第63話 姉須戸・トンプソン・伝奇とカラルコルとカンドーとカランスン
「助けてくれー!」
「うん?」
Dランクダンジョンを探索していた姉須戸は、どこからか助けを求める声を耳にして足を止める。
『今誰か助けを求めてきたな』
『聞こえた』
『早く助けないと!』
配信視聴者達も声が聞こえていたのか、助けに行こうと言うコメントが次々と書き込まれていく。
「助けてくれー!」
「何処ですかー!」
再度助けを求める声が聞こえてきて、姉須戸は大声で呼び返す。
「誰か助けてくれー!」
「………」
『あれ、なんで足止めた?』
『先制どうしたの?』
『早く行かないと!』
姉須戸はふと足を止めて声が聞こえてくる方向を見つめる。
配信コメント欄では姉須戸が足を止めたことに対して助けを催促したりするコメントが次々と書き込まれていく。
「一+一は?」
「助けてくれー!」
「あ、これは犠牲者の声真似をするタイプのモンスターですね」
『そうなの?』
『言われてみればさっきから同じ言葉しか聞こえてこないな』
『そんな確認のしかたあるんだ』
『いや、切羽つまって答えられないだけかも?』
姉須戸は唐突に計算を求めるが、聞こえてくるのは同じ助けを求める声。
姉須戸は計算式に答えないことから、モンスターと判断する。
配信コメント欄では声はモンスター派と切羽つまって答えられない派がお互いに自分の主張をぶつけ合うレスバトルが始まっている。
「まあ、確かめに行きますか。
姉須戸が魔法を唱えると、魔法で作られた瓜二つの分身が姿を現す。
「今向かいます」
「助けてくれー!」
姉須戸は助けを求める声に対して向かうと伝えると、鏡像の自分を先行させる。
「何処ですかー?」
「助けてくれー!」
声の主を確認しながら鏡像が進んでいくと、唐突に頭上から巨大な肉の塊が落下してきて、鏡像を丸飲みする。
それと同時に天井から二体のモンスターが飛び降りてきて、姉須戸と対峙する。
「やはり罠だったようですね。あの肉の塊はカランスンと呼ばれるモンスターで、天井に張り付いて、獲物をゆっくり溶かして犠牲者の叫び声や助けを呼ぶ声を真似ます」
『やっぱりモンスターか』
『そう言うモンスターがいるとわかっていても助けに行きそう』
『だから唐突に計算を求めたのか』
『ところで絶対に探索者が助けを求めてると言ってたアカウントさん、何か言うことは?』
『すいませんでした』
姉須戸がモンスターを解説すると、配信コメント欄では、先ほどレスバトルをしていた人達が謝罪したりしていた。
「主な攻撃方法は、先ほどのように犠牲者の声を真似して獲物をおびき寄せて丸飲みです。その場から動けないので回避さえすれば一方的に攻撃できます。ただ………」
姉須戸が解説中、二体のモンスターがカランスンを守るように対峙する。
片方は頭が二つある蜥蜴人間、もう片方は目に炎を宿した浮遊する頭蓋骨だった。
『こいつらカランスンを守ってる?』
「頭が二つある蜥蜴人間はカラルコル。カベや天井も張り付いて移動できるので、不意打ちにやられる探索者が多いです。蜥蜴系なので寒さが弱点ですね」
カラルコルはチロチロと蛇舌を出し入れしながら襲ってくるが、姉須戸は杖を使って攻撃を受け流しながら解説を続ける。
「あの頭蓋骨はカンドーと言うアンデッドです。魔法を使う時に目の宝石が輝くので、それをみてタイミングを計ってください。
姉須戸の解説を肯定するかのように、カンドーは目の宝石を輝かせて口から火の玉を吐き出す。
姉須戸はタイミングにあわせて魔法の盾を作り、カンドーの魔法を防ぐ。
「
カンドーの魔法を防いだ姉須戸は魔法を唱えると、無数の炎の弾丸が姉須戸の周囲に生成されていき、姉須戸が手を振り下ろすとそれを合図に無数の弾丸がモンスター達に降り注ぐ。
モンスター達は炎の弾丸に体を削られていき絶命して霧散化していった。
「さて、ドロップ品ですがカラルコルからは爪と鱗がドロップします。爪は武器に、鱗はスケイルアーマーの部品になります」
姉須戸はドロップ品を拾い上げて説明する。
「カンドーからは瞳の宝石が手に入りますが………等級の低い宝石程度の価値しかありません」
『一応本物だからイミテーションよりはまし』
『宝石=高いと皮算用して買取価格知って絶望した』
『安い指輪とかに代用されてるね』
姉須戸はカンドーの瞳にあった宝石を見せて価値を説明する。
「カランスンからは魔石と肉の塊。日本では肉の塊は残念ながら価値はありません」
『アフリカとか食料難な場所では需要ある。不味いけど』
『カランスンはドロップ品より、犠牲者の遺品が価値ある』
「視聴者さんが言うように、カランスンは金属とか消化できないようで、遺品が残ることがあります。今回は時間が経ちすぎたのかないですが」
姉須戸はそう言うと、ダンジョン探索を再開した。
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