モンスター名:う行

第40話 姉須戸・トンプソン・伝奇とウルフヘンジとウォーグとウェーブウルフ


「ふむ………どうやらライカン系の縄張りに入ったようですね」


 Eランクダンジョン第二階層の岩高原を探索していた姉須戸は周囲の匂いを嗅ぎながら、岩壁に刻まれた傷を見つめる。


『なんでわかるの?』

『その岩に付けられた傷がマーキング?』


「ええ、モンスターの中には縄張りを作り、こうやってマーキングして主張します。約二メートルの高さに交差するように付けられた四本爪跡はライカン系モンスターの特徴です。あと凄く獣臭いのも」

「アオオオオーンンンッ!!」


 姉須戸がモンスターの縄張りについて解説していると、モンスターの遠吠えが響き渡る。


 それを合図に姉須戸をとり囲むように大型の黒い獣毛の狼達が現れる。


「ふむ、あれはウォーグと呼ばれる狼型モンスターですね。爪の引っ掻きや噛みつきを主としております」


 姉須戸はウォーグに取り囲まれても落ち着いた様子で解説する。


「グルルル………」

「アウルルルル」


 ウォーグの集団の中から蛙のように喉が膨らんだ狼と、人のように二足歩行する狼が姿を表す。


「喉が膨らんだ狼はウェーブウルフといいます。その名前の通り、音波による範囲攻撃を得意とするモンスターですね。人型の狼はウルフヘンジと呼ばれるワーウルフで、狼の眷属を召喚します」


『いきなりウォーグに取り囲まれたのは、ウルフヘンジの能力か?』

『結構な数だけど大丈夫なん?』

『いや先生落ち着きすぎ』


 無数のモンスターに取り囲まれていると言うのに、姉須戸は授業ても行っているように落ち着いた様子でモンスターの解説をする。


「アオオオンッ!!」


 姉須戸の落ち着いた態度が気に入らなかったのか、ウルフヘンジは苛々した様子で雄叫びをあげる。


 その雄叫びを合図にウォーグ達が四方八方から一斉に姉須戸に向かって飛びかかる。


「ウォーグに対して気を付けないといけないのは連携攻撃です。可能な限り一対多数は避けてください。ソーンウォール棘蔓の壁


 姉須戸は魔法を唱えて杖で地面を叩くと、姉須戸を守るように無数の棘の生えた巨大な蔓の壁が地面から生え、ウォーグ達の攻撃を防ぎ、逆に棘に串刺しにしたり、蔓にのまれて押し潰されていく。


『いってることと、やってること違うんですけど?』

『注:姉須戸先生だからできることです。素人は真似しないでください』

『なんだろう、こんだけ博識でも教授にはなれないんだ』


 配信視聴者達がコメントを書き込んでいく間にウォーグの群れは棘の壁によって壊滅していく。


「アルルルルルッ!」


 ウォーグの壊滅をみたウェーブウルフ達が喉を震わせて超音波を棘の壁に浴びせる。


 棘の壁は超音波を浴びると瓦解していき、姉須戸の姿が露になる。


静寂サイレンス


 姉須戸は山高帽を押さえながら魔法を唱えて杖で地面を叩くと、ウェーブウルフ達が喉を震わせも超音波を出せなくなる。


『何やったの?』

『サイレンスと言う魔法で音を消す魔法。あれでウェーブウルフの周囲の音の振動とかを停止させて音を出せなくしたんだ』

『そんな便利な魔法あるんだ』


 突如ウェーブウルフ達が攻撃を止めたことに対して視聴者の一人が疑問を書き込むと、別の視聴者が答えを書き込む。


三日月の飛去来器クレッセントブーメラン


 姉須戸は杖を指揮棒のように振るうと、エネルギー状の三日月のブーメランが産み出され、ぐるりと飛び回ってウェーブウルフ達の首を狩っていく。


「アオオオオーンンンッ!!」


 仲間をやられたウルフヘンジは遠吠えをあげる。

 すると、ウルフヘンジの影から次々とウォーグが這い出てくる。


「ウルフヘンジはあのように延々と仲間を呼びます。またワーウルフなので一般的な武器には耐性があり、ダメージが通りにくいです」


 姉須戸はインバネスコートのポケットから投げナイフを取り出すと、ウルフヘンジにむけて投げる。


 ウルフヘンジは自分に向かって飛んでくる投げナイフを避ける様子もなく、命中しても刺さらず傷一つついていない。


「有効なのは魔法か銀製の武器です。どちらもない時は逃げるか頑張って倒しましょう。銀の魔弾シルバーオブマジックブレッド!」


 姉須戸は杖をライフルに見立てて構えると魔法を唱える。


 杖の切っ先から銀色の銃弾が放たれると、ウルフヘンジにまっすぐ向かっていく。


 ウルフヘンジはぎょっとした顔で慌てて銀の銃弾を避けるが、銃弾は弧を描いて曲がりウルフヘンジの背中に命中する。


「ギャオオオオン!!?」


 銀の銃弾が命中した箇所から盛大に煙が吹き出して苦しみもがくウルフヘンジ。

 ウルフヘンジの傷口から火傷が広がっていき、全身に広がるとそのまま燃え尽きたように崩れ落ちて霧散化すると同時に、ウルフヘンジに召喚されたウォーグ達も消えていく。


「召喚されたモンスターは召喚主が倒されると消えます。召喚されたモンスターは何もドロップしないんですよねぇ………」


 姉須戸はため息つきながらウォーグ達が居た場所をドローンカメラに映す。

 そこにはドロップ品なと一欠片もなかった。


「さて、ドロップ品ですが………ウォーグは本来毛皮や爪牙をドロップしますが、あまり価値がありません」


『したから数えた方が早い安さ』

『あんまり旨味がないんだよなあ』

『大抵のダンジョンにはウォーグはいるから供給過多ぎみ』


「ウェーブウルフですが、喉の音波発生気管が売れますね。ウルフヘンジは魔石のみです」


 姉須戸はモンスタードロップ品を解説していく。


「さて、今回のダンジョン探索はここまで。帰還します、お疲れさまでした」


『お、おつー』

『おつかーれ』

『乙』


「よろしければチャンネル登録と高評価お願いします」


 姉須戸は締めの挨拶をすると配信を終了した。

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