくわえこんだ。そうしてその後は何もなかったように、イナッコ(少年期のボラ)の頭と尻尾を口元からはみ出したまま、ただもう河の世界の広がりの中で、ぼんやりとしていた。


 ある瞬間に、サギは二度ほど小刻みに首をねじり、のどに魚を流し込んだ。



 橋の欄干には、二羽のカラスが舞い降りた。


 昼間だというのに、羽が少し破れかかったオスの方がメスににじり寄り、頬にキッスの雨を降らせた。


「アハアハ。やめれったら。いがいがするよう。欲張りは毒だよう」


「おお、オレのオツムは春うらら、チキチントン、花は咲き、鳥は歌うぜ、テケチントン」



 幼稚園児たちは、園内の滑り台の上から、向かいの河の真ん中をそぞろ歩きする一羽のサギを、発見した。


「たいちょう、さぎです。しろい、いつものです」


「どれどれ、あわてない、あわてない」


 子らは、つたない握りこぶしを目に当てて、双眼鏡の真似をしてのぞいた。


「たいちょう、おさかな、くってます」


「どれどれ、ほんとうだ。ペロリと、よくくうなあ」


「おっと、たいちょう、あっちの橋のうえで、カラスがちゅーっ、してます」


「こりゃあ、まあ、カラスがあんなことをするなんて……」



 幼稚園児たちは、おやつの時間になるまで、滑り台の上から河のほうを見続けた。

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