第6話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアンゲール
「おや、この穴は………」
ダンジョンの森エリアを探索している姉須戸は、地面にぽっかりと空いた穴を見つけて近づく。
「ふむ………おそらくアンゲールの巣穴ですね」
姉須戸は穴の壁を杖で削るように擦る。
すると、杖の先端には半透明の粘液が付着しており、それを見た姉須戸は目の前の穴がアンゲールと言うモンスターが掘った巣穴だと配信視聴者達に説明する。
『アンゲール?』
『聞いたことないな?』
『巣穴からして虫っぽいな』
『虫モンスターはやめてほしい』
配信視聴者達はアンゲールと言うモンスター名に聞き覚えがなく、どんなモンスターか予測する。
「おびき寄せて、実物を確認しましょうか」
姉須戸は配信視聴者達のコメントを確認すると、巣穴の周りを杖で叩いて音や振動を与える。
「っと!!」
巣穴の周りを杖で叩いていると、突如巣穴から成人男性サイズの虫鋏が飛び出して、杖を噛みきろうとする。
姉須戸はタイミングを見計らったように杖を振り上げて鋏を回避すると、顔を覗かせたアンゲールの頭を杖で叩く。
カァンと硬質な物を叩いた音を響かせて巣穴からアンゲールが飛び出して、その全容を表す。
アンゲールの姿は一言で言うならカミキリ虫の鋏を顎から生やした全長二メートルの芋虫。
尻尾は蠍のように膨らんでおり、先端の刺からはポタポタと紫色の液体が雫のように垂れている。
『きもいいいい!!』
『ギャー!!』
『このダンジョン行きたくねー!』
『虫系モンスターって本当に不人気だよな』
巣穴から現れたアンゲールの姿を見て、配信視聴者コメントは阿鼻叫喚のコメントが流れていく。
「アンゲールの主な攻撃方法はあの顎の鋏で獲物を挟んで巣穴に引きずり込みます。他にも」
姉須戸は解説しながらアンゲールから離れていく。
するとアンゲールは蠍のような尻尾を姉須戸に狙い定めるように蠢いたかと思うと、尻尾の先端から高圧洗浄のように液体を噴射する。
「このように尻尾の先端から酸性の溶解液を噴射します。約三十メートルほどの射程距離を持ちますので、後衛も油断しないように」
姉須戸はアンゲールの溶解液噴射を予測しており容易に回避して、ドローンカメラ目線で解説を続ける。
『初見だとヤバイな』
『別のモンスターだけど、後衛に攻撃が行ったときは焦った』
『たまに前衛がいるからって気を抜いてる後衛がいるんだよな』
「アンゲールの溶解液は一度噴射すると約六時間は使用不可能なので、最初の一発さえ凌げれば問題ありません」
『六時間って計測したの?』
「はい、計測しました」
『おー、研究者っぽい』
『いや、モンスター学の教授目指してる人だから研究者だよ』
アンゲールの溶解液噴射の回数について姉須戸が解説すると、コメントが盛り上がる。
「アンゲールなど昆虫タイプのモンスターは石鹸水やガスが弱点です。まあ、体積に合わせた容量使わないといけませんが!
姉須戸が魔法を唱えると、アンゲールを包み込むように雲が発生する。
姉須戸が魔法で呼び出した雲に包まれたアンゲールはもがき苦しみ、雲から逃れようとするが、雲が追いかけていく。
アンゲールはもがき苦しみ、虫独特の死にかたである仰向けになったかと思うと、霧散化していく。
「戦闘を回避したいならギルドで販売されてる昆虫モンスター用の虫除けスプレーで十分ですが、巣を刺激したりするとスプレーを無視して襲ってきますのでやらないでくださいね」
『昔視聴率低迷した配信探索者が視聴率稼ぎに巣を刺激した配信あったな』
『あれは最悪だったな。昆虫モンスターの群れに襲われて逃げ惑ってトレインして』
『他の探索者に故意に擦り付けて命を危険に晒したと判断されて刑事告訴されたんだっけ?』
姉須戸が虫除けスプレーについて話すと、配信コメント欄では過去に起きた事件の話で盛り上がる。
「アンゲールのドロップ品は、鋏や甲殻、それからレアドロップ扱いのこの粘液です。こっちの粘液は溶解成分はないので安全ですよ」
姉須戸はそう言って、アンゲールのドロップ品を紹介していく。
『姉須戸先生、粘液が高いのはなぜですか?』
「この粘液は建築関係で重宝されています。コンクリートを製造する時にこの粘液を混ぜると、一般的なコンクリートの約二十五倍の強度が出ます」
姉須戸はドロップ品を回収しながら配信視聴者の質問に答える。
「さて、今日は少々魔法を使いすぎたのでそろそろ戻りたいと思うので、配信はここまで。よろしければチャンネル登録と高評価宜しくお願いします」
『おつー』
『乙カレー』
姉須戸は配信の終了を伝えると山高帽を脱いでお辞儀をして挨拶をした。
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