第36話 姉須戸・トンプソン・伝奇とイセリアルマローダーとイセリアルフィルチャーとイセリアルスカラベ


「先ほどは失礼しました。異獣に惑わされていた探索者チームも食料以外は被害ありませんでした」


『お帰り~』

『お帰りなさい』

『お、配信再開してる』


 姉須戸は一旦配信を止めて、異獣が召喚した飯綱や犬神に取り憑かれて踊り狂っていた探索者チームを地上に送り返し、配信を再開する。


『配信中断中アーカイブみてたけど、モンスターの種類って無駄に多いな』

『国やダンジョンによって違うのも凄い』

『生物学から独立してモンスター学ができるのも納得』


「そうやって興味もってもらえると嬉しいですね」


 姉須戸は配信視聴者達と雑談しながらダンジョンを探索していく。


「む? モンスターが現れましたね」


『なんだあれ?』

『巨大な手?』

『なんかピョンピョン跳ねてね?』


 ダンジョンを探索していると、姉須戸の進行方向に一匹のモンスターが現れる。


 モンスターの姿を見た配信視聴者達がいうようにその姿は奇怪で、人間サイズのうす緑色の巾着袋に人の顔のようなものが浮かんでおり、両サイドに二対の腕と二本の指先から鋭い鉤爪が生え、足に当たる部分に一本の太い腕が生えて倒立しているようにピョンピョン跳ねて移動している。


「あれはイセリアルフィルチャーですね。別名こそ泥といわれていて、方法は不明ですが攻撃を受けるとランダムで荷物を奪わって逃げていきます」


『地味にむかつくモンスターだな』

『こいつにその日のダンジョンアタックの稼ぎ盗まれて逃げられた』

『それはドンマイ』


 姉須戸がイセリアルフィルチャーについて説明すると、被害を受けたと思われるアカウントのコメントに同情の言葉が書き込まれていく。


「攻撃方法は爪による引っ掻きですが、一番気を付けないといけないのはっと!!」


 姉須戸がイセリアルフィルチャーについて解説している最中、イセリアルフィルチャーの姿が一瞬消えたかと思うと、姉須戸の目の前に現れて攻撃してくる。


「このように短距離テレポートを使ってくるので、間合いが読みにくいです」


 姉須戸は間一髪杖で受け止めて解説を続ける。


「弱点は顔が浮かんでる胴体の巾着袋部分です」


 姉須戸は杖でイセリアルフィルチャーの巾着袋のような胴体を突くと、イセリアルフィルチャーの胴体が破裂して石ころやら花やら色々なものを撒き散らしながら霧散化していく。


「イセリアルフィルチャーを倒すと、これまで盗んで溜め込んだ物がドロップします。大半はがらくたですがまれに当たりもあります。うん?」


 姉須戸は散乱したがらくたをドローンカメラで撮しながら解説していると、がらくたの中から何かが飛び出してくる。


「あれはイセリアルスカラベですね。イセリアルフィルチャーに食われていたようです」


 飛び出してきたのは成人男性の握り拳サイズのエメラルドのような光沢をもつ甲虫。

 脚が六本の触手になっており、何とか目で追えるスピードで飛び回る。


「臆病な性格で追い詰められない限り、滅多に攻撃してきませんが、噛みついて吸血して体力を回復したり、触手には麻痺毒の効果があります魔法の矢マジックアロー!」


 姉須戸は解説しながら魔法を唱えると、エネルギー状の魔法の矢が生成されて、イセリアルスカラベを穿つ。


 魔法の矢に貫かれたイセリアルスカラベは爆発し、空間に歪みが現れる。


「イセリアルスカラベは死ぬ瞬間、次元爆発と呼ばれる現象を起こします。大半は無害なのですが、ごく稀に別次元からモンスターを呼び寄せます」


 姉須戸が解説していると、空間の歪みから何かが無理やり這い出てこようとする。


「あれはイセリアルマローダーですね。異次元のワニなんて異名をもつモンスターです」


 空間の歪みから這い出てきたのは青白い鱗肌のワニ。

 普通のワニと違うのは前足と後ろ足に当たる部分に脚はなく、代わりに無数の触手が生えており、タコのようにノロノロ移動する。


「イセリアルフィルチャーと同じく短距離テレポート能力があるので、足が遅いと油断するとテレポートで間近に迫られます。このように」


 姉須戸が解説してる最中に、イセリアルマローダーはテレポートして、姉須戸に噛みつこうとする。


「イセリアルマローダーの噛みつきは金属すら簡単に圧壊させるので噛みつかれないように。噛む力は強いですが、口をあける力は弱いので、口のこの部分を踏むと無力化できます」


 姉須戸は解説しながらイセリアルマローダーの口を踏む。


 すると、イセリアルマローダーはじたばたともがき、必死に姉須戸の足をどかそうとするが口は開かず、触手の足は届かない。


『こんな弱点がっ!?』

『必死に戦ってたおれら………』

『わかってても踏みにいけるかな?』


「そして、ここの部分が鱗が薄く、重要器官がある場所に近いので、ここを刺すと一撃です」


 姉須戸は杖でイセリアルマローダーの背中を突き刺す。


 すると、イセリアルマローダーは電流を浴びたように跳ねて暴れるがすぐに霧散化していく。


「ドロップ品ですが、イセリアルスカラベからは宝石のような甲殻が価値があります。イセリアルマローダーからは触手が手に入り、薬品の触媒に使われます」


『スカラベの甲殻はいい色合いだな』

『マローダーの触手はさわりたくねえな』

『短距離テレポート能力知らないと焦りそう』


 姉須戸はドロップ品をドローンカメラに向けて撮し、解説する。


「さて、探索を再開しましょうか」


 姉須戸はドロップ品をポケットに収納すると探索を再開した。

 


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