第17話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアヴィーリング


 探索を再開した姉須戸はしばらくダンジョンを進んでいたかと思うと、突然足を止めて耳を押さえる。


『姉須戸先生、どうしました?』

『モンスターの攻撃?』

『大丈夫ですか?』


 配信視聴者達も姉須戸の変化を心配するコメントが次々と書き込まれていく。


「すみません、急に激しい耳なりに襲われて………どうやら近くにアヴィーリングがいるようですね」


『アヴィーリング?』

『姉須戸先生、どんなモンスターですか?』

『そのモンスターがいると耳なりするのか?』


 姉須戸は深呼吸を繰り返して体調をコントロールすると、ドローンカメラに顔を向けてモンスターの名前を口にする。


「人間サイズの蝙蝠型モンスターです。いましたね、あれですよ」


 姉須戸がダンジョンを少し進むと、進行方向の天井に逆さにぶら下がっている巨大蝙蝠がいた。


 全身は黄緑色のラバー質な肌、羽の被膜部分は黄色が濃く、逆に頭部は緑色が濃かった。

 その蝙蝠には目がなく、かわりにカタツムリのような突起物が両目部分にありうねうねと動いている。

 そして何より特徴的なのはその体からだらりと垂れ下がる尻尾。

 尻尾の先端はラクビーボールのように膨らんでおり、無数の皮膚が突起したような瘤があって。


『このダンジョン、全体的にキモいモンスター多いな』

『知り合いの探索者がキモい系苦手でダンジョンがトラウマになって引退したけど、何となく気持ちわかる』


 アヴィーリングの姿を見た配信視聴者達はその気味の悪い姿にキモいなどネガティブなコメントを書き込んでいく。


 アヴィーリングはどうやって姉須戸の姿を認識しているか不明だが、威嚇するように羽を広げて自分の姿を大きく見せ、口を開く。


「おっと!!」


 アヴィーリングが口を開くと同時に、姉須戸は横に飛び退く。

 すると、先ほどまで姉須戸がいた地面が破裂する。


『は?』

『ふぁ!?』

『なにごと!?』


 突如破裂した地面をみて、配信視聴者達は驚いたようなコメントが書き込まれていく。


「アヴィーリングの超音波攻撃です。口の中に音波を収束して指向性能を持たせて発射する器官があります。口を開けたら射線から外れることをおすすめします」


『音波攻撃!?』

『初見だと絶対食らったな』

『見えない攻撃はレギュレーション違反だぞ!!』


 配信視聴者達はアヴィーリングの超音波攻撃に対して次々とコメントを書き込んでいく。


「この攻撃の影響で耳鳴りがするんですよ。特に高速エレベーターに乗ると耳が痛くなる人ほど影響が大きいですよっと!!」


 姉須戸が大きくローリングしながら飛び退くと、今度は姉須戸が居た場所にアヴィーリングの尻尾が叩きつられ、ガァンと大きな音がなる。


『尻尾もやべえええええ』

『て言うか、いつ動いた?』

『指向性能を持たせた音波の遠距離に、近距離の尻尾とヤバイな』

『Eランクダンジョンでこの強さなのか』


「アヴィーリングがEランクでは上位にはいる強さを持っているモンスターですよ。あの皮膚からみてわかるように、ゴム質で生半可な攻撃は弾力で軽減されますし、電撃系も効きにくいです」


 姉須戸はアヴィーリングの皮膚の弾力性を知らせるように、杖で叩く。

 アヴィーリングが杖で叩かれたが、その皮膚の弾力性からほとんどダメージを受けた様子がなさそうにみえる。


「対処法としましては物理なら斬撃か、炎系の魔法が有効です。ただ、斬撃は鋭くないと跳ね返される可能性があります。熱光線スコーチドレイ


 姉須戸はアヴィーリングの対処法を伝えながら杖をアヴィーリングに向けて魔法を唱える。


 すると、姉須戸の杖の先端から熱光線が複数同時に放たれ、アヴィーリングの体を貫通して穴を空ける。


「アヴィーリングのドロップ品はゴム質の皮膚です。絶縁体や対衝撃材として防具に使われたり、撥水性からカッパやシートにも利用されています。あとこの音波発生器官が高く売れます」


 アヴィーリングが霧散化してドロップ品がその場に残ると、姉須戸は一つ一つ回収して解説する。


 音波発生器官は舌のようになっており、先端に穴が空いていた。


『勉強になるな』

『早く受益可能にならないかな? このチャンネルは金を払う価値がある』

『一般に出回ってるモンスター情報って中途半端なんだよな。大抵は名前とドロップ品ぐらい』

『だいたい仲間内だけで情報共有してたりする』


 配信コメント欄ではモンスター情報についてあれこれコメントが書き込まれていく。


「収益化するにはまだまだ登録者が少ないですからねぇ。コツコツやらせていただきますよ」


 姉須戸は視聴者に向けてそういうと、探索を再開した。

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