第8話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアーコーク


「おや、またモンスターのようですね」


 アルケミストビートルを倒してダンジョン探索を続けていた姉須戸は、進行方向先のダンジョン通路を見て呟く。


『次はどんなモンスターだ?』

『ここどこのダンジョンだろ? 定番とも言えるゴブリンとかまだ見てないな』


 配信視聴者達もコメントを書き込みながらやって来るモンスターを画面ごしに待ち構えていると、鷲のような翼が背中から生えた狼が三匹やって来る。


「あれはアーコークと言う動物型モンスターですね」

「ガアアアッ!」


 姉須戸がドローンカメラに向かって現れたモンスターの名称を伝えていると、先頭を走っていたアーコークが翼を広げて跳躍して、姉須戸に噛みつこうとする。


「攻撃方法は爪や牙のみ。翼が生えていますが飛べません。滑空出来るだけです」

「ギャンッ!?」


 姉須戸は襲ってきたアーコークの攻撃を躱しながら頭部に杖を叩きつけてダメージを与える。


 二匹目と三匹目は姉須戸の脚に噛みつこうとするがするが、姉須戸は跳躍して二匹のアーコークの背中を飛び越える。


「因みに尻尾で舵をとりますが、こういう狭い場所なら滑空能力はさほど警戒しなくて良いです。草原など広い場所や山間など高低差がある場所ではかなり危険です」


『飛べないんだ?』

『尻尾で舵とりとか想像したらちょっと萌えた』

『姉須戸先生、あれは狼鷲とは違うの?』


 姉須戸が杖でアーコークと戦っていると、視聴者の一人がモンスターの名前を出す。


「良い質問ですね。姿形は酷似していますが、狼鷲は二対の翼と飛行能力があります。モンスター学界ではアーコークは狼鷲のレッサーではないかと言う話も出ています」


『へー』

『と言うか、戦闘中に質問コメントに回答するとかずいぶんと余裕だな』


 姉須戸は杖でアーコークにダメージを与えながら質問に答えて、モンスター学界隈で言われてる説も伝える。


「アーコークは見た目が良いので、国によってはテイミングされてペットとして飼われたりします。あ、日本国内ではテイマースキル持ちか、動物園など専門施設のみ飼育可能なので気を付けてくださいね」


『検索したら、アラブの石油王っぽい人がアーコーク飼ってる写真出てきた』

『海外の探索者ギルドではアーコークとかモンスター本体の売買に関する規約や法律があったな』

『モンスターを飼うとか理解できない』


 姉須戸が海外でのモンスターテイミング事情を話すと、配信視聴者達は海外と日本とのモンスターの扱い方の違いにコメントする。


「さて、アーコークはあまり特記する能力もありませんので倒しますか。 ライトニング雷撃!!」

「ギャイン!!」


 姉須戸が魔法を唱えると、杖の先端から轟音と共に雷が発生して、アーコーク達を貫いていく。

 雷が通り抜けると、アーコーク達は黒焦げになっており、身体中から煙を吹いて炭化していた。

 一拍間を置いて、アーコークは炭になった部分から肉体が崩れ落ちて霧散化していく。


「アーコークのドロップ品は肉や毛皮に爪牙などです。この中で一番高く売れるのは毛皮です。肉は鶏肉に近い味と食感です」


『動物系モンスターのドロップ品って肉、牙、爪、毛皮なの共通なんだな』

『肉は鶏肉なんだ。………ん? 姉須戸先生食べたことあるの?』


 アーコークが居た場所に落ちているドロップ品を一つ一つドローンカメラに見せながら、姉須戸はアーコークのドロップ品を解説する。


「はい、学術的な興味から。因みに食料自給率の低い国ではモンスターからドロップする食料を食べていたりします。検索したら料理の写真やレシピ出ますよ」


『おー、言語わからんけど写真出てきた』

『普通に食卓とかに出されたら食べるな』

『てか、キャンプ飯感覚でモンスター肉とか調理してる国内探索者の動画もあるぞ』


 配信視聴者の一人がモンスター肉を食べたのかと姉須戸に質問すると、姉須戸は肯定する。


 さらに諸外国でのモンスター食事情を話すと、他の視聴者達も連れてWeb検索して該当する記事や動画を発見する。


「日本では食品衛生法の関係で売却できませんが、自己責任でダンジョン内で自己消費するのは今現在グレーゾーンです」


『グレーゾーン?』

『万が一食あたりしても、一般的な動物の肉とモンスター肉だと処置とかかわるんじゃないか? 知らんけど』

『下手したらモンスター肉にアニサキスみたいな寄生虫とかいて、お腹食い破る可能性もないとは言えない』

『あー、素人知識で熟成肉作ったつもりで、ただ腐った肉を食べて入院した知り合いがいたな』

『こっちはジビエにはまって、野生動物の生肉のカルパッチョやったバカがいた』


 モンスター肉の処理について姉須戸が話すと、配信視聴者コメント欄では過去に起きた食中毒の話がちらほらと書き込まれる。


『姉須戸先生、美味しいモンスター肉とか存在します?』


「はい、ありますよ。この日本のダンジョンで見つかるかはわかりませんが、配信中に遭遇したらお知らせしますね」


 そんな話をしながら姉須戸のダンジョン探索は進んでいった。

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