第35話 姉須戸・トンプソン・伝奇と飯綱と異獣と犬神


「ふむ………何か魔力を感じますね」


 Eランクダンジョンを探索する姉須戸は何かに気づいたのか、足を止めると山高帽を押さえながら周囲を見回す。


『魔力?』

『モンスターか?』

『何か起こるのか?』


「あちらの方ですね………おやおや」


 魔力の方向がわかったのか、姉須戸は杖で進行方向を指しながら進んでいくと、狂ったように笑いながら踊る探索者集団を見つける。


『なにあれ?』

『怪しいお薬でもやったか?』

『こわっ!』


「おやおや、飯綱に犬神憑きですか………と言うことは異獣と遭遇しましたね」


姉須戸は躍り狂う集団をみて該当する知識があるのか症状を言い当てる。


「はい、これで正気に戻って!」


 姉須戸はポケットから塩を取り出すと、踊り狂う集団に向けてぶつけるようにふりかけ、柏手を打つ。


 すると、躍り狂う集団の口から半透明の犬や狐が這い出て慌てたように逃げていく。

 踊り狂っていた集団は動物達が抜け出すと、糸が切れたように崩れ落ちて眠っていた。


「今の狐が飯綱、犬が犬神と言う幽霊系モンスターです。相手に取り憑いて今みたいに異常行動を起こしたりします。以前紹介したように冷たい金属か魔法でしかダメージを受けません」


『取り憑いて異常行動起こさせるだけ?』


「大したことないように思えますが、回復してくれる人がいないと疲れ果てて衰弱するまで躍り続けたり、大きな病気をもたらせたりしますよ」


 姉須戸は飯綱と犬神を追いかけながら、視聴者の質問に答える。


「やはりいましたね。あれが異獣です」


 飯綱と犬神の逃げる先には異様に手足が長い白い獣猿が先ほど踊り狂っていた探索者達の荷物を漁って食料を貪っていた。


「長い手足を使った格闘術と、飯綱や犬神と言う幽霊系モンスターを召喚して探索者を襲い荷物を奪います」


『あまり知らないモンスターだな』

『こないだ荷物を奪われたとギルドで騒いでた探索者いたけど、異獣が原因か?』

『取り憑いて異常行動起こさせるとかオカルト系苦手』

 


「ウキキキギギ!!」


 飯綱と犬神が戻ってきたことに気づいた異獣は姉須戸の姿を見ると尻尾を逆立て、歯を向けて威嚇する。


「シッ!」

「ギャっ!?」


 姉須戸はパーリッツと呼ばれるイギリス流の杖術の構えを取ると、一歩踏み込んで杖で異獣を突く。


 異獣は姉須戸の攻撃を受けると、悲鳴をあげて下がり、飯綱と犬神を姉須戸に向かわせるように指差す。


「飯綱と犬神の対処法ですが、まずは飯綱は味噌に目がありません」


 姉須戸はポケットから市販の生味噌パックを取り出すと、蓋を開けて投げる。

 すると飯綱は、まるでチュールに夢中の猫のように一目散に味噌に飛び付きペロペロと舐め始める。


『やべ、ちょっと萌えた』

『かわいい』

『うちの猫みたいだな』


 配信視聴者達も飯綱の姿をみて癒されている。


「犬神は犬の修正をもつモンスターなので………ほれ、とってこい!」


 姉須戸はポケットからジャーキーを取り出すと遠くに投げる。


 すると、犬神はそのジャーキーを追いかけていき貪り食らう。


『モンスターとしての威厳がなくなったな』

『なんだろう、有用な知識なんだけど、緊張感が………』

『異獣が必死に戻ってこいと呼び掛けてね?』

『シュール』


 配信視聴者の指摘があったように、異獣は飯に夢中になっている犬神や飯綱に向かって戻ってこいと叫ぶように鳴き声をあげ、バンバンと長い手足で地面を叩く。


 だが、飯綱と犬神は異獣の声が聴こえてないのか、食事に夢中だった。


「異獣は肉体が存在するモンスターなので普通にダメージを与えられます。炎の槍フレイムランス!」


 姉須戸が魔法を唱えると、炎の槍が生成されて異獣に向かって飛んでいく。


 異獣は炎の槍を避けようと、長い手足を駆使して逃げ回るが、炎の槍には誘導装置でも備わっているのか異獣を追いかけ続ける。


「ホギャッ!?」


 最後は回避しきれなかった異獣の背中に炎の槍が刺さり、そこから中心に炎が広がって火達磨になっていく。


「飯綱と犬神は異獣が召喚したモンスターなので、召喚主である異獣が倒されると消えます。なので幽霊系モンスターにダメージ与える手段ない時は異獣を狙いましょう」


 姉須戸はそう締めくくりながらドロップ品を回収する。


「飯綱と犬神は召喚されたモンスターなのでドロップ品はありません」


『召喚されたモンスターはドロップないから、くたびれ損なんだよな』

『ドロップ品ないから無視して召喚主狙おうとすると、大抵召喚されたモンスターは召喚主守ろうとするからうざいんだよな』

『召喚されてない野生の飯綱や犬神だったら何が出るの?』


 姉須戸は召喚されたモンスターについて注意事項を伝えると、視聴者のから質問が来る。


「私の知識ではどちらも魔石のみですね」


『魔石のみか』

『売れるのが出るだけましかな?』


「異獣のドロップ品は毛皮です。加工すると魔法耐性のある革になるのでマントなどに使われています」


『お、Eランクの中では結構買取価格いいな』

『うーん、飯綱と犬神の対策出来たら狙ってもいけそう?』

『対策に失敗すると取り憑かれるけどな』


 姉須戸が異獣のドロップ品を解説すると、配信視聴者達から狩るかどうするか相談しあうようなコメントが書き込まれていく。


「さて、私は先ほど取り憑かれていた人達を助けて地上に戻りますので一旦ここで終了します。時間に余裕があれば探索の続きをしますので」


『はーい、おつー』

『一旦乙』

『召喚系モンスターはEランクから出てくるのか』


 姉須戸は配信視聴者達に一言断りを入れて配信を切ると、飯綱達に取り憑かれていた探索者の救助に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る