第60話 姉須戸・トンプソン・伝奇とオードリーとオキュペテーとオドン


「おや、歌声が聞こえてきますね」


 Dランクダンジョンの第二階層を探索していた姉須戸は、足を止めて耳をすませる。


『歌系のモンスターか?』

『さすがに探索者がこんなところで熱唱しないわな』

『逆に探索者だったら怖いよ』

『なんかきれいな声が確かに聞こえる』


 ドローンカメラの集音マイクもモンスターの歌声を拾ったようで、聞き惚れる視聴者もちらほらいた。


「こういった歌を歌うモンスターは数多くいて、大半は聴く者を惑わして食らったりします」


『こういうときの対策ってなんですか?』

『姉須戸先生は大丈夫なの?』


「基本的には耳栓ですね。もしくはスマホなど機材を持ち込んで音楽を大音量で流してかき消すかですね。私は耐性があるの」


 姉須戸は質問者のコメントに答えながら、歌の主を探す。


「あれはオキュペテーと言うハーピーの仲間ですね」


『いきなり顔以外モザイクフィルターついたんですけど?』

『配信サイトの管理AIが不適切と認識したか>モザイク』

『ハーピー種は全裸の女性に鳥の手足がついたモンスターだからなあ』


 歌を歌っていたのはオキュペテーと呼ばれる人間性の女性の体に肘と膝の先から鳥の翼や脚になっているモンスター。


「あそこにはオードリーと言う生物の生き血を主食にする植物モンスターがいますね」


『トゥースっ!』

『いきなりどうした?』


 姉須戸が杖で指差すと、そこにはキャベツのような植物が生えており、花の部分が空に向かって大口を開けてる人の顔にも見える。


「オドンもいましたか」


 姉須戸が向いてる方向にドローンカメラが向くと、牛の頭に三本の角、魚の胴体に人間の脚と言うちぐはぐなモンスターがいた。


 


「オキュペテーの歌で迷い混んだ獲物の血をオードリーが、肉をオキュペテーとオドンが食べているようですね」


『共生関係か』

『生態系出来てるなあ』


 姉須戸は周囲に散らばっているドロップ品や人骨を見て、この三体の連携を予測する。


「ラーアッ!!」


 オキュペテーは姉須戸には歌が効かないと理解すると、羽ばたき衝撃波を放つ魔法を使う。


「っととっ!? オキュペテーの攻撃方法は歌による精神操作、爪による引っ掻き、そして風系統の魔法を使います」


 姉須戸は横に飛んで衝撃波の魔法を回避しながら解説する。


 今度はオドンが口を開けて水を噴射してくる。


「オドンはあのように口から高圧の水流を吐き出してきます。当たるとかなりいたいですよ」


 オキュペテーとオドンの攻撃を回避しながら、姉須戸は動く気配のないオードリーに近づく。


「オギャアアアアアアっ!!」

「オードリーは動けない変わりに、近づいてくる人に金縛り効果のある叫び声を浴びせてきます。動けなくなった獲物を共生してる他のモンスターに襲わせて、血液を得たりするんですね」


 姉須戸はオードリーの叫び声が効かないのか、そのまま近づいて杖で顔のような花びら部分を突き刺す。


「オードリー自体はかなり弱いです。花びら部分を攻撃すればEランクでも倒せるかと思います。 おっと!」


 姉須戸が解説するように、杖で刺されたオードリーは霧散化していくが、オドンがしつこく水流で攻撃してくる。


「オドンの弱点は電撃です。電撃ライトニング!」


 姉須戸はオドンの攻撃を避けながら杖をライフルに見立てて構えて魔法を唱える。


 杖の先端から雷撃が発射されると、オドンを感電させて炭に変えていく。


「ラーアッ!」

「おっとっと! オキュペテーは飛行能力と引き換えに防御力が低いので、物理攻撃に弱いとも言えます」


 オキュペテーは何度も衝撃波を放っていくが、姉須戸は足を止めることなく地上を縦横無尽に走り抜けて回避していく。


大地の金槌アースハンマー!!」


 オキュペテーの攻撃が途絶えると、姉須戸は素早く杖で地面に図形を描いて魔法を唱える。


 すると、図形から土が盛り上がり、土で出来た巨大なハンマーを持つ手が現れる。


 その巨大な手はオキュペテーに向かってハンマーを振り下ろし、オキュペテーは叩き潰された。


「オキュペテーのドロップ品は羽です。羽毛布団とかに使うととても快適です。またマジックアクセサリーに加工すると歌が上手くなります」


『オキュペテーのマジックアクセサリーつけて歌ってみた動画上げたら、スカウト来た』

『もう少し使い方あるだろ?』


 姉須戸はオキュペテーのドロップ品について解説する。


「オードリーからは果実がドロップしますが、食べるのには少し勇気がいります」


『どうみても苦悶の表情と叫び声あげてる人の頭にしか見えねえ』

『いや、食べれるのか?』

『サイズ的に成人男性の頭なんだよな』


 オードリーのドロップ品をカメラに撮す。

 その果実は姉須戸が両手で抱えるほど大きく、コメントで指摘されるように苦悶の表情を浮かべていた。


「因みに味は熟したマンゴーに近いです」


『美味しいと言われても無理』

『フルーツカットされてたらいけるか?』


 姉須戸が果実の味を伝えると、視聴者達は食べれるか話し合いを始める。


「最後にオドンですが、肉と角が手に入ります。肉は魚と牛のミックスとも言える味で、角はマジックアクセサリー加工すると、テイム率アップするアクセサリーになります」


『この角があるなしでテイム確率かなり違う』

『アクセサリー探してるけどなかなか売ってない』

『テイムされたモンスターが一番高値で売れるからなあ』


「さて、今回の探索はここまで。お疲れさまでした」


『お、おつー』

『乙』

『乙カレー』


 姉須戸はドロップ品の解説を終えると探索の終了を宣言する。


「それではチャンネル登録と高評価お願いします。また次回お会いしましょう」


 姉須戸は山高帽を脱いで挨拶して配信を終了した。



 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る