第130話 姉須戸・トンプソン・伝奇とサキュバス


「さて、次に解説するモンスターはこちらになります」


『きもっ!?』

『なんだこれ? 見たことないな』

『触手が生えた肉塊?』

『こいつかあ………確かに解説するべきモンスターだけど………夢壊さないかな?』

『なんか歯切れが悪い人がいるな?』

『このモンスターの正体知ったら壊れる夢ってなんだ?』


 姉須戸がリモコンを操作してモニター画面に表示したのは、虫かごサイズのガラスの容器に閉じ込められた触手の生えた肉塊。


 サイズも小さく、一見すると踏み潰すだけで倒せそうな印象を視聴者達が抱く。


「このモンスターはサキュバスです。出没場所は多義に渡ります」


『は?』

『え? サキュバス?』

『先生、解説するモンスター間違えてますよ』

『サキュバスってエロ漫画や同人で題材にされる美人なモンスターですよ』

『間違ってないんだなあ、これが』


 姉須戸が映像のモンスターがサキュバスだと伝えると、コメント欄には否定的なコメントが次々と書き込まれていく。


 希に姉須戸の解説で合ってると言うコメントも書き込まれるがあっという間に否定的なコメントに飲み込まれて見えなくなる。


「皆さんが想像しているサキュバスのイメージは、このモンスターが寄生して見せる幻覚です。サキュバスは非実体の精神寄生生命体で、獲物を眠らせて寄生し、宿主の願望を刺激して理想の異性が出てくる淫らな夢を見せることで生命エネルギーを吸いとります」


『ん? 非実体? 見えてるけど?』


「これはこの容器が特殊素材で出来てまして、中に閉じ込めると実体化します。どういう原理かはナウエンコンクリゲート粒子と言う論文を読んでください」


 姉須戸がサキュバスに関して解説していると、視聴者の一人がサキュバスが見えていることを指摘する。


 姉須戸は容器が特別だと答え、原理に関しては論文が公表されているサイトのURLを配信チャンネルの概要欄に載せる。


「探索者の皆さん、ダンジョン探索中に異常に眠くなったり、仲間が突然眠ってしまう出来事ありませんでしたか? サキュバスの攻撃を受けたことが原因です」


『だからか、ぐっすり寝てコンディション整えたのに、まるで三日ぐらい徹夜したような眠気に襲われたの』

『仲間が突然眠って、起こしたら逆ギレされたの、サキュバスの夢を見てたからか?』

『対策方法ないの?』


 姉須戸がサキュバスの攻撃と思われる症状を聞くと、視聴者達から該当する出来事の内容が書き込まれる。


「対策方法としては精神抵抗をあげるポーションを事前に飲むのが一般的です」


『あれ糞不味いんだよなあ』

『飲むのに覚悟いるし、飲んだ後は味覚がおかしくなってなに食べても味がしない』

『有効だとわかっていても飲むのに抵抗がある』


 姉須戸がサキュバス対策を伝えると、精神抵抗ポーションに対するコメントが書き込まれていく。


「仲間が襲われた場合はその場から三メートル引きずって動かして起こしてください。サキュバスはほぼ移動能力がないに等しいので、動かせば影響から離脱できます。もしくは寝ている相手に精神抵抗ポーションを飲ませてください」


『問題は被害を受けた本人が助けられたくないといってくるんだよなあ』

『俺過去にサキュバスの被害受けたけど、ちょっと疲れたぐらいの被害だし、その程度で俺が求める理想の女性と熱い一夜の夢が堪能できるとなるとそれでもいいかと思ってしまう』

『被害がたいしたことないのが逆に厄介』

『高くて糞不味い精神抵抗ポーション飲んで苦しむのと、ちょっとつかれるけどエッチな夢が見れるのとどっちとるといわれるとなあ………』

『さすがに戦闘中に襲われたら抵抗するけどな』


 姉須戸がサキュバスに寄生された場合の対処法を伝えると、サキュバスの被害にあった人達がコメントしていく。


「サキュバスは非実体なので物理攻撃は効きませんが、魔法は有効です。ドロップ品として魔石と体液をドロップします。特に体液は錬金術で加工することで、増強剤や精力剤などになります」


『あー、夜の薬として有名だな』

『利用してたけど、正体があれだと思うと使いにくいなあ』

『それな』


 姉須戸がサキュバスのドロップ品について解説する。


「サキュバスについてはこれくらいで、次のモンスター解説に移ります」


 姉須戸はそう言うと、リモコンを手にした。

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