第54話 姉須戸・トンプソン・伝奇とオーガ


「皆さんおはようございます。本日も前回と同じDランクダンジョンを探索したいと思います」


『うp乙』

『おはようございます』

『出席~!』


 いつものように姉須戸は配信開始の挨拶をして、前回と同じDランクダンジョンを探索する。


「かなり獣臭い匂いが漂っていますね………」


『動物型モンスターかな?』

『ダンジョンにもよるけど匂いがきついんだよなあ』

『ダンジョン探索終わりは風呂必須』


 しばらく探索していた姉須戸は、漂ってくる獣臭に顔を歪めて、ハンカチで鼻をふさぐ。


「臭いの原因はオーガでしたか………」


 しばらくダンジョンを進むと、姉須戸の前方に徘徊する巨人がいた。


 その姿は全長四メートルの額から角の生えた原始人で、不衛生な髪と髭は好き放題にのび、イボだらけの皮膚は垢が浮いている。


 動物の生皮を腰に巻いて、木の幹をこん棒がわりに持ち歩いていた。


『Dランクの壁だ!』

『こいつを倒せるようになればCランクになっても苦労しないと言われてたな』

『時折調子にのった自信過剰のDランクが挑んで悲劇を生む』

『オークよりも防御力もタフさも攻撃力も上なモンスター』


 姉須戸がオーガを発見すると、配信視聴者達が次々とコメントを書き込んでいく。


「オーガの攻撃方法は基本的に持ってる武器の近接攻撃です。純粋に怪力とあの大きさから振り下ろされるこん棒は脅威ですよ」


 オーガは鼻をひくひくさせて周囲の匂いを嗅ぎ、姉須戸の姿を見つけるとニヤリと獲物を見つけたと嗤うと、近くの岩を拾って上に投げて、野球のノックのようにこん棒で岩を打ち飛ばしてくる。


「あと、あのようにそれなりに知恵があります」


『岩とか質量物の射撃は反則だろ!』

『そりゃ壁と言われるわ』

『いや、無理無理無理!』


 轟音と共に飛んでくる岩を姉須戸は回避する。

 避けられた岩は姉須戸の後方で地面に激突して轟音と土埃をあげる。


「弱点は特にありません。好色と言うか他種族のメスを好んで食べる傾向があり、チームに女性がいると優先的に狙われますよ」


 姉須戸がそんな解説をしている間にも、オーガは別の岩を拾い上げて、同じようにこん棒で打ち飛ばしてくる。


反転リバース!」


 飛んでくる岩に対して姉須戸は落ち着いて魔法を唱えると、姉須戸に向かっていた岩が反転するようにオーガに向かっていき、驚いた顔のオーガに激突する。


「ウオオオオンンッ!!」


 岩が激突したオーガは倒れるが、直ぐに起き上がって怒りを表すようにこん棒で何度も地面を叩いて雄叫びをあげたかと思うと、こん棒を振り上げて姉須戸に向かっていく。


グリース

「グオッ!?」


 姉須戸が魔法を唱えて杖で地面を叩くと、叩いた場所から濃い緑色の脂が広がっていき、脂エリアに足を踏み入れたオーガが盛大に転倒する。


大地の大刺アースニードル!!」

「グギャアアアアッ!!」


 姉須戸は魔法を唱えて、力強く杖で地面を叩くと、無数の岩の刺が転倒したオーガの肉体を貫いて突き出る。


『うわ、痛そう』

『刺全部、返しついててえげつない』

『オーガ、なまじ生命力あるからまだ息があって暴れてる』

『起き上がろうにも、刺を何とかしようにも脂で滑ってどうにもならないとかえぐい』


 配信視聴者達が言うように、オーガはまだ息があって暴れてるが、刺から抜け出すことはなく、最後は力尽きて霧散化していく。


「さて、オーガのドロップ品ですが、皮と角です。皮は防具に使えるんですが………臭いを完全に落とせないんですよね、今の技術でも」


『消臭剤とか作ってるメーカーが挑戦してるけど解決してない』

『比較的ましにはなってきてる』

『そこまでしてオーガの皮を防具にしたいかと言うと、微妙』


「角は槍に使われますね。下手な金属より固くて丈夫です」


『俺使ってる』

『こっちは匂わない』


 姉須戸がオーガのドロップ品について語るとやはりオーガの臭いが話題になる。


「さて、探索を続けましょうか」


 姉須戸はそう言うと、ダンジョン探索を再開した。


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