第22話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアナベアーとアーマン


『姉須戸先生しつもーん!』


「はい、なんでしょうか?」


 Eランクダンジョンの第二階層である高原を探索中、配信視聴者から質問コメントがくる。


『姉須戸先生はかなり魔法を使ってますが、MPとか大丈夫なんですか?』


「まだ余裕はありますが、次かその次の戦闘辺りで探索を切り上げて帰りたいところですね」


『魔法スキルとか詳しくないけど、姉須戸先生だいぶ使ってるよな?』

『当方魔法使い系Eランク探索者。知らない魔法を使ってるので消費量はわからないが、俺なら姉須戸先生の半分でMP尽きて帰還する』

『そういえばこの人まだEランクになったばかりなんだよな?』

『大抵のモンスター魔法や杖でほぼ一撃で倒しててベテランと錯覚してた』

『年配で貫禄もあるし、モンスター学の先生だから勘違いしてしまう』


 配信視聴者からMPの消費量を心配されるが、姉須戸はまだ余裕があると答える。

 すると、別の魔法使い系の視聴者からあり得ないとコメントが書き込まれると、コメント欄がざわつく。


「おや、あそこにモンスターがいますね」


 そんな最中、姉須戸は杖でモンスターがいる方向を指す。

 ドローンカメラが姉須戸が指す方向に向くと、岩穴に頭を突っ込んでる熊の後ろ姿があった。


『あのモンスターなにやってるんだ?』

『て言うか、すごい爪だな。岩穴削って広げてるぞ』

『なんか、腕の長さ可笑しくね?』


 配信視聴者の一人が指摘したように、岩穴に頭を突っ込んでる熊と思われるモンスターは両手から生える鉤爪で岩を削り取り、穴を広げて体を押し込んでいく。

 よくみればその腕は手長ザルのように長かった。


『あ、洞窟の奥から別のモンスターが引きずり出されてる』

『あれはアルマジロ?』


 岩穴を掘っていた熊のモンスターは、岩穴に潜んでいたアルマジロのようなモンスターを鉤爪で引っ掻けて引きずり出す。


「あれはアナベアーとアーマンですね」


 アナベアーと呼ばれたモンスターの姿はほぼ熊に近かった。

 違うのは口の部分がオオアリクイのようになっており、チロチロと長い舌を出し入れしながら異様に長い前足でアーマンを押さえつける。


 アーマンと呼ばれたモンスターは人間サイズの見た目はほとんどアルマジロだった。ただ甲羅は金属みたいに光沢を放ち、穴熊に負けない鋭い爪で抵抗して丸まろうとする。


「アナベアーはあの見た目通りほぼ熊のモンスターです。力も強く、あの爪は金属の鎧すら引き裂きます」


 姉須戸が解説している通り、アナベアーの鉤爪はアーマンの甲羅をガリガリと削り、傷をつけていく。


「アーマンは比較的臆病なモンスターで、こちらから攻撃しても丸まって転がりながら逃げます。とはいえ追い詰めると窮鼠猫を噛むと言う言葉通り爪や丸まって体当たりなどで反撃してきますので気を付けて」


 姉須戸が二匹のモンスターについて解説していると、モンスターの攻防の軍配はアナベアーに上がった。


 アナベアーのその鋭い鉤爪がアーマンの甲羅を力ずくで剥がし、その柔肌に噛みつく。


 アーマンは絶叫を上げて踠くが、最後は力尽きて霧散化していく。


「アナベアーの噛みつきは絶対に回避してください。噛みつかれると、あの長い舌が体内にねじ込まれて、内部で舌を暴れさせて内蔵とかをぐちゃぐちゃにします」


『想像したら鳥肌たった』

『ほぼ動物に近い見た目のモンスター達だな』

『アローバードといい、モンスター同士も争うんだ』


「ガオオオオンッ!!」


 姉須戸が解説していると、アナベアーは姉須戸の存在に気づいたのか、雄叫びを上げて襲いかかってくる。


『はやっ!?』

『普通の熊も時速五十キロ出せるからな』

『画面越しでもこええええ!!』


岩壁ストーンウォール!」


 姉須戸は迫ってくるアナベアーに対して落ち着いた様子で魔法を唱える。


 すると、アナベアーの目の前に突如岩の壁が盛り上がり、アナベアーは岩の壁に激突する。


『うわ、痛そう』

『えぐい音』

『音聞いただけで頭痛くなってきた』


「グッ………ガッ………」


 アナベアーは脳震盪でも起こしたのか、フラフラしたかとおもうと、膝から崩れ落ちる。


「アナベアーの倒し方はとくにありません。先ほども言ったように噛みつきに気をつけてください。魔法の鮫の噛みつきマジックシャークバイド


 姉須戸は解説しながら魔法を唱えると、エネルギー状の巨大な鮫が空中に現れ、アナベアーを一口で噛み殺し、アナベアーを霧散化させて消滅する。


「さて、アナベアーのドロップ品ですが、毛皮と爪と肉です。ただアナベアーの肉はかなり好みが別れる独特な味で、ダメな人はその場で廃棄するぐらいです」


『そういわれると気になる』

『昔モンスター肉を出す飲食店あったけど、アナベアーの肉は同意書が必要だった』

『まじでどんな味だ?』


 姉須戸がアナベアーのドロップ品について解説すると、配信視聴者達はアナベアーの肉の味に興味を示す。


『ところで姉須戸先生、アーマンの倒しかたと、ドロップはわかりますか?』


「アーマンですか? 物理だと甲羅と甲羅の隙間をぬって攻撃か、鈍器で甲羅を割って柔らかい部分を攻撃するかですね」


 姉須戸は配信視聴者からのアーマンに関する質問に答える。


「ドロップ品は甲羅や肉です。甲羅は防具として加工できます。肉は鹿肉近い淡白な味です。さて、探索を再開しますね」


 姉須戸はそう言うとダンジョン探索を再開した。

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