第12話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアルミラージ


「しかし、日本のダンジョンはモンスターの種類が多いですね。これは本腰をいれてフィールドワーク調査しないと」


『海外のダンジョンは違うの?』

『興味はあるけど、外国語わからなくてみてない』


 ダンジョン探索中、姉須戸が呟いた一言に、配信視聴者達が反応してコメントを書き込む。


「ええ、理由は不明ですが日本以外のダンジョンは動物型なら動物型のみといった感じで一種類しか出てこないダンジョンとか多くあります」


『へー』

『今検索したけど日本だけなんだ、ひとつのダンジョンで多種多様なモンスターが出るの』

『一種類しかでないなら対策しやすいけど、素材の供給過多になる可能性もあるのか』

『確かにスライムしか出ないダンジョンで、楽にスライム倒せる方法わかってたら皆通うな』


「あとは国ごとの神話や伝承に類似したモンスターが出るダンジョンもありますね。日本なら河童とか妖怪が出るダンジョンとか」


『岩手県の遠野ダンジョンとかだな』

『まじで妖怪オンリーのダンジョンじゃん!』

『まじでダンジョン意味わかんねー。ファンタジーゲームみたいなモンスターもいれば妖怪もいるとか』


 姉須戸はダンジョンを探索しながら視聴者達と蘊蓄を語って配信は盛り上がる。


「ぐっ!?」


『なんだっ!?』

『今何かが姉須戸先生にぶつかったぞ!?』

『すげっ! 姉須戸先生のコート、何かがぶつかった瞬間バリアみたいなの展開したっ!!』


 姉須戸が配信視聴者との会話で盛り上がっていると、森の茂みから何かが飛び出してきた。

 その何かは姉須戸の喉を狙ったが、インバネスコートに付与された防御魔法が発動して不意打ちを防いだ。


「あれはアルミラージですね。イラク方面の神話に出てくる角が生えた人食い兎です。またファンタジー系のWeb小説のホーンラビットといった角が生えた兎モンスターのモデルとも言われています」


 姉須戸を襲ってきた何かの正体をドローンカメラが捉える。


 ドローンカメラに映っていたのは大型犬サイズの紫色の毛の色をした兎だった。

 ビーバーのような鋭い前歯と、土竜のような爪、そして額からは細長い角が一本生えていた。


「主な攻撃方法は突進による角の突き刺しです。突進の速度は時速六十キロクラスで、二百キロ近い体重もあわせて、角を回避しても体当たりで怪我する可能性が高いです」


『それをコートのバリア機能だけで防いでるんですけど?』

『姉須戸先生、ランク詐欺疑惑あり』

『あの体格で不意打ちはきついな』


 姉須戸がアルミラージの解説をしている間も、アルミラージは角や牙、爪で的確に急所を狙って攻撃してくるが、最初の不意打ち以外のアルミラージの攻撃を姉須戸は回避していく。


『よく回避できるよな』

『アルミラージもかなり体力あるな、全然つかれた様子がない』


「アルミラージですが、この通り体格もよく皮下脂肪も厚いので生半可な攻撃では止められません。また必ずと言っていいほど急所を狙ってきます」


 姉須戸はアルミラージのタフさを視聴者にも教えるように、まるで闘牛士のように回避してはカウンターのように杖でアルミラージを叩くが、効いてる様子はない。


「対処法としましては………こうです!」


 姉須戸はアルミラージの攻撃を回避しながら、最も太くて丈夫な樹木に誘導する。


 そして、アルミラージが突進して姉須戸の心臓部分に角を刺そうとすると、姉須戸は回避して、角を樹木に刺さらせる。


 樹木に角が深く刺さって身動きとれなくなったアルミラージが、角を抜こうと暴れるがなかなか抜けないでもがく。


「あとはこうやって首を落とせば楽です。 魔法の断頭台マジックギロチン!」


 姉須戸が魔法を唱えると、エネルギー状のギロチンカッターがアルミラージの頭上に現れたかと思うと落下し、アルミラージの首を切断する。


 一瞬アルミラージの綺麗な断面図がカメラに映るが、すぐにアルミラージの死体は霧散化して消えていく。


「アルミラージのドロップ品は角と毛皮、それから肉ですね。特に気を付けていただきたいのは角です」


 姉須戸はコートのポケットから厚手の手袋を取り出して装着すると、アルミラージのドロップ品である角を手にする。


「実はアルミラージの角には剃刀のような鋭利な突起が無数にあり、素手で持つと最悪指を落とします」


『こわっ!?』

『ドロップ品なのにトラップ品かよ』

『だれうま』


 姉須戸は近くの木の枝を拾ってアルミラージの角に叩きつけると、木の枝がスパッと切断される。


「アルミラージの肉は、一般的な兎肉より高タンパク、低カロリーで、ボディビルダーやダイエット中の人に人気です。海外では専門でハンティングする探索者もいます。毛皮も鞣すと独特の手触りで調度品に使われて人気です」


『アルミラージ肉はよくボディビルダーの人が絶賛してたな』

『アルミラージ革結構人気なんだよな』

『ちょっと討伐難易度高いけど、人気のモンスターではあるんだよな』


「さて、今日の探索はこれくらいにして帰還します。宜しければチャンネル登録と高評価してください」


『おつー』

『お疲れ様です』

『今日もためになった』


 姉須戸はアルミラージのドロップ品を回収すると探索を切り上げて配信を終えた。



 

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