第21話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアビルの獣達
Eランクダンジョン第二階層の高原を探索していた姉須戸は、突如足を止めて周囲を伺う。
『どうした?』
『トイレか?』
『トイレだったら配信きってくださいよ』
『それともまたはモンスター?』
だが姉須戸は配信視聴者のコメントに目を向けず、身を屈めて杖を構えて周囲を伺う。
『あ、これガチかも』
『ドローンカメラが映す風景にはモンスターいなそう』
『擬態系か?』
配信視聴者達がそんなコメントを書き込んでいると、姉須戸は何かに気づいたのか、近くの岩に杖を突き立てる。
すると、岩からじわりと血が流れ始め、岩に溶け込むように擬態して潜んでいたモンスターの姿が現れる。
その姿は一言で例えるなら大型犬サイズのカメレオン。
一般的なカメレオンと違うのは頭部が中心からぱっくりと左右に別れる口になっていたことだった。
『うわっ! まじで擬態してたっ!!』
『カメレオンみたいなやつか!』
『と言うか、なんでわかったの?』
「アビル・カーと言うカメレオンに近いモンスターです。皮膚が周囲の環境と同じ色に染まって擬態します」
「ガギッ!?」
姉須戸はグイッとアビル・カーに突き刺していた杖を捻って傷口をえぐる。
アビル・カーは痛みに暴れ、割れた頭からカメレオンのような舌を出して杖に巻き付けて抜こうとするが、姉須戸との力比べに負けたのか、抜くことはできず、そのまま絶命して霧散化する。
「主な攻撃方法は擬態で姿を隠して頭部に見える口で噛みつくか、舌を使って拘束して蛇のように飲み込みます」
『姉須戸先生、どうやって気づいたんですか?』
『俺も気になる』
『教えてください! 僕にできることなら何てもしませんから!』
『いや、しないんかい!』
配信視聴者達はアビル・カーの擬態の見破る方法を聞いてくる。
「アビル系モンスターは濃い硫黄の匂いを漂わせます。それが近くにいるヒントで、あとは勘です。そしてアビル系は群れを形成するモンスターなので、カーがいると言うことは」
姉須戸は足元の石を蹴って飛ばすと、石が着々した地点が盛り上がり、地面の下から灰色の球体に四本の腕と足がついたモンスターが飛び出してくる。
「やはり、アビル・モーもいましたね。地面の中に潜んで振動で獲物を判別します。主な攻撃方法は球体の真ん中にある縦に裂けたような口による噛み砕きです」
姉須戸が解説すると、それに答えるようにアビル・モーと呼ばれたモンスターの体の真ん中が頭から足元まで裂けて鋭い牙が乱立した口になる。
『うへ、トラバサミみたいな口』
『実際地面の中で口を開いて待ってて噛みつくからな』
『あんなのに噛まれたら一発で足食いちぎられそう』
アビル・モーの口を見た配信視聴者達かコメントを書き込む。
「そして、やはりいましたね。アビル・ラヴィージャー!」
そして、近くの岩場の上から姉須戸を見下ろすように現れたのはアビル・ラヴィージャーと呼ばれる巨大な灰色のハイエナ。
その背中から尻尾にかけて針ネズミのような無数の棘が生えており、棘の先端からは毒々しい液体が滴り落ちる。
「アビル・ラヴィージャーの攻撃方法は爪牙、そして尻尾を鞭のようにしならせて棘を刺してきます。見てわかるように、棘には毒があり、血が止まらなくなります」
アビル・ラヴィージャーは身を低く屈めて尻尾を立てて威嚇するよう唸る。
「アビル系はだいたいこの三匹がセットで出てきます。カーが斥候や誘導、モーが足止めとタンク、ラヴィージャーがアタッカーです」
『Eランクで連携とってくるモンスターがいるのか』
『カーとモーは擬態で姿を隠してるのが厄介かも』
『ソロでは会いたくないな』
アビル・ラヴィージャーは姉須戸に飛びかかる。
姉須戸がアビル・ラヴィージャーの攻撃を回避するように飛び退くと、飛び退いた先にモーが口を開いて待ち構えている。
「アビル・モーはタンカーと呼ばれるだけあって外皮が金属みたいに固いです。ですが、口の中は柔らかく弱点てもあるので槍など長物があれば口の中を攻撃してください。
姉須戸は魔法を唱えると、地面から無数の石でできた槍が次々と生えてくる。
その無数の石の槍は、穂先を伸ばしてアビル・モーの口を次々と貫いていき、それが止めになったのかアビル・モーは霧散化していく。
「おっと!」
姉須戸がアビル・・モーに魔法で攻撃をしていると、アビル・ラヴィージャーが鞭のような尻尾を駆使して叩きつけようとしてくる。
姉須戸は山高帽を片手で押さえながら、それを右へ左へと飛び退いて回避して距離を取る。
「あ、そうそう、アビル・ラヴィージャーは炎に対するダメージ耐性をもっているので、火を使った攻撃はあまり効果ありません。
姉須戸はアビルラ・ヴィージャーの炎耐性について配信視聴者達に注意して魔法を唱える。
すると、アビル・ラヴィージャーの周辺だけ猛吹雪が吹き荒れ、アビル・ラヴィージャーは氷漬けにされてしまう。
「ドロップ品ですが、まずカーからは皮がドロップします。因みにこの皮、特殊な処理をすると周囲の風景に染まるような擬態能力を発揮します」
姉須戸はアビルカーのドロップ品である皮を広げて見せながら解説する。
「アビル・モーも皮をドロップします。加工するとかなり丈夫な防具素材になるので覚えていてください。アビル・ラヴィージャーは毛皮と棘、あと尻尾ですね。尻尾は加工すれば鞭として使えますし、ダメージと共に毒を付与します」
『そこそこ売れそうな素材』
『擬態系防具高いんだよなあ』
『色々知ってますね、流石モンスター学の先生!』
姉須戸がアビル系モンスターのドロップを解説すると、配信視聴者から次々とコメントが書き込まれていく。
「さて、探索を続けましょうか」
ドロップ品をインバネスコートのポケットに収納すると、姉須戸はダンジョン探索を再開した。
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