第45話 姉須戸・トンプソン・伝奇とヴァンパイアスレイブとヴァブーサントとヴィジラント


「またモンスターが現れたようですね」


 Eランクダンジョンを探索していた姉須戸は、モンスターが現れたことに気づくと、足を止める。


「あれはヴァブーサントですね」


 姉須戸が杖で指差した先にいたのは赤子の形をした闇だった。

 赤子のようにハイハイしながらこちらに向かってくるが、その早さは尋常ではないスピードだった


『ちょっ!? まじで怖い!!』

『マジ無理!』

『形もヤバいけど、黒さと速度がGを連想する』


 ヴァブーサントを見た配信視聴者達がホラー映画を見たように悲鳴を上げるコメントを書き込んでいく。


「主な攻撃方法はドレインタッチと言う相手に組み付いて、相手の精神力を吸収します。精神を全て吸い付くされると、犠牲者もヴァブーサントになります」


『殺されるとモンスターになるのホントに厄介』

『元知り合いとかだと心情的にも戦いにくい』

『今はましだけど、昔はモンスター化した探索者の親族が叩かれてた』

『あれは本当にみてて不快だった』


 姉須戸がヴァブーサントの攻撃方法を解説すると、過去にあった社会問題についてコメントする書き込みがあった。


 殺されるとモンスター化すると判明してなかった時代、探索者はダンジョンに潜り続けるとモンスターになると迷信めいた風評被害が蔓延し、社会問題に発展した。


 今では理解している人が多いが、陰謀論などにハマった人達は未だにダンジョンに潜ればモンスターになると信じ、差別を続けている。


「もう一体はヴィジラントですか………ヴァブーサントとの組み合わせは厄介ですねえ」


 ヴァブーサントの背後から姿を表したのは目が異様に輝く宝石、特徴のないのっぺりとした仮面を着けた黒マント。

 ふよふよと浮かんでおり、ヴァブーサントと比べるとかなり遅い移動速度だ。


「ヴィジラントとは視線を合わさないように。視線には魅了や麻痺の効果があり動けなくなります」


『確かに組み合わせ最悪だ。ヴィジラントの視線で動けなくなって、ヴァブーサントのドレインタッチです殺されるとか』

『単体なら問題なくても、組み合わせで厄介になることもあるのか』

『と言うか、ヴィジラント睨んでるけど、姉須戸先生は動いてますよね?』


「あ、私は対策してますので」


 配信視聴者からの質問に対して姉須戸はスーツの裾を捲ってブレスレットを見せる。


 どうやらマジックアイテムの一種でヴィジラントの視線効果を無効化しているようだった。


「あそこにいるのはヴァンパイアスレイブですね。ヴァンパイア種の最下層クラスで、血を吸われても眷属にはされませんが、強いですよ」


 最後に現れたのは、死人のような青白い肌に白目部分まで血のように赤く染まった目のぼろ布を纏った人間だった。


『あれは元人間か?』

『いや、wikiには元からモンスターとして生まれたと書いてた』


 配信視聴者のコメント欄ではヴァンパイアスレイブが元人間かそうじゃないかで議論が始まる。


「攻撃方法は殴る蹴るなど喧嘩格闘と噛みつきです。さて、三体ともアンデッド種に該当するので、共通の弱点を持っています」


『吸血鬼なら十字架やニンニクが効果あるとは良く聞く』

『お経で成仏するとか?』

『それ実証した人いたけど、どうも効果なかったらしい』


 姉須戸はモンスター達の攻撃を回避しながら回避続け、解説を続ける。


「太陽の光に弱いと言う弱点があります」


『ダンジョン内で太陽をどうしろと?』

『平原とか野外のダンジョンなら疑似太陽あるけど意味なかったぞ?』


「正確には太陽に含まれる紫外線ですね。とあるメーカーが開発した対モンスター用の強力紫外線ライトと言うのがあります」


 姉須戸はインバネスコートのポケットからハンディタイプの懐中電灯を取り出して、明かりをモンスター達に照射する。


「ぎゃああああーっ!?」


 紫外線の光を浴びたヴァンパイアスレイブが悲鳴を上げて、光があたった部分から発火して全身に広がって焼き付けされる。


 ヴァブーサントやヴィジラントに光を当てれば、暗闇の塊が崩れ始めて形を保てなくなり霧散化していく。


「注意事項として、あくまで低ランクのアンデッドにしか効果ないですし、中には効かないアンデッドもいますのであまり頼りすぎないように」


『この紫外線ライトのやつ意外と安いな』

『それな本体は安いけど、バッテリーの消耗率が激しくて、交換でかなりコスト悪い』

『でもお守りとして持ち歩くには悪くないかも?』


 姉須戸が紫外線ライトの注意事項を伝えると、コメント欄にライトについてあれこれ意見が書き込まれていく。


「さてドロップ品ですが、ヴァブーサントから魔石のみです。ドレインタッチとか嫌な攻撃してきますが、ドロップ品はしょっぱいです」


『魔石が出るだけましかな』

『買取価格も微妙』

『うーん骨折り損のくたびれもうけなモンスター』


「ヴィジラントからは仮面や宝石の瞳です。仮面はそのままフェイスガードに使える固さを持っています。宝石の瞳はかなり価値が高いです」


『同じ狩りををするならヴァブーサントよりヴィジラントだな』

『ヴィジラントじたい、滅多に出現しないレアモンスター扱いだけどな』

『望みがたたれた>レアモンスター』


「ヴァンパイアスレイブからは吸血鬼の灰です。これは錬金術の媒介として重宝されいます」


 姉須戸は倒したモンスターからドロップしたアイテムを解説していく。


「さて、先にすすみますかね」


 姉須戸はそう言うとダンジョン探索を再開する。

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