第43話 姉須戸・トンプソン・伝奇とウーズとヴァンパイアジェリーとヴォイトウーズ


 Eランクダンジョンを探索する姉須戸は道端にある水溜まりを見つけると足を止める。


「ダンジョンにこういう水溜まりを見つけたら警戒してください。一見水溜まりに見えて、垂直に深い穴だったり、モンスターが潜んでいたりします」


 姉須戸はドローンカメラ目線で解説すると、ポケットからは虫類用の餌の冷凍ネズミを取り出し、水溜まりに投げ入れる。


『本当になんでも入ってるな、姉須戸先生のポケット』

『よくいれて歩けるな』

『それよりも、水溜まりがおかしいぞ』


 配信視聴者が指摘するようにネズミの死骸を投げ入れた水溜まりがうねうねと動き出す。


「これはウーズですね。皆さんにはスライムといった方が馴染みがあるかも」


 水溜まりに擬態していたウーズは投げ入れられたネズミの死骸を餌と思い込み、擬態を解く。


「ウーズの攻撃方法は体当たりか、纏わりついてかなり強い酸性の胃液で溶かします。可能な限り纏わりつかれないように」


 ウーズはネズミの死骸を体内に取り込むと高速で溶かしていく。


「万が一纏わりつかれた場合は火傷覚悟で火を押し付けてください。ウーズは火が弱点です。火の矢ファイヤーアロー!」


 姉須戸は解説しながら魔法を唱えると、火の矢が現れてウーズを燃やす。


「ウーズのドロップ品は粘液か被膜です。粘液は潤滑油として利用され、被膜は防水シートになります」


 姉須戸はウーズを倒してドロップ品の解説を終えるとダンジョンを進む。


「あれは動物の死体? 何処からか紛れ込んだか、他の探索者が囮として使ったのですかね」


 進行方向に犬の死骸があり、少し離れた距離から姉須戸は死骸を確認する。


「ミイラみたいに干からびてますね………どうやらあそこにいるヴァンパイアジェリーの仕業のようですね」


 姉須戸は天井に視線を向けると、真っ赤なウーズが天井に張り付いていた。


「なにも知らずに犬の死体に近づいたら、上から不意打ちを食らってたでしょうね。ヴァンパイアジェリーの攻撃方法は不意打ちで体に傷をつけて、傷口から血を吸い取ります」


 ヴァンパイアジェリーは自分がばれたのを認識してないのか天井に張り付いたままだ。


「吸い付かれた時はウーズと同じように火を押し付けてください。知能はかなり低いので、不意打ちされない限りは大丈夫かと。炎の矢ファイヤーアロー!」


 姉須戸がまた火の矢を生成して、ヴァンパイアジェリーを攻撃する。

 火の矢が命中したヴァンパイアジェリーは驚いたのか、地面に落下して火を消そうとする。


「おや、ヴァンパイアジェリーの中に別のモンスターが隠れていたようですね」


 ヴァンパイアジェリーの中から水銀のような液体が分裂して、犬の死骸の傷口から体内に入り込む。


 すると、犬の死骸が激しく痙攣して、ぎこちない動きで起き上がる。


「おや珍しい、ヴォイトウーズですね。死骸に取り憑いて操る寄生型ウーズです。多分ヴァンパイアジェリーのおこぼれにあずかろうとしていたのでしょうかね?」


 犬の死骸に取り憑いたヴォイトウーズは姉須戸に襲いかかろうとする。


「ヴォイトウーズと戦う時は幾つか注意点があります。まず操ってる死体に攻撃してもダメージを与えられません。火魔法で燃やし尽くすか、氷魔法で死体を操ってるヴォイトウーズごと凍らすかです」


『意外と討伐がめんどくさい系?』

『操ってるの死体は外皮みたいなもので、姉須戸先生が言うように死体を攻撃しても無意味に近い』

『周囲にモンスターの死骸が多いと厄介。次々と死体に乗り移ってうざい』


 姉須戸がヴォイトウーズについて解説すると、過去に戦ったことがあるアカウントが自分の経験を書き込む。


「さて、まとめて倒しますか。炎の竜巻ファイヤーストーム!!」


 姉須戸が魔法を唱えると、ヴァンパイアジェリーとヴォイトウーズを巻き込むように炎の竜巻が発生してモンスターを焼き尽くし、炭すら残すことなく霧散化していく。


「ヴァンパイアジェリーからは粘液がドロップします。これは増血剤の材料の一つになります」


『血を吸うモンスターから血を増やす素材でるの草』

『お茶吹いた>血を吸うモンスターから~』


 姉須戸がヴァンパイアジェリーのドロップ品を解説していると視聴者からつっこみのコメントが書き込まれる。


「ヴォイトウーズからは水銀によくにた液体がドロップします。こちらは水銀と同じ性質を持ちながら人体に安全なので代替え品として使われたりします」


『ほー』

『人体に害がないのはいいね』


 姉須戸はヴォイトウーズのドロップ品を解説し終えるとポケットに収納する。


「さて、近くにモンスターはいなそうなので、もう少し奥に行ってみますね」


 姉須戸はそう言ってダンジョン探索を再開した。

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