第23話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアスペリとアーシュドレイク


「おや、あれはアスペリの群れですね」


 Eランクダンジョン第二階層の高原を探索する姉須戸は水場を見つける。

 そこには白銀の鬣、黄金のような輝きをもつの体毛のアスペリと言う馬のモンスターの群れが喉を潤していた。


『綺麗………』

『綺麗なものを見ると言葉が出ないってこういうことだな』

『乗ってみたい』


 配信視聴者達もアスペリの美しさに見とれていたのかしばしコメントが途絶え、誰か一人が綺麗と書き込むと、思い出したかのようにアスペリの美しさを誉めるコメントが次々と書き込まれていく。


「アスペリは警戒心が強く、下手に近づくと逃げます。追い詰められるか、育児中の親子に近づかない限りは攻撃されることはありません」


 姉須戸は少し離れた場所からアスペリを観察しながら解説する。


「また、テイムモンスターとしても高値で売買されております。子馬で凱旋門賞とった競走馬並みの値段がつくとか」


『密猟者じゃないけど、狙う探索者多そう』

『テイムスキルとかもってる探索者少ないのも高値の理由なんだよな』

『いやでもあの美しさから欲しがるのはわかる』

『あと国によってテイムモンスターに関する法律が違うし、大抵複雑だから』


「ドロップ品でもある鬣は様々な工芸品に使われますし、皮もいい値段で買い取られます………おや?」


 姉須戸がアスペリのドロップ品について解説していると、アスペリの群れが警戒したように頭を上げて周囲を警戒し始める。


『姉須戸先生がばれた?』

『お金の話したから欲望に気づかれた?』

『トモダチ、トモダチ』

『プルプル、僕悪い人間じゃないよ』

『余計警戒されそう』


 ヒヒーンとアスペリの一匹が嘶きを上げると、アスペリの群れは一斉に水場から離れ、空に向かって走り出す。


『飛んだ!?』

『いや、どちらかと言うと、空気を蹴って走り出した?』

『アスペリはペガサス?』


「はい、アスペリの特殊能力である風駆けです。アスペリは風が吹く場所ではその風に乗って空を駆けることができますし、風系の魔法が使えます」


 突然空を駆けるアスペリの姿に配信視聴者達は驚くが、姉須戸は落ち着いた様子でアスペリの解説を続ける。


「どうやら逃げ出した理由はあれのようですね」


 姉須戸が杖で指した方向から、滑空するように一匹のモンスターが水場に降りてくる。


 その姿は犬の胴体と尻尾に蝙蝠の羽、鱗の生えた四足の脚、頭頂部から首の付け根に棘が生えたドラゴンのような頭のモンスターだった。


『ドラゴン?』

『いや、ドラゴンっぽいけどなんかちがくね?』

『姉須戸先生、あのモンスターは何ですか?』


「あれはアーシュドレイク、モンスター学の間でもドラゴンに含むかで揉めてるモンスターです。因みに私は含まない派閥です」


 アーシュドレイクと呼ばれたモンスターは水場に頭を突っ込んでガブガブと水を飲んでいたが、急に何かに気づいたように頭を上げて周囲の匂いを嗅ぎ始め、姉須戸がいる方向に向かっていく。


「どうやら私の匂いに気づいたようですね。アーシュドレイクは獰猛で執念深いので逃げるのはかなり難しいと思ってください」


 姉須戸は杖を構えて戦闘体勢をとりながらアーシュドレイクと対峙する。


「ガアアアッ!」

「っと!!」


 アーシュドレイクは姉須戸の姿を見ると、跳躍して飛びかかってくる。

 姉須戸は杖でアーシュドレイクの攻撃を流し受けて横に回避する。


「ガアオオン!!」


 攻撃をかわされたアーシュドレイクは着地と同時に、背中の棘を姉須戸に向けて飛ばしていく。



「アーシュドレイクは背中に生えた棘を飛ばしてきます。棘には毒があるので気をつけてください 魔法の盾マジックシールド!」


姉須戸は解説しながら不可視の盾を展開して、アーシュドレイクの棘を防ぐ。


「ブワアアアアーッ!!」


 アーシュドレイクは棘を塞がれたのを確認すると、即座に喉を膨らませてガスを吐き出す。


「アーシュドレイクは麻痺毒のブレスを吐き出します。しかも皮膚浸透型なので絶対に触れないでください。風の盾ウィンドウォール!!」


姉須戸は魔法を唱えて風の壁を作る。すると、アーシュドレイクが吐き出した麻痺毒のブレスは風の壁に阻まれてかき消されていく。


『本当に危険な攻撃方法なんだろうけど、姉須戸先生が対処慣れしすぎてて危険なのが伝わらない』

『それな!』

『と言うかEランクダンジョン、毒もち多くね?』

『このダンジョンがそうなだけで、他のとこは違うぞ』


 姉須戸がアーシュドレイクの攻撃を防御しながら解説していると、配信視聴者達から緊張感が伝わらないなんてコメントが書き込まれる。


「それだけモンスターの生態を知識として覚えていると、落ち着いて対処できますよ。氷の突撃槍アイスランス!」


 姉須戸が呪文を唱えると、巨大な氷柱が生成されてアーシュドレイクを貫通するように貫き、アーシュドレイクは霧散化していく。


「アーシュドレイクのドロップ品は、鱗や棘、そしてブレス袋ですね。とくにブレス袋は高値で売れますが、これも薬事法関連の免許が必要です」


 姉須戸はドロップ品を拾って視聴者に見せる。


『ブレス袋、なんか肺みたいな見た目と形だな』

『時折内蔵そのものがドロップするんだよな』

『始めてみた時は悲鳴上げた』

『売り物とわかっていても素手では触りたくない』


「さて、そろそろMPもきついので帰還します。本日の配信はここまで、チャンネル登録高評価よろしくお願いします」


『おつー』

『おつかれー』

『お疲れさまでした』


 姉須戸はアーシュドレイクとの戦闘を終えると地上へ帰還した。

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