第5話「リリアナ、山賊に遭遇する」




カイロス様は青空の下そよ風に吹かれながら、悪魔に取り憑かれ地面に倒れていました。


「ちょっと目を離した隙に三体もの悪魔に取り憑かれるなんて……カイロス様は本当に悪魔ホイホイですね」


【こんなところに上質の魔力を持った男がいるなんて最高じゃない】

【私、彼のことわりと好みだわ。私たちに取り憑かれ魔力と生気を奪われた彼が、痩せ細えていく姿を見てみたいわ】

【あなたって本当に趣味よね。私も同じこと考えたけど】


いえ、ここまでくると悪魔たらしと言った方がいいかもしれませんね。


「悪魔三人娘さん、悪いんですけどカイロス様は私のものなんです。手出さないでくださいね」


私はカイロス様に取り付いていた三体の悪魔をぶっ倒し、魔晄炉二号持ち運び便利君に放り込みました。


「今回の悪魔は全員青色をしてました。

 三体の青色の悪魔を詰め込んだらどんな色の魔石ができるのでしょうか?

 楽しみです!」


魔晄炉のスイッチを押して数秒、出来上がった魔石は濃い青色をしていました。


「なるほど同じ色の悪魔を一度に何体も詰め込むと、濃い色の魔石ができる。

 新発見です」


緑と赤など相反する色同士の悪魔を同時に入れたら、どんな色の魔石ができるのでしょう?


今度実験してみたいですね。


「ん……僕は何を?」


そうこうしているうちにカイロス様が目覚めたようです。


悪魔と魔石に夢中になって、彼のことを忘れていたわけではないですよ。


ええ、決して忘れてなんかないですよ!


悪魔よりも魔石よりも、悪魔ホイホイのカイロス様の方が大事ですから!


「カイロス様、お気づきになられましたか?

 悪魔に取り憑かれて倒れていたんですよ」


「急にめまいと立ちくらみがしたと思ったら……そんなことになっていたのですね」


「ご安心ください。

 カイロス様に取り付いていた悪魔は、魔晄炉にぶち込んで魔石に変えて置きましたから。

 見てください。

 こんな綺麗な濃い青色の魔石ができたんですよ」


「すいません。

 またリリアナ様にご迷惑おかけしまって……本当にダメですね僕は」


「何をおっしゃっているのですか!

 カイロス様の悪魔ホイホイの能力は私が喉から手が出るほど欲しい能力です!

 ですが悲しいかな、私にはその素質はないのです……。

  王都中、いえ国中を探し回っても、カイロス様ほどの悪魔ホイホイ体質の人間を見つけることはできません!

 私の研究は悪魔や悪霊あってのもの!

 魔石を作るには原料となる悪魔が必要であるように、ネクロマンサーの私には悪魔召集体質のカイロス様が必要なのです!

 カイロス様あっての私!

 私あってのカイロス様です!」


私、熱弁する内容の方向性を間違えたのでしょうか?


盛大に空回ってる気がします!


カイロス様がドン引きしてるじゃないですか!


カイロス様を優しく包み込むようにしなくては!


「だからご自分の体質に誇りを持ってください」


私は帰ろう様の手を取り、出来るだけ優しく穏やかな笑顔で微笑みました。


「僕の体質のことを褒めてくださったのはリリアナ様が初めてです。

 僕にとってあなたはかけがえのない存在です。

 どうか許されるなら、一生僕の傍にいてください」


よかった。


カイロス様に嫌われていなかったようです。


まさかここに来て二度目のプロポーズをされるとは思いませんでした。


「もちろんです。

 カイロス様が嫌だと言っても、私はあなたに張り付いて離れませんからね」


カイロス様にとって必要なのはネクロマンサー兼、錬金術師としての私でしょう。


カイロス様の顔立ちはとても整っています。


悪魔に力を吸い取られることがなくなったら、顔色も良くなり、目の下のくまも消え、体力もついてくるでしょう。


カイロス様の着ている服や乗っていた場所から推測するに、彼はいいところのお坊ちゃんみたいですし、彼が健康になったら周りの女性がほっとかないでしょう。


そうなったら伯爵家を勘当された平民の私ではなく、いいところのお嬢様と結婚してしまうかもしれません。


その時は彼の愛人にしてもらって、魔石だけは作らせていただきましょう。


カイロス様に捨てられないように、私がいかに有能なネクロマンサー兼、錬金術師か今のうちにたっぷり売り込んでおかなくてはけませんね。


愛人になってもお手当てはもらいません。その代わり悪魔だけは下さいと、しっかりとお願いしておかなくてはいけませんね。


カイロス様に私の他に愛する人ができる……?


想像したら胸の音がズキリと痛みました。


何でしょうこの胸の痛みは?


アルバート殿下と婚約していた時は、殿下に何度が浮気されても何とも思わなかったのに……。


私の心臓どうしてしまったのでしょうか?



◇◇◇◇◇




「カイロス様、本当に御者席に乗ろうつもりですか?」


「はい」


馬車の客席に魔晄炉二号持ち運び便利君と、祖父の研究室にあった護身用の小型ハンマーを乗せてしまったので、客席はぎゅうぎゅうなのです。


それでもカイロス様一人ぐらい客席に乗れないことはないのですが。


「御者席は風当たりも強いですし、直射日光も当たりますよ」


「そのくらい平気です。

 風にも太陽にも負けない強い男になるんです」


どうやらカイロス様の決意は固いようです。


「それに御者座に乗れば、リリアン様と距離も詰められますし……ゴニョゴニョ」


カイロス様が何か喋っていますがよく聞こえません。


彼は独り言の多いタイプの人間のようです。


無くて七癖と言いますしそこは多めに見ましょう。


「そこまで言うのなら、もう止めませんわ」


実を言うと歩く悪魔ホイホイのカイロス様を、一人客席に乗せるのは不安だったのですよ。


客席のドアを開けた時、大量の悪魔に取り憑かれてへばっているカイロス様の姿が容易に想像できてしまうのです。


彼の傍にいて見守ってあるのが私の仕事です。


「では出発しましょう」


荷物も乗せ終わりましたし、カイロス様も乗車席に乗りました。


第二王子のアルバート様に『二度と俺には関わるな! 城や街で俺を見かけても無視しろ!』と言われてますからね。


彼とうっかり遭遇しないうち、サクサクこの国から脱出しましょう。


「ところでどこに向かえばいいんでしょうか?

 カイロス様の祖国とは?」


馬車を走らせてから気づきました。


行き先どこ!?


「すみません。

 話すのは遅れました。

 僕の祖国はダークレアです。

 ダークレア帝国の帝都に向かってください。

 そこに僕の実家があります」


ダークレア帝国は私達が今たいる国、オルフェア王国のお隣の国です。


帝国はオルフェア王国なんかよりずっと領土が大きいです。


そこの帝都出身ということは、カイロス様は都会っ子だったようですね。


カイロス様が帝都にタウンハウスがある貴族の息子なのか、帝都に本店を持つ大商人の息子なのか、その辺はダークレア帝国に着いてみればわかるでしょう。


カイロス様が、私の予想に反して貧乏だったとしても問題ありません。


何たって魔石は高価なので、売ればお金なんて簡単に稼げますから。


原料の悪魔はカイロス様からいくらでも取れますから。


そう考えると、悪魔ホイホイのカイロス様と、錬金術師の私って、もの凄く相性がいい組み合わせですよね。


この国ではアルバート殿下に魔石の販売を禁止されてしまったので、魔石を売るのは帝国についてからなりますね。


「それではカイロス様のふるさと、ダークレア帝国の王都に向かって改めて出発ーー!」


カイロス様のお陰で馬車が二頭立てになったので、馬車の旅は快適。




◇◇◇◇◇



「そんなわけで私の家から出る時、母も兄も見送りの来なかったんですよ」


快適すぎて暇なので、私は元家族のことをカイロス様に話していました。


まあほとんど愚痴なんですが。


「ところでカイロス様はご兄弟おられます?

 そういえばまだ年齢も聞いてませんでしたね。

 それもまだ名字と一緒で教えることができませんか?」


それとなくカイロス様の名字を聞き出そうとしてるんですが、彼は頑なにそこだけは教えてくれないんですよね。


もしかしてとてつもない変な名字なのでしょうか?


「僕の歳は十八です。

 兄が二人います」


「え? 十八歳!?

 私と同い年ですね!

 カイロス様は華奢でひ弱なので年下かと思ってました!」


驚きのあまりストレートな言い方になってしまいました。


カイロス様がお心はデリケートなのですから、もっと歯に絹を着せた言い方をしなくては……!


「すみません。

 失礼な言い方をしてしまって」


「大丈夫です。

 気にしていませんから」


「それで、カイロス様のお兄様達ってどんな方なんですか?」


カイロス様は「気にしてません」と言っているますが、顔色があまりよくありませんでした。


あれは絶対に気にしています。


今度から彼の年齢のことと、見た目のことは触れないようにしましょう。


カイロス様にお兄様が二人といるということは、彼は三男。


ということはいくら彼の実家がお金持ちでも、彼が受け継ぐ財産は少ないかもししれませんね。


私がネクロマンサー兼錬金術師として、沢山稼いで、家庭を支えていく必要がありますね!


「一番上の兄は父や周囲に跡継ぎとして期待されています。

 とても優秀な方で、

 十人の話を同時に聞きながら、

 右手で届いた書類を確認して判を押しながら、

 左手で部下に仕事の指示を出すメモを書き、

 足で疲労回復と、仕事の効率アップの魔法をかけている方です」


十人の話を同時に聞きながら、右手で何して左をどうしてると言いました?


その上、足で魔法もかけてるんですか?


「それは……とても優秀な方ですね」


何て言うか「優秀」という言葉の領域を超えている気がします。


「はい僕は一番上の兄をとても尊敬しています」


純粋なカイロス様に信頼されているのですから、悪い方ではないのでしょう。


「それで二番目のお兄様はどんな方なんですか?」


「二番目の兄は、発明や研究が大好きなんです。

 天真爛漫な性格でとても陽気な方です」


「発明好きのお兄様ですか?

 それは話が合いそうですね。

 是非お話ししてみたいです」


そんな方とお話ししたら、魔晄炉二号持ち運び便利君をもっと進化させられるかもしれません。


他にも悪魔や悪霊を使ったあんな装置やこんな装置の開発も……ふふふ、想像しただけで笑いがこみ上げてきます。


「リリアナ様は僕の婚約者なんですから、兄上達を好きになってはダメですよ!」


これは嫉妬というやつでしょうか?


私、誰かに嫉妬されるなんて初めてです! 


お兄様達に取られたくないからと、耳まで真っ赤にして抗議するなんて、カイロス様は可愛いですね。


「分かっています。

 私の婚約者はカイロス様だけですよ」


カイロス様はこうやって嫉妬してださるのも、悪魔に取り憑かれていた影響でお友達がみんな離れて行ったせいですよね。


悪魔から解放されたら、見目のいいカイロス様女性から熱烈にアプローチさせられることでしょう。


その時、今のように私のことを大事に思ってくだされば良いのですが。


いけませんね、ネガティブになってしまいました。


アルバート殿下に婚約破棄され、彼が

私を振った直後に商売敵の聖女と婚約したことに、少なからずダメージを受けているようです。


「ところでカイロス様のお父様はどんなお仕事を……」


その時、馬が「ヒヒーン」と嘶き、歩みを止めました。


「どうしたのでしょうか?」


カイロス様が不安に訪ねてきます。


やはり彼には客席に乗っていてもらった方が良かったかもしれません。


「どういうことはありません。

 街道によくいる山賊に遭遇しただけです」


「ええっーー?! さ、山賊……!!」


カイロス様は悲鳴をあげました。彼の顔色は真っ青です。


私の婚約者様は華奢でひ弱なんですから、驚かせるような真似はやめてほしいですね。


林の影からわらわらと男たちが出てきました。


彼らは全員目つきが悪く、他人から巻き上げた戦利品と思われる物をジャラジャラと身につけているのでセンスも最悪でした。


「リ、リリアナ様、落ち着いて下しゃい!

 ぼぼぼ……僕が、まもまもまも……守りましゅから……!」


落ち着いた方がいいのはカイロス様の方ですよ。


体がカタカタと震えてるじゃないですか。


でも「守る」と言ってもらえたのは嬉しいです。


「大丈夫ですよ。

 山賊の一人や二人や五人や十人ぐらい、私の必殺ハンマーさばきで……っと言いたいところですが、ハンマーを客席に乗せたままでした」


次からはこういう時に備えて、ハンマーはすぐ手を届くところに置いておきましょう。


「何ごちゃごちゃ言ってんだ?

 念仏は唱えてんのかい?

 お坊ちゃん、お嬢ちゃん」


「すごい豪華な馬車だぜ!

 きっと金目の物が五万と積んであるんだろうな!」


お生憎様です。


客席に乗ってるのは魔晄炉ぐらいです。


「片方の馬は若いし毛並みがいいな。

 高く売れそうだ!

 男の方も金持ちのボンボンに見えるし見た目もいい。

 物好きな金持ちに高く売れそうだ」


山賊は、カイロス様とカイロス様が連れてきた馬を高く評価していました。


「そっちのヨボヨボの馬は馬肉ぐらいしかならないな。

 女の方も美人でもなく、不細工でもなく……市場で売ったところで大した金にならなそうだぜ」


ということはこの中で一番お金にならないのは私ってことですか?


それは心外ですね。


「汚らしい目で彼のことを見ないでくれます?

 私の婚約者はデリケートなんですよ」


山賊に寝込みするような目で見られ、カイロス様生まれたての子鹿のようにプルプル震えてるじゃないですか。


「うっさいブス!

 痛い目に会いたくなかったさっさと馬車を降りろ!!」


「そんな言い方すると後悔しますよ。

 祓ってくれって泣いて頼んでも、助けてあげませんからね」


私は懐から小瓶を取り出し山賊に向かってかけました。


「たかが水をかけただけで、山賊が撃退してできると思ってんのか!

 笑わせてくれる!

 おい、この無知なお嬢ちゃんに山賊の怖さを教えてやんな……ひぃぃぃ!

 なんか突然寒気がっっっっ!!」


「どうしたんですか兄貴??

 …………っっ!

 俺もなんだか知らないが急に悪寒が……!」


「おっ、俺もさっきから震えが止まらない!!」


「背筋がゾクゾクするし、震えが止まんないし、目の前はクラクラするし何なんだ!!

 こんな怖い思いしたのは、四歳の時じいさまから怪談を聞かされて一人でトイレに行けなかった時以来だよ〜〜!

 助けて〜〜!

 お母ちゃ〜〜ん!!」


山賊たちが突如その場にうずくまり、震えだしました。


彼らの顔はおばけでも見た時のように真っ青です。


「リリアナ様、一体彼らに何をしたんですか?」


「祖父の遺品の魔晄炉を壊してる時、

 魔晄炉の中から悪魔の溶け残りと、悪霊の溶け残りができたんです。

 大方はハンマーで殴って祓ったですけど、何かに使えると思って小瓶に詰めておいたんですよね。

 ここで役に立って良かったです」


良い再利用が出来ました。


魔晄炉を掃除する時に出たカスを、痴漢よけスプレーとして売り出しても良いかもしれませんね。


「た、助けてく……!

 死んだばあちゃんが、三途の川の先でおいでおいでしてるのが見えるんだ……!」


「俺は血みどろの女が見えます!」


「オレは足が鉛のように重い……!」


山賊達が私に助けを求めて来ました。


いやいや貴方がたは今しがた私を襲おうとしていましたよね?


その私に助けを求めるとか間違ってません?


でもまぁ私も鬼ではないですし、ヒントぐらい教えて上げましょう。


「王都に言って聖女様の前で今までの罪を洗いざらい話してください。

 そして罪を潔く償って下さい。

 そうすれば命は助かりますよ」


「なっ、俺達に今までの罪を白状しろって言うのか?」


「嫌なら別に構いませんよ。

 今あなた方が感じている不調が一生続くだけですから」


「この不調が……一生……!」


山賊達は真っ青な顔で顔を見合わせました。


「言います!

 全部言います!

 白状します!

 だから助けて下さい!」


「罪は私にではなく王都にいる聖女様に告白して下さい」


「わ、わかりました!

 おい、野郎ども行くぞ!」


「「「へい! 兄貴!!」」」


山賊達は一目散に王都に向かって走って行きました。


私は連中が途中で木の根っこに足を引っ掛けて転んだり、蛇に足を噛まれたり、蜂の群れに追われたり、すったもんだしながら走っていく姿を見送りました。


悪霊の再利用ができた上に、山賊の更生まで出来ました。


良い事をすると気分がいいですね。


そう言えばカイロス様は大丈夫かしら?


山賊に襲われた恐怖で泣きべそかいてないといいんですが。


「カイロス様、もう大丈夫ですよ……って、ええっ!?」


カイロス様は黄色い悪魔に取り憑かれ

意識を失ってました。


やけに静かだと思ったら、目を離した隙に悪魔に取り憑かれてるんですから。


羨ましくなるほどの悪魔召集体質ですね。


【悪霊の波動を感じて来てみれば、こんなところに良い生贄が……】


バキッ!!


悪魔の御託を聞いてるほど暇ではないので、悪魔を拳で黙らせ、客席にある魔晄炉に入れました。


この調子ならダークレア帝国の帝都に着く前に一財産築けそうです。


「ブルル……」


山賊によぼよぼの馬と言われた私の馬が、悲しげにないていました。


「大丈夫だよ。

 売り払って馬肉になんかしないからね。

 ダークレアの帝都に着いたら牧場を買ってあげるよ」


馬にそう話しかけ鼻筋を撫でると、馬は機嫌良さそうに尻尾を振りました。


魔石を売ってひと財産を築ければ、牧場付きの一軒家を買うなんて楽勝です。


「う、うーん……僕は一体……?

 そうだ山賊は!?」


私が御者席に戻ると、カイロス様が目を覚ましました。


「山賊なら罪を悔い改める気になったらしく、懺悔をしに王都に向かいましたよ」


嘘は言っていません。


「そうですか……それは良かった」


カイロス様がホッと息を漏らしました。


「リリアナ様、お怪我はありませんでしたか?

 変なことされませんでしたか?」


「私は大丈夫ですよ」


むしろ山賊に変なことされる危険があったのはカイロス様かもしれません。


彼らはカイロス様をいやらしい目で見てましたから。


「それなら、良かった……!」


カイロス様が安堵した表情で息を漏らしました。


「すみません。

 リリアナ様を守ると言ったのに、結局何も出来なくて……」


カイロス様はしょんぼりしてしまいました。


「いいえ、守ると言って貰えただけで、私は嬉しかったですよ」


思えば今までの人生で、私を守ろうとしてくれた男性が一人でもいたでしょうか?


「リリアナ! 体調が悪いんだ! また悪霊に取り憑かれたよ〜〜!」


困ったときだけ泣きながら私に助けを求め、用が済んだら冷たい態度をとるアルバート殿下。


「リリアナ! 裏庭に魔物が出たんだ! 退治してくれ!」


私を冒険者のように扱う父親。


「リリアナ! 部屋にゴキブリが出たんだ! なんとかしてくれ!」


部屋に虫が出ただけで泣きわめく兄。


彼らが元婚約者や身内だと思うと情けなくなりますね。


本当に頼りにならない男達ばかりでした。


頼りになったのは亡き祖父ぐらいでしょうか?


「カイロス様が、私を守ると言って下さった時、本当に嬉しかったんですよ」


カイロス様は涙を目にいっぱいたたえ、カタカタと体を震わせ、言葉を噛みながら、それでも私を守ろうとしてくれました。


「次は言葉だけでなく、本当にちゃんとあなたを守れるように、体を鍛えます!」


カイロス様の瞳には固い決意が宿っていました。


「私はそのお言葉だけで十分に幸せです」


カイロス様の言葉が胸の奥まで響きました。


心が今とても温かいです。


私は素敵な婚約者を見つけたようです。




◇◇◇◇◇





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