モンスター名:い行

第33話 姉須戸・トンプソン・伝奇とインプとイェンハウンドとイエロームスク


「さて、Fランクダンジョンで想定外のアンデッドモンスターが現れましたが、何か異常がないか、もう少し探索を続けてみます」


『無理せずに』

『ソロはやめとけ』

『もう帰還して上位ランクに調査任せましょうよ』


 姉須戸が探索続行を宣言すると、配信視聴者からは心配するコメントが書き込まれていく。


「ちょっとぐるっと回って様子を見るだけですらか。危なくなればすぐに逃げます」


『それフラグー!!』

『あかーん!!』

『まじで帰還しよ!』

『今すぐ帰るんだ!!』


 姉須戸は笑顔で視聴者に探索続行を伝えるが、台詞が悪かったのか帰還しろと言うコメントが次々と書き込まれていく。


「そうもいかないんですよ。彼方から麝香の香りが漂ってくるのですよ。その匂いの元が私の知ってるモンスターなら急いで駆除しないといけませんので」


『他の人に任せろって』

『というか、モンスター学の講師が危惧するモンスターとかヤバいやつやん!』

『誰かこのダンジョンに潜ってる探索者いないか?』


 姉須戸は麝香の香りがする方向を睨みながら進むと、枯れた木に巻き付く黄色い茨とそれを守るようにこちらを威嚇する犬と、コウモリの羽が生えた赤い赤子がいた。


「やはりイエロームスクが出没していましたか!」


『なにそれ?』

『絶対駆除モンスターじゃねーかっ!!』

『専門家じゃないと戦闘は避けないといけないモンスター!』

『姉須戸先生は専門家ともいえるぞ?』


 姉須戸は枯れた木に巻き付く黄色い茨をみて睨み付けるように叫ぶ。


 配信視聴者達もイエロームスクとよばれたモンスターの正体を知っているアカウントが大騒ぎしている。


「イエロームスクは植物型モンスターです。その香りは周辺からモンスターを呼び寄せますし、花粉を大量に吸うと意識が朦朧とし、イエロームスクに近づきたくなります。そして近づいてきた獲物に種を植え付けて繁殖します」


『特にこの花粉がやばくて、対テロ用の防毒マスク必須!』

『いや、姉須戸先生マスクとかしてないじゃん!!』


 姉須戸はイエロームスクがどういうモンスターなのか解説し、配信視聴者が細くするとコメント欄が騒がしくなる。


 そしてイエロームスクは姉須戸に反応すると目に見える量の花粉を撒き散らす。


操作する風コントロールオブウィンド!!」


 姉須戸は杖で地面を叩いて魔法を唱えると、四方八方から暴風が吹いて、イエロームスクの花粉を無効化する。


「ワオオオン!!」

「ギギギっ!!」


 姉須戸がイエロームスクの花粉を無効化したのを確認すると、即座に犬のモンスターとコウモリの羽が生えた赤い赤子が攻撃を仕掛ける。


 その犬はドーベルマンによく似てるが、皮膚はなく、むき出しの筋繊維をさらしており、吠え声をあげ、衝撃波が姉須戸に向かっていく。


 コウモリの羽が生えた赤い赤子は魔法を唱えたのか、魔方陣が展開され炎の矢が姉須戸に向かっていく。


魔法の盾マジックシールド!」


 姉須戸は落ち着いた様子で二体のモンスターの攻撃を魔法の盾で防ぐ。


「この皮膚のない犬はイェンハウンド、悪魔系モンスターで、吠え声や噛みつきには恐怖の感情を植え込む効果があります。特に吠え声の影響を受けた時に噛まれると、運が悪いとショック死します」


『こわっ!』

『コンボ決まると即死とか驚異じゃん!!』


 姉須戸は杖でイェンハウンドをさして解説する。


 イェンハウンドの特殊能力を説明すると、配信視聴者のコメント欄が騒がしくなる。


「あの赤い赤子はインプと呼ばれるモンスターで、攻撃や精神阻害系魔法を得意としています。魔法防御に自信がないなら優先的に倒してください」


 姉須戸がインプに向けて杖を向けると、インプは攻撃されると思ったのか、杖先から逃れようとする。


『こいつウザい上に警戒心高いのか、狙おうとすると逃げ隠れに徹するんだよな』

『インプに躍起になってると他のモンスターに殴られる』

『インプを無視すると、嫌なタイミングで魔法使ってくるゴミクソ』

『インプ死すべき、慈悲はない』

『すごいヘイトを感じる………』


 姉須戸がインプを解説すると、画面越しからでも恨み辛みや殺意の感情が読み取れるコメントが書き込まれていく。


「種や花粉が広域に撒き散らされてる可能性があるので滅却します。地獄の業火インフェルノ!!」


『うわっ!? 画面が見えなくなった!?』

『なにこれ? 故障?』

『姉須戸先生、無事ですか?』

『音が聞こえてくるから、カメラだけやられたみたいだけど………科学薬品工場の大火災のような音が聞こえるんですけど?』

『姉須戸先生本気の魔法?』


 姉須戸が魔法を唱えると、一瞬爆発による閃光が映像に映ったかと思うと、ドローンカメラからの映像が途絶えてブラックアウトする。


 配信視聴者のコメント欄では姉須戸の安否を確認するコメントや、映像が途絶えたことや聞こえてくる音に不安がるコメントが次々と書き込まれていく。


「すみません、ちょっと本気だしすぎてカメラが壊れたようです」


『姉須戸先生の声だ!』

『無事ですか?』

『びびった』

『モンスター倒した?』


「はい、私は怪我はありません。モンスターも討伐しました」


 姉須戸はドローンカメラの状態を確認しながら無事であることを報告する。


『よかった』

『まじで心配した』

『心臓に悪い』


「ご迷惑おかけしました。報告も予て帰還します。っと、その前にドロップ品を口頭で説明しますね」


 姉須戸はそう言うとがさごそと物を探す。


「イエロームスクからいきましょうか。イエロームスクからは種がドロップしますが、これは強制回収物になります。香りはいいんですけどね」


『カメラ壊れてどんな形なのかわからねえ』

『検索したら麻薬扱いじゃねーか!』

『うわ、申告漏れしたら違法薬物不法所持扱いで罰則がつくとかきついな』

『でも、安全に加工したアロマキャンドルもあるな』


 姉須戸がイエロームスクのドロップ品を説明すると、ネット検索した視聴者達がコメントを書き込む。


「続いてイェンハウンドからは牙がドロップします。これを特殊加工してナイフにすると、傷つけた対象にごく稀に恐怖のバッドステータスを与えることができますよ」


『加工代金高いな』

『発動率がごく稀かあ』


「最後にインプですが、指と羽が価値あります。指は使い捨てですが魔法の威力増大、羽は煎じて飲むとMP回復します」


『指は便利なんだが、ビジュアルがな』

『赤子の切り取った指を持ち歩いてるようにしか見えねえ』

『サイコパス?』

『羽も原材料にさえ目をつぶれば』


「さて、帰還して協会にも報告をしないといけないので今日はここまで。次回はカメラが治り次第と言うことで。チャンネル登録や高評価よろしくお願いいたします」


『おつー』

『おつかれー』

『もうこんな無茶しないでくださいね』

『か、勘違いしないでよ! 別に心配だったわけじゃないんだからねっ!(当方メタボハゲおっさん)

『てめー、想像しちまったじゃねーか!』


 コメント欄が騒がしい中、姉須戸はダンジョンから帰還した。


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