第44話 姉須戸・トンプソン・伝奇とヴァインホラーとウィルオーウィプスとウィスト
「ここから先は沼地ですか………」
Eランクダンジョンを探索していた姉須戸は視界の果てまで広がる巨大な沼地に辿り着いた。
「あまり靴は汚したくないんですよね」
『その格好でこなければいいのでは?』
『事実陳列罪よくない』
『引き返します?』
姉須戸が苦笑して愚痴を呟くと、配信視聴者からつっこみのコメントが書き込まれる。
「仕方ありませんね、
姉須戸は魔法を唱えなから杖でチョンチョンと自分の靴をつつく。
「それでは進みましょうか」
『魔法って便利だな』
『汚れるのが嫌だからって………贅沢すぎね』
『そんな魔法もあるんだ』
姉須戸が沼地に向かって歩き出す。
すると靴はまるでおとぎ話のように水面の上を踏んで歩いていき、沼地の汚れた水や泥に足をとられない。
「おや、早速モンスターがやってきたようですね」
『なんだあれ?』
『人魂?』
『人の影も見える』
『あと水面も波紋が激しくできてね?』
姉須戸が杖で指差した方向には光の玉がふよふよと浮かんでおり、配信視聴者が言うように人魂にも見える。
そしてその光の玉に照らされるようにザブザブと水音を立てて姉須戸の方に向かってくる人影。
その人影の周囲を何かが泳いでおり、時折顔を覗かせているのか、水面に波紋が生まれる。
「ふむ、あの人魂みたいなのはウィルオーウィプスですね。水があるダンジョンで遭遇しやすいモンスターで、明かりで人を惑わせて水に沈めようとします」
姉須戸はふよふよと浮かぶ人魂を見て、モンスターの名前を配信視聴者に伝える。
「人影の方は………あ、泥人形のヴァインホラーですね。泥でできたゴーレムの一種で物理攻撃が効きにくいです。波紋をたててるのは………あー、ウィストと言う大型犬サイズの蛭です」
姉須戸も魔法の光を産み出して人影を照らす。
姉須戸の魔法の光に照らされた人影はその正体が露になり、髪の毛のような藻を生やした泥人形ことヴァインホラーと呼ばれるモンスターだっ。
水面に波紋を作る存在は、まるで臓物のようなピンク色の蛭。
特徴的なのは頭部部分が巨大な口になっており、その口の回りには無数の触手が生え、触手の先端は蛙の手のような形をしていた。
「ウィルオーウィプスの攻撃方法は放電です。金属鎧など身に付けてる人は近づかないように」
『もっと早く聞きたかった(感電して痺れた)』
『金属鎧つけてなくても感電するんだよなあ』
『近接攻撃しか持ってない人にはやりにくい相手』
『的も小さいので遠距離もしんどい』
姉須戸がウィルオーウィプスの攻撃方法を伝えると、過去に戦ったことがあるアカウントが愚痴を書き込んでいく。
「弱点は特にありませんので、魔法などで遠距離から攻撃しましょう。
姉須戸が魔法を唱えると、エネルギー状の魔法の矢が生成され、ウィルオーウィプスを貫く。
魔法の矢に貫かれたウィルオーウィプスは体を保てなくなったのか灰のように崩れていき、霧散化していく。
「ヴァインホラーの攻撃方法は素手攻撃と、組み付いて泥の体に押し込んで窒息させてきます。泥の体は掴みにくく、剥がしにくいので組つかれないように」
姉須戸が解説していると、ヴァインホラーは姉須戸に組つこうと腕を広げて近づいてくる。
「ヴァインホラーの簡単な倒し方ですが、乾燥剤や凝固剤を使います」
『は?』
『乾燥剤ってお菓子とかに入ってるあれ?』
『ええ~(困惑)』
姉須戸はそう言って業務用の乾燥剤や凝固剤をポケットから取り出すと、次々とヴァインホラーに投げつける。
ヴァインホラーの体は投げつけられた乾燥剤や凝固剤を体内に取り込んでいき、徐々に動きが鈍ると泥の体が乾燥して固まり、崩れていく。
「ね、とっても簡単でしょう?」
『この手の簡単でしょう?解説で本当に簡単だった』
『持ち込んだ食料に乾燥剤とかついてたりするから試せなくはないな』
『完全に固められなくても、ある程度阻害できるならアリだな』
姉須戸は固まったヴァインホラーを杖で叩くと、ヴァインホラーは簡単に崩れ去って霧散化していく。
「ウィストの攻撃方法は噛みつきてすが、沼地や泥の中を泳いで忍び寄る性質で、気がついたら噛まれていたなんてこともあります」
ウィストは姉須戸に噛みつこうと泥から顔を出すが、水面の上を歩く姉須戸はまるでタップダンスを踊るように足を上げて回避する。
「ウィストの噛みつきで気を付けないといけないのは、口回りの触手と歯並びです。触手の力はかなり強く、大人二人でやっと一本はずせるかです」
『かなり強いな』
『噛まれたけどまじで強かった。金属のレガースが触手で凹んだ(レガースのお陰で噛みつきは防げた)』
『掴まれたらどうすれば?』
姉須戸がウィストの触手による掴みかかりを注意する。
「スタンガンなどで電流を浴びせてください。スタンガンがないなら倒して霧散化させるのが唯一の方法です。それから歯並びがなぜ聞けんかと言うと………こういうことです」
姉須戸は触手による掴みかかりの解除方法を伝えながら、杖をウィストに向ける。
するとウィストは杖に噛みつき、姉須戸は噛みついたウィストを釣り上げるように杖を持ち上げて、ウィストの歯を配信視聴者に見せる。
『うわ、岩とか粉砕するミキサーみたいな歯並び!』
『これで噛まれたらヤバい』
『知らずに引き剥がそうとしたら』
『やめろ、想像したら鳥肌たったじゃないか!』
配信視聴者が言うように、ウィストの歯は粉砕機のような歯並びだった。
「なるべく噛まれないように、噛まれても引き剥がさないようにしてくださいね。
姉須戸が魔法を唱えると杖が放電し、杖に噛みついていたウィストが感電して黒焦げになって霧散化していく。
「さて、ドロップ品ですが、ヴァインホラーからは魔力のこもった泥がでます。アースエレメンタルのように農業に遣えます」
姉須戸は倒したモンスターのドロップ品を解説する。
「ウィルオーウィプスからは灰がドロップします。これも魔力がこもっていて、医薬品から染料と色々使えます」
『これよく採取依頼出てるんだよな』
『放電がきついから受ける人少なくて依頼単価が高くなってる』
「最後にウィストからは触手です。見た目があれですが珍味として酒のあてにお勧めですよ」
『うーん………知らなければ食べれたかも?』
『モンスター料理は見た目と、素材になる前の姿がなあ………』
「さて、解説はこれくらいにして、探索を続けましょうか」
姉須戸はドロップ品の紹介を終えると、ダンジョン探索を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます