第14話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアイアンイーター


「しかしダンジョンと言うものは不思議ですねえ。ダンジョンごとに内部が違いますね」


『そうなん?』

『洞窟タイプや遺跡タイプが多いイメージ』

『俺大草原タイプに遭遇した時脳が混乱した』

『Aランクに近未来な研究施設っぽいダンジョンがあったな。モンスターは機械系で、トラップがレーザータレット』

『なにそれ! めっちゃ興味ある!!』


 姉須戸がダンジョン内部の風景について口にすると、配信視聴者のコメント欄には探索者と思われるアカウントが自分が経験したダンジョンの風景について書き込む。


『姉須戸先生、ダンジョンで気を付けるべきことってあります?』


「たくさんありますよ。その中でも一番大切なのは不意をうたれないこと。ダンジョンモンスターの中には擬態したり、天井に張り付いて獲物を待ち伏せたりとか………あ!」


 姉須戸が視聴者の質問に答えながら、魔法の明かりで天井を照らすと錆色の巨大なアメーバが天井を這っていた。


『ワロタ』

『姉須戸先生、仕込みちゃうよね?』

『ヤラセではないけど、タイミング良すぎてお茶吹いた』

『アイボールといい、またキモいモンスター』


 明かりに照らされた錆色の巨大なアメーバモンスターはべしゃりと落下すると、威嚇するようにうねうねと体を大きく見せる。


「あれはアイアンイーターですね。前衛の不倶戴天とも言われています」


『アイアンイーター死すべし、慈悲はない』

『アイアンイーターは根切り、族滅じゃ!!』

『アイアンイーターころちゅ!』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

『なっ、なんだ? スッゴいヘイト送ってる人たちがいるぞ!?』


 姉須戸が落ちてきた巨大なアメーバモンスターを紹介すると、一部視聴者がアイアンイーターに対して異常な殺意やヘイトを向けるコメントを書き込む。


「あー、アイアンイーターは天井から落下して獲物に纏わりついて、名前の通り金属を食べるんですよ。金属系の防具や武器を持ってる人からすれば天敵です」


『買ったばかりの剣食われました』

『鎧食われて修理費で1ヶ月モヤシ生活しました』

『金かけた高性能ドローンカメラ食われました』

『過去にスタンピードで建築中のビルの鉄骨など喰われて、建物が倒壊しました』

『外国のスタンピードでレアメタル鉱山やられて、一時期レアメタルが枯渇しかけた』

『うわぁ………』


 姉須戸がアイアンイーターの特殊能力を解説すると、怨み辛みの籠った被害報告がコメント欄に書き込まれていく。


「食べる速度は遅いので、万が一纏わりつかれた時はこのように弱点の火で攻撃してください。炎の矢フレイムアロー


 姉須戸が魔法を唱えると、矢の形をした炎が現れ、アイアンイーターを穿つ。

 炎の矢に射たれたアイアンイーターはブクブクと沸騰したように泡立ち、縮小して消滅していく。


『このご時世、アイアンイーターを倒せるほどの火を持ち歩いてるかな?』

『そう言えば別のダンジョンでキャンプ用のガスバーナー持ち歩いてたけど、アイアンイーター対策かな?』

『ライターじゃ駄目か?』


 姉須戸がアイアンイーターの弱点を伝えると、コメント欄には弱点がわかっても持ち歩ける火について議論が始まる。


『姉須戸先生、万が一火を持ってなくて纏わりつかれた時は?』


「その時は暴れずじっとして、金属製装備を諦めてください。アイアンイーターは金属を食べるだけで、人体には害はありません。食べ終えれば勝手に去っていきます」


『金属装備って、結構お値段高いんだけどなぁ』

『諦めるには額が………』

『俺もキャンプ用のガスバーナー持ち歩くか?』


 視聴者の一人が質問すると、姉須戸は質問に答えるが、他の視聴者達は装備コストから諦めきれないコメントが書き込まれていく。


「嫌われ者のアイアンイーターですが、レアドロップ品として、アイアンイーターがこれまで食べた金属の合金塊が出ることが希にあります。これ、宝くじレベルですが、過去に億単位で買い取られたことがあります」


『ファッ!?』

『億単位!?』

『マジだ!(URL)』

『三億で買取りされてるううう!!!!!』

『狙うか?』

『億単位は現在までこの一件だけか。ギャンブル過ぎるな』


 姉須戸がアイアンイーターのレアドロップについて話すと、配信コメント欄は騒然となる。


「今回は魔石のみでしたが、頭のすみにでも覚えていてください」


 姉須戸はそう締め括ると、探索を再開した。


 

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