第16話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアーシュラット


「うん? この匂いは………」


 アーレーイニを倒してしばらく探索していると、姉須戸は足を止めてクンクンと周囲の匂いを嗅ぐ。


『配信画面越しだとどんな匂いかわからん』

『姉須戸先生、どんな匂いですか?』cn

「そうですね………木が燃え尽きた焦げ臭い匂いです。こういう匂いがする場合、炎のブレスを吐くモンスターが連想されます」


 姉須戸は視聴者の質問に答えながら何度も匂いを嗅いで、匂いの元を探す。


「煙? まだどこかで燃えてるのですかね?」


 焦げ臭い匂いの元を探ってダンジョンを進んでいくと、進行方向の通路から煙が漂う。


『ダンジョン内で火事か?』

『そんなことあるのか?』

『姉須戸先生気を付けて』


 煙をみた配信視聴者からは心配のコメントが書き込まれていく。


「あそこにモンスターがいますね」


 姉須戸は煙で充満している通路を杖で指す。


『何処だ?』

『煙しかみえねえ』

『ん? 何か動物っぽい影がみえたような?』


 配信視聴者達からはアネストが言うモンスターの姿がわからず、何処だ何処だと騒ぐ。


「ふむ、あれですよ」

「ヂュッ!?」


 姉須戸は通路の石を拾うと、煙の中に投げる。すると煙の中から鼠の悲鳴が聞こえてくる。


『煙の中に隠れてるのか?』

『わかりにくいな』

『て言うか、モンスターは煙の中にいて生きてられるのか?』

『姉須戸先生はモンスターの正体がわかったのですか?』


「ええ、アーシュラットと呼ばれる火と煙が鼠の形になったモンスターです」


 姉須戸は視聴者の質問に答えるように、煙の中にいるモンスターの正体を解説する。


「ジュアーッ!!」

「おっと、まほうの盾マジックシールド!!」


 アーシュラットが叫び声を上げると扇状に炎が吐き出されるが、姉須戸は攻撃を予測しており、魔法の盾で炎のブレスを防ぐ。


「アーシュラットは口から火を吹くことができますが、一度吐くと三分のインターバルが必要です。また非実体モンスターなので、以前言ったような対非実体武器が必要ですよっと!」


 姉須戸はアーシュラットの特殊攻撃や非実体について解説するが、解説している間に煙が鼠の形になって姉須戸に体当たりしようとするのを回避する。


「他にも本体が煙と火でできてるので、今のように空中を飛んで攻撃してきます。ただ、長時間の飛行能力はないようです。しかし、下手に攻撃を受けると火傷するので気を付けて」


 アーシュラットはしつこく姉須戸に体当たりを繰り返し、姉須戸は解説しながら攻撃を回避する。


 姉須戸が言うように、アーシュラットが着地した場所は焦げており、通路に落ちてるごみや埃に引火したりしていた。


「万が一、非実体モンスターへの対策手段持ってない場合、アーシュラットなら水をかけてください。 水圧撃ハイドロポンプ!!」

「ギュワーッ!!!」


 姉須戸が杖をアーシュラットに向けながら魔法を唱えると、杖の先端から高圧の水が噴射されてアーシュラットを押し戻す。


 ジュワーっと高熱の金属に水をかけたような音と水蒸気と共に、アーシュラットが苦しみながら悲鳴をあげ、鼠の形をした煙のサイズがどんどん小さくなって、最後は消えていった。


『そんな倒しかたあるのっ!?』

『俺ら戦闘回避して逃げてたな』

『でも、倒そうとしたら結構な水量いりそう』


 姉須戸が教えた水をかけて倒す方法に配信視聴者達は驚きのコメントが書き込まれていく。


「アーシュラットのドロップ品で価値があるのは、この灰です。別のモンスターからドロップする染料の染色に使います」


『ほーん』

『このモンスターの灰以外だと効果ないのか~』

『ある程度需要はあると>灰』


「さて、もう少し探索を続けてみましょうか」


 姉須戸はコートについた埃を払うと、探索を再開する。

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