第56話 姉須戸・トンプソン・伝奇と大バエと大ウツボカズラと大バエ地獄
「むう………頭が痛くなるほど甘い匂いが漂ってきましたね………」
Dランクダンジョンを探索中の姉須戸は、不快そうな表情をしてポケットからハンカチを取り出して鼻を塞ぐ。
『そんなひどい匂いなんだ?』
『甘い匂いって気分悪くなる?』
『体質にもよるだろ?』
『甘い匂いと言うと、植物系モンスターとか?』
「よく勉強していますね。はい、今回のような甘い匂いを漂わせるのは植物系モンスターが獲物をおびき寄せるためといわれています。匂いはあちらから漂って来るので、調べてみます」
姉須戸はそう言うと、ハンカチで鼻を押さえたまま匂いの元へと歩いていく。
「おや、運がいいですね。食虫植物型モンスターの補食シーンがみられるようです」
姉須戸と同じように甘い匂いにつられてやってきたのは巨大なハエ達。
そのうちの一匹が甘い匂いを漂わせる巨大なウツボカズラに近づくと、ウツボカズラの蔓が大バエを絡めとり、ウツボカズラのツボの中に引き込み蓋を閉める。
「巨大なハエは大バエといい、雑食で死体すら平気で食べるので、口や手にはかなり雑菌が繁殖しています。大バエに傷を負わされたら、破傷風対策してください」
姉須戸は、ウツボカズラに捕らわれた大ハエを杖で指差しながら解説する。
「あのウツボカズラは大ウツボカズラと呼ばれ、目に見えない触毛が張り巡らされ、それに触れると蔓が伸びて獲物をとらえます」
捕らわれた大ハエは脱出しようともがき、ウツボカズラが揺れる。
残りの大バエ達は仲間がやられたのをみて、大ウツボカズラから離れようとするが、他の植物に紛れて隠れていた巨大なハエジゴクの葉身と呼ばれる部分が獣のように飛びかかり、逃げようとする大バエ達を次々ととらえていく。
「あちらは大バエジゴクですね。一定の距離まで近づくとハエたたきのように上から迫ってきてきたり、地面に埋まって虎バサミのように獲物をとらえます」
『食虫植物型モンスターは擬態が上手かったり、見えない触手とかで不可避な攻撃してくるから犠牲者多いんだよね』
姉須戸がモンスターを解説すると、捕捉するようにコメントをする視聴者がいた。
「食虫植物型モンスターは基本的に動かず、甘ったるい匂いを漂わせるので、近づかないのがベストです。次に万が一捕まった時の対処法をお伝えします」
姉須戸はある程度食虫植物型モンスター達から距離をとって解説を続ける。
「大ウツボカズラのツボに捕らえられた時は下手に動かないでください。ツボ内部には鋭い突起物が無数に生えており、登ろうとするとズタズタになります」
姉須戸はまず大ウツボカズラから解説を始める。
「内部の液体は雨水や溶かしたモンスターの体液で、それに胃酸を混ぜて獲物を溶かします。ここで暴れると刺激で胃酸が大量に分泌されるので、動かないのがベストです」
『どうやって内部から脱出したら?』
「一番ベストなのは仲間に外部から刃物等で攻撃してもらうことです。ソロの場合は内部から胃酸に耐えながら攻撃するしかありません」
『ソロではあいたくないな』
姉須戸は大ウツボカズラの脱出方法を伝える。
『ハエジゴクは?』
「仲間がいる場合は葉身につながる茎を断ち切ってください。そうすれば葉身が開きます。ソロの場合は手足を切り捨てる意外ありません」
配信視聴者からハエジゴクの脱出方法を質問されて姉須戸は答える。
「弱点は植物系なので枯れ葉剤系の毒か火です。
姉須戸が魔法を唱えると、火の球が食虫植物型モンスター達に向かって飛んでいき、爆発炎上する。
基本的に動くことができない食虫植物型モンスター達は燃え上がる炎から逃げることもできず、灰になるまで炎に包まれ続けた。
「ドロップ品ですが、大バエから翅が、大ウツボカズラからは胃酸がドロップします。大バエジゴクからは白桃のような甘い果肉がドロップします」
姉須戸は燃え尽きた食虫植物型モンスター達からドロップ品を回収していく。
「運がいいといえばいいのか、大ウツボカズラや大バエジゴクからまれに消化しきれなかった人間の遺品やモンスターのドロップ品が追加でもらえます」
『それを狙って優先的に大ウツボカズラとかを倒す探索者グループもいる』
『あー、死んだ探索者の装備狙いや遺品取り戻して謝礼を強要する
『あいつら嫌い』
姉須戸が犠牲者の遺品の話をすると、コメント欄では
「お話はそれぐらいで、探索を続けますね」
少々コメント欄のレスバがヒートアップしてきたのを見かねた姉須戸が話の腰を折るように、探索再開を知らせた。
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