水の中の木馬

夢ノ命

第1話 【馬だよ、それも真っ白な奴】


岬の上の森の中では、夜なべでフクロウが鳴いている。



一羽のトンビがそれを聞きつけて、夜空の星の瞬く中を降りてきた。

トンビはフクロウの寄る樹の頭の茂みの中に、飛び込んできた。



「おお、おそろしいぞ。なんとも大きな音をだしおって、腰を抜かしたらどうする」


「へんだ、おれ様に悪気はないぞ。かんべんしろな」


「そこで今日はなんの用なのだ」


「ああ、実はナ、今日おれ様は、海の水平線のほうまでいってきたのだ。そうしたら、面白いものが見えたのだ」


「それはなんであるわけなのか」


「なんだと思う……当ててごらんよ、どんピシャリとさ」


「人の死骸でもみたか」


「ちがうね」


「それでは、アホウドリにでも出会ったか」


「ちがうわい」


「したらば、こうだろう。お前、マンボウに出くわしたろ。そうして、あ奴の浮かんだ顔にとまってみたんだ。あ奴はそれでも、太陽に半面をさらしたまま、ぷっくり浮かんだままだったろう。それでお前はそんな風船のようなあ奴に親愛の情でも起こしたのではないか」


「ああ、あ奴のことは聞いている。一度は出くわしてみたい頭デッカチの魚だよ。けれど、今日会ったのは、そんなんじゃない。昼寝あぶぁあぶぁのマンボウだとすれば、確かに情はわくだろうよ、だが、あ奴はただ者ではないもののような気がした」


「はてと、なんであろうな」


「…………」


「厄介なことだなア、おいっ」


「…………」


「ひねくれずに、教えろよ」


「馬だよ。それも真っ白な奴。あ奴は海を泳いでいたよ、一生懸命にさ。何度も波をかぶりながらも、大したものさ」


「何と。馬が海を泳いでいただと。それは作り話しじゃああるまいな」


「そんな話を作っても、楽しくないだろ。おれ様は楽しい話が好きなんだ。もうすぐあ奴は浜までたどり着くぜ。6日もあればナ。あんたも、6日後、浜まで見にくればいい」

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