第3話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアグアウ
「どうも初めまして、昨日登録や視聴してくれた方はこんにちは。姉須戸・トンプソン・伝奇です」
『配信始まった~』
『なんだ、おっさんか』
『おっさんだからいいんだるぉ!』
『姉須戸サマー!!』
ダンジョンに突入した姉須戸はドローンに向かって挨拶すると、早速コメントが流れ始める。
「本日も前回と同じ岩洞窟タイプのダンジョンです。今日はどんなモンスターと出会えるか楽しみですね」
『モンスター解説お願いします』
『過去の配信見ました。解説配信続けてください』
『おにゃのこがいないから華がないなあ』
姉須戸は前回と同じダンジョンに潜り、探索を始める。
『しかし、ダンジョンアタックしてるのに、昨日と同じインバネスコートだけど………防御とか大丈夫か?』
『アイアンスネークの時にズボンの下にレガース着けてたから大丈夫だろ?』
『それに姉須戸先生はウィザードだからそこまで防御とか考えなくてもいいかも?』
モンスターを探して探索を続ける姉須戸の服装は前回と同じ山高帽子にインバネスコート、スリーピーススーツ姿だった。
視聴者達はそんな姉須戸の軽装を心配するが、本人は特にきにした様子もなくダンジョンを進んでいく。
『うん? すいません姉須戸先生、コートの裏地見せてくれませんか?』
「これでいいですか?」
視聴者の一人が何かに気づいたのか、姉須戸にコートの裏地を見せるように願い出ると、姉須戸はドローンカメラの前でインバネスコートの裏地を見せる。
『ちょっ!! モーティー・オブ・ロンドンのマスターオーダーメイドじゃないですか!!!』
『なんか知らんが高そうと言うのはわかった』
『おいおいおいおい………今検索したけど、イギリスのサヴィル・ロウ・ビスポーク認定って………』
『はあっ!? フルオーダー仕立てで百万円!?』
姉須戸のコートの裏地を見た視聴者がブランド名を書き込むと、配信コメント欄が騒がしくなる。
『てか、そんな高級服でダンジョン潜んなよ!』
『いや、モーティー・オブ・ロンドンは探索者向けの防具メーカーでもある』
『エレガントスーツと防御力を両立させた老舗の仕立て屋で、VIP護衛のボディガードなどが利用してる』
『本格的な防具と比べたら弱いけど、Fランクダンジョンの浅い層なら通用すると言うかオーバー』
視聴者の一人が文句をいうと、別の視聴者がURLを載せて反論する。
「お、モンスター発見です。あれは………アグアウですね」
コメント欄が騒いでる中、姉須戸はステッキでモンスターがいる方向を指す。
姉須戸が指す方向にドローンカメラが向くと、バスケットボールサイズの真っ黒なヌメヌメとテカるイソギンチャクが徘徊していた。
「ダンジョンの掃除屋で有名なアグアウですね」
『うわ、きっしょい!』
『ダンジョンモンスターって格好いいのもいるけど、あんなキモいのもいるんだよなあ』
『姉須戸先生、なんで掃除屋って呼ばれてるの
?』
アグアウと呼ばれたモンスターは、姉須戸の気配に気づいたのか、五本の触手を足代わりしてタコのようにうねうねと歩きだす。
「いい質問ですね。アグアウは雑食でダンジョンに落ちているものを何でも食べます。国や地域によってはアグアウの習性を利用して生ゴミをダンジョンに廃棄して食べさせたりして処理してます」
『そういえばテレビのドキュメンタリーで、どっかの外国がゴミ廃棄にダンジョン利用してたの放送してたな』
『ゴミとかなんでも食べるとなると、雑菌とか怖いな』
アグアウは移動速度が遅く、まだ距離があるため、姉須戸は視聴者の質問に答えるように解説する。
「アグアウの主な攻撃方法はあの五本の触手です。鞭のようにしならせて叩きつけたり、このように巻き付けて口許に獲物を引き寄せたりします」
姉須戸はそういうと、コートのポケットから生きた鶏を取り出してアグアウに投げる。
アグアウは投げられた鶏を五本の触手で巻き付いて拘束する。
『そのポケットどうなってんの?』
『仕込んでたとしても全然膨らんでないよね?』
『姉須戸先生はウィザードだから魔法的な何か?』
『あれか? アイテムボックスか何か?』
コメント欄では姉須戸のコートポケットについてつっこみの嵐が書き込まれていく。
そんな中、アグアウは拘束した鶏を自分の体に引き寄せると、イソギンチャクのような体のど真ん中がぱっくりと割れてミキサーのような乱立した口の中に鶏を投げ込む。
『うっわ、音がグロい』
『噛まれたくない口してたな』
『キモい』
アグアウの補食シーンを見た視聴者達からキモいやグロいと言ったコメントが書き込まれていく。
「先ほど視聴者の一人が言っていたように、アグアウの口にはかなりの雑菌やバクテリアが繁殖しています。もし噛まれた場合は殺菌して探索を切り上げ、お近くの医療機関に駆け込んでください。深刻な破傷風や熱病を発症します」
『あんなのに噛まれて探索を続けたくない』
『ダンジョンモンスターの怖さの一つがこういった病気感染なんだよな』
『こないだ負傷した探索者が隔離病棟に二週間近く入院してたニュースがあったな』
姉須戸がアグアウの噛みつき攻撃に関して、視聴者達に注意喚起を告げる。
「討伐方法は簡単で、アグアウの習性を利用して、このように物を投げると………」
姉須戸はコートのポケットから手榴弾を取り出してピンを抜くと、アグアウに向かって投げる。
すると、アグアウは手榴弾がなんなのか理解していないのか触手で掴むと、躊躇なくパクリと口の中に手榴弾を入れ、ドカンという爆発音と共にアグアウの肉体が破裂して霧散化していく。
『手榴弾とか使っていいのっ!?』
『一応探索者はライセンスを持っていて、ダンジョン内限定なら銃火器や爆発物の使用が許可されてる』
『日本だとそのライセンスめちゃくちゃ厳しかったような?』
配信コメント欄では姉須戸が手榴弾を使ったことに対しての指摘やライセンス云々について議論が始まる。
「あ、私は国際ライセンス所持してますので問題ありません」
姉須戸はそういって国際ライセンスカードを視聴者達に見せる。
『いや、何でFランク探索者なのにそんなの所持してるの?』
『改めて姉須戸先生は色々おかしい』
『アメリカの大学院博士号卒、モンスター学の元非常勤講師、ウィザード、凄く高いコートとスーツ、ポケットが四次元、銃火器の国際ライセンス所持のFランク………ラノベかな?』
『ところがどっこい、現実です』
『そういえば、探索者資格って一定期間ダンジョンアタックしなかったり、免許更新サボると失効するって聞いたな。姉須戸先生も失効して再登録じゃね?』
『それだっ!>再登録』
姉須戸が国際ライセンスを見せると、視聴者達が姉須戸の正体についてあれこれと推測を始める。
「そこはご想像におまかせします。アグアウのドロップ品は残念ながら魔石のみです。魔石の価値も低いので正直戦う価値はあまりないです」
『骨折り損タイプのモンスターかあ』
『たまいるんだよな、強さとドロップ品の価値があってないモンスター』
「ただ、希に消化しきれてない物が一緒に落ちてることがあり、宝くじレベルでレア物が手に入ります。実際過去にアグアウの未消化物からマジックアイテムの指輪が出ました」
『うーん、ガチャより渋そう』
『まじで余裕があったらレベルだな』
『ネット検索したらその記事あった。一千万円クラスのマジックアイテムだったらしい』
『ちょっと手榴弾買ってくる』
『ライセンスあるの?』
姉須戸が過去にアグアウからレアアイテムがドロップしたことを伝えると、視聴者の一人が姉須戸が言ってた出来事のニュース記事を見つけたのかURLを載せる。
「アグアウとの戦闘を回避したいなら、適当に物を投げ捨てて拾わせて、アグアウが食べてる間に離れてください。アグアウは食欲旺盛で食べることに夢中になりますので」
姉須戸はそう言うと、ダンジョン探索を再開した。
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