第13話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアイボール
「皆さん、おはようございます。姉須戸です。ダンジョン探索の前にお知らせがあります」
本日もダンジョン探索を開始した姉須戸は、ドローンカメラに向かって挨拶し、高山帽を脱いでお辞儀する。
『姉須戸先生おはようございます』
『出席しますた』
『お知らせってなんだろ?』
『ん? いつものFランクダンジョンじゃない?』
配信コメント欄にはポツポツと配信視聴者のコメントが書き込まれていく。
視聴者の一人がコメントしたように、配信動画に映っている背景がいつものFランクダンジョンとは違っていた。
「はい、私姉須戸は本日をもってEランク探索者に昇進しました。本日は都内某所にあるEランクダンジョンを探索してみたいと思います」
『おめー!』
『ランクアップおめでとうございます』
『FからEにいく条件って?』
『登録してから最低ダンジョンに二回ほど潜り、モンスターとの戦闘を行い、申請してから一週間後に発行』
『意外と簡単だな』
『Cランクまでは楽だよ。Cから上は難しい』
姉須戸が配信でランクアップしたことを報告すると、視聴者からはお祝いのコメントが流れる。
「それでは早速Eランクダンジョンを探索してみたいと思います」
『Eランクはどんなモンスターが出るのかな?』
『この配信、モンスター学の講師がやってるから役に立つ』
姉須戸はいつものインバネスコートに高山帽にスリーピーススーツ、ステッキとイギリス紳士スタイルでダンジョンを探索する。
今回挑戦するEランクのダンジョンは古代遺跡のような石造りの通路が続くダンジョンだった。
「早速モンスターがいましたね」
『なんだあれ?』
『風船?』
『いや、皮膚に包まれた眼球だ! きもっ!?』
ダンジョン探索をしていた姉須戸は早速モンスターを見つけたのか、杖でモンスターがいる方向を指す。
ドローンカメラが姉須戸が指す方向に向くと、視聴者の一人がコメントしたようにピンク色の皮膚に包まれた一つ目の眼球が風船のようにふわふわと浮いていた。
「あれはアイボールと呼ばれる、他のモンスターと一緒に現れると厄介なモンスターです」
『他のモンスターと?』
『単体ならそうでもないとか?』
『姉須戸先生、解説お願いします』
姉須戸は風船のようにふわふわと浮かぶアイボールの正体を解説する。
「単体ではあまり驚異ではありません。まず彼らは自力で動けません。他の生物に押してもらうが、風に乗って移動します」
『まじで風船みたいな生態だな』
『確かに自力で動けないなら逃げれるな』
『とすると、何が厄介なんだ?』
アイボールはこちらに気づいていないのか、ただダンジョン内の通路に浮かんで漂う。
「まず気を付けるのは視線です。アイボールの視線には微弱な麻痺効果があり、状態異常耐性が低いと見つめられると動きが鈍ります。これで避けれる攻撃も動きが悪くなってしまったがために避けれない事故があります」
『うわ、地味に嫌なやつ!』
『しかも微弱だから気のせいと勘違いしそう』
『なんか動きが悪いな、疲れてるのか?ぐらいの認識かな』
姉須戸がアイボールの特殊能力である麻痺の視線について解説すると、配信コメント欄が騒がしくなる。
「対処法として、アイボールは鏡を嫌います。このように鏡に姿を写すと、目を閉じます」
『鏡かー、そんなにかさばらないし、移動中に割れさえしなければアリだな』
『おー、目を閉じてもキモい』
姉須戸はコートのポケットから手鏡を取り出してアイボールに向けると、アイボールは何かに怯えたように目をギュッと閉じる。
「アイボールの注意点二つ目は、アイボールは衝撃にとても弱いです。このように小石をぶつけただけで、ほら」
『破裂した!?』
『よっわ!?』
『なんか破裂したら体液撒き散らしてね?』
姉須戸がダンジョンの通路に落ちていた小石を拾ってアイボールにぶつけると、アイボールは小石がぶつかった瞬間パァンっと破裂して体液を四方八方に撒き散らす。
体液が地面に巻き散ると、ジュワっと音を立てて地面が溶けて煙が吹き出す。
「はい、このように酸の体液を撒き散らします。下手に他のモンスターがいると、視線で動きを鈍らせたり、攻撃を回避した先にアイボールがいて、ぶつかった衝撃で破裂して体液を浴びたなんて事故が起きてます」
『確かに姉須戸先生が言うように、他のモンスターと一緒に現れると厄介だ』
『これモンスターというよりはトラップじゃね?』
姉須戸のアイボールについての解説を聞いた配信視聴者達は、思い思いに自分の感想をコメント欄に書き込んでいく。
「ドロップ品は魔石のみなので、あまり美味しくないモンスターでもあります。遠距離から破裂させるのが無難かもしれませんね」
姉須戸はそう締め括ると、アイボールのドロップ品を回収してダンジョン探索を再開した。
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