第9話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアケイアライ


「第二階層の森へやってきました」


 アーコークとの戦闘後、モンスターが襲ってくることはなく、姉須戸はFランクダンジョン第二階層の森エリアに足を踏み入れる。


「前回伝え忘れていましたが、森エリアを探索する上で気を付けるべきことがありましたね」


『ふむ?』

『木上からの不意打ちや擬態以外に?』


 姉須戸は森エリアを探索しながら思い出したように、ぽんと手を叩いて視聴者に語り始める。


「都合よく見つかればいいんですが………お、ありましたね。これです」


『なんだこれ?』

『ただの倒木しゃ?』

『実は倒木に擬態しているモンスターとか?』


 姉須戸は周囲をキョロキョロしながら何かを探し、倒木を見つけると近寄ってドローンカメラに撮す。


「よくみてください。三本爪で引っ掻いた跡と、押し倒して木を折った跡、そして所々に何かを掘った跡がありますよね?」


『確かに』

『なんかモンスターの縄張りとか?』


 姉須戸が指摘するように倒木や周囲には自然には生まれない痕跡があちらこちらにあった。


「はい、正解です。これはアケイアライと言うモンスターの縄張りを示す痕跡です。ダンジョンモンスターも動物や人間のようにマーキングしたりします」


『アケイアライ………ああ、先生か』

『このダンジョン、先生が出没するのか』

『先生? 姉須戸先生とは違う人?』


 姉須戸がモンスター名を口にすると、配信視聴者の中にはアケイアライがどんなモンスターか知っているのか先生と連呼し、アケイアライを知らない視聴者は首をかしげる。


「まあ百聞は一見とも言いますし、実際に見に行きましょう」


 姉須戸は散歩感覚でアケイアライがいると思われる方向へ向かう。

 しばらく森の中を進むと、ズシズシと重量感のある足音が聞こえてくる。


「あれがアケイアライと呼ばれるモンスターです」


『でっか!?』


 姉須戸が指差す方向にドローンカメラが向くと、木々の間から全長五メートル前後の派手な羽色の鳥頭の根本に六本のダチョウのような長い足がついたモンスターがいた。


 アケイアライと呼ばれるモンスターは六本の足を使って木を押し倒して、爪先で引っ掻いたり、嘴で地面を掘ったりしながら進んでいく。


「さて、アケイアライが先生と呼ばれる所以ですが、自分よりも体格の大きいモンスターとの戦い方を学ぶのに参考になるからです」

「クエエエエッ!」


 姉須戸はアケイアライがなぜ先生と呼ばれるのか理由を解説しながら、倒木を杖で叩いて音を立て、アケイアライに自分の存在を知らせる。


「まず、アケイアライは方向転換が苦手です」


『確かに振り向くのに凄いまごついてるな』

『』


 姉須戸が解説するようにアケイアライは姉須戸の方に振り向こうとするが、六本の足が邪魔しあってなかなか振り向けずにいる。


「次に、アケイアライはまっすぐにしか走れないので、回避が容易です。と言っても走る速度はダチョウくらい速いので、油断せずに」

「クケーッ!」


『サイズがでかいから迫力があるな!』

『まっすぐ来るとわかっていてもあの質量は怖い』


 アケイアライは振り向くのを終えると威嚇の鳴き声をあげ、六本の足をバタつかせながらもそこそこの速度で姉須戸に突進してくる。


 姉須戸脇に飛び退いてアケイアライの突進を回避する。

 アケイアライは慌てて足を止めてまた振り向こうとするが、やはりまごつく。


「この振り向く瞬間に攻撃をするといいです。アケイアライの攻撃方法は足を使った引っ掻きや押し潰し、あと嘴です」


 姉須戸はアケイアライが振り向く間にアケイアライの攻撃方法を配信視聴者に向けて解説する。


「クケケケケーッ!!」

「アケイアライは六本の足をもっていますが、自重を支えるのに足のほとんどか必要で、このように二本しか攻撃に使えません」


 振り返り終えたアケイアライはまた突進して姉須戸と距離を縮めると、二本の足を使って掴もうとしたり、踏もうとする。


「特に気を付けないといけないのは、踏みつけです。アケイアライは五百キロ近く体重があるので」


『確かに踏みつけ攻撃の時、地面に足跡がくっきり出来てるな』

『あの巨体の足攻撃避けるの、かなり勇気要りそう』

『でも攻撃パターンが単純だから、事前知識さえあれば対策しやすい』


 アケイアライが踏みつけ攻撃を繰り返すと、土煙が上がり、くっきりと地面に足跡が残る。


 姉須戸はそれを右へ左へ飛び退いたり、反対側に回り込んだりして回避する。


「因みにアケイアライの背後が安全地帯です。足間接の構造でうしろ蹴りとかできません」


『この知識あったら楽に狩れそう?』

『比較的楽にはなるな』

『なんかコミカルなカートゥーンアニメみてる気分』


 アケイアライは背後に回った姉須戸を追いかけてくるくると回る。


「弱点と言うわけではないですが、三本以上足を潰すことができれば楽に倒せます。魔法の回転鋸マジックパズソー!」

「ギキュアアアアーッ!!」


 姉須戸が魔法を唱えると、エネルギーで形成された魔法の回転鋸が無数に現れ、アケイアライの足を切断していく。


 姉須戸が解説したように、アケイアライの脚が四本以下になると、自重を支えられなくなって転倒し起き上がろうと踠く。


「ここまでくれば、もうまな板の鯉のようなものです。止めを刺しましょう」

「クケーッ!?」


 姉須戸は魔法の回転鋸をアケイアライの頭部に突き刺して止めをさす。


「アケイアライのドロップ品は嘴や羽、それから足に肉です。嘴は加工すると盾になりますし、羽は装飾に使われます。足は骨が建材や武器の柄に使われますね。肉もなかなか美味です」


 アケイアライは霧散化してドロップ品だけが残り、姉須戸はアケイアライのドロップ品について解説する。


「さて、もう少し探索を続けましょうか」


 アケイアライのドロップ品を回収し終えた姉須戸は第二階層の森エリアの探索を再開した。

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