第2話 姉須戸・トンプソン・伝奇とアースエレメンタル


『姉須戸先生しつもーん! 非常勤講師と普通の講師って何が違うの?』

『アルバイトと正社員の違いみたいなもんとか?』


 姉須戸のダンジョン探索配信中、視聴者から質問コメントが書き込まれる。


「アルバイトと正社員みたいなもんですね。非常勤講師は講義だけやればいいのですが、正規の講師は講義プラス大学運営にも関わります。わかりやすく言えば部活動の顧問などですね」

『へー!』

『業務内容だけ聞いてると非常勤講師は仕事楽そうなイメージ』


 姉須戸は足を止めて、非常勤講師と講師の違いを説明する。


「その代わり、非常勤講師の給料は講義回数分しか貰えませんので、人によっては副業だったりしますね」

『確かに俺の大学の非常勤講師とか本業持ってたな。たまに本業が忙しくて休講してた』


 姉須戸の話を捕捉するように自分の体験コメントも書き込まれていく。


『姉須戸先生は教授になりたいと言ってたと言うことは、何処かの大学院卒して、博士号持ち?』

「お、勉強家ですね。はい、アメリカ合衆国のマサシューセッチュ州アーカムにあるM大学を博士号で卒業しております」

『なんか頭良さそう』

『今検索したけど、幾つかあるな。どれだろう?』

『あまり個人情報聞くのはマナー違反だよ』


 姉須戸が卒業した大学の話をするとコメント欄ではアーカムのどの大学か調べる人達と、プライバシーの侵害だと注意する人達で別れる。


「おっと、また新たなモンスターですね。あれは………スモールサイズのアースエレメンタルのようですね」


 姉須戸が指差す方向にドローンカメラが向くと、そこには子供が粘土細工で作った四足歩行の動物のような形をした土と岩の塊が徘徊していた。

『ぶさかわいいな』

『見た目はかわいいけどモンスターなんだよなあ』

『中国の妖怪混沌か?』


「アースエレメンタルの強さはサイズでわかります。人型サイズを越えるアースエレメンタルを目撃した時は気を付けてくださいね。因みに過去の観測記録では40メートルを越えたアースエレメンタルが存在します」

『40メートルって怪獣やん!』

『そんなのどうやって倒すんだ?』


 アースエレメンタルはまだ姉須戸の存在に気づいておらず、姉須戸は配信視聴者に向けてアースエレメンタルについて解説する。


「アースエレメンタルはあの見た目から想像できるように、かなり物理防御力が高いです。土と岩の塊なので見た目よりも重く質量があるので、見た目に騙されて攻撃を受けたりすると最悪骨折します」

『もっと早く知りたかった(盾で受け止めて肩の骨外れた)』

『うっかり刃物で攻撃して、刃が欠けた』

『ドンマイ』


 姉須戸が解説すると、過去にアースエレメンタルと交戦した探索者と思われるアカウントから自分の体験コメントが書き込まれていく。


「アースエレメンタルには視覚はなく、どうやって獲物を認識しているかと言うと………」


 姉須戸が地面を何度も叩いて音をたてると、アースエレメンタルが姉須戸の方に向かって亀のような速度でノロノロと近づいてくる。


「このように音などの振動で獲物を関知します」

『いやおっそ!』

『こんなに遅いと獲物が逃げるんじゃね?』


 配信のコメント欄では、アースエレメンタルの動きの遅さに対してのコメントが書き込まれていく。


「ええ、あの遅さなら逃げきれると思うでしょう? 所がそうではないんですよね」


 姉須戸はそう言うと、アースエレメンタルから逃げるように距離をあける。


 ある程度距離がひらくと、アースエレメンタルはまるで水面に飛び込むように地面に潜り、姉須戸の前に姿を現す。


『は?』

『え? 瞬間移動?』

『これが厄介なんだよなあ』


 アースエレメンタルが瞬間移動したのを見た配信視聴者達が困惑するコメントを書き込んでいく。


「アースエレメンタルはこういったむき出しの地面がある場所では地潜りと呼ばれる、地面を水中のように泳ぐことができます。その速度は最低でも50キロ前後です」

『地面潜った方がはえーじゃん!』

『別のアースエレメンタルだと思い込んでた』

『と言うことは戦うしかないのか?』


 姉須戸がアースエレメンタルの特殊能力の一つである地潜りについて解説する。


「対策法方は幾つかあります。一つはなるべく振動をたてないようにゆっくりと動くこと」


 姉須戸はそう言って、忍び足でアースエレメンタルから離れていく。

 アースエレメンタルはすぐ近くにいる姉須戸を捕捉できていないのか、うろうろしている。


「二つ目はこうやって別の音や振動を与えて誤魔化すことです」


 姉須戸はインバネスコートのポケットから太鼓と笛を持った兎の玩具を取り出してスイッチをいれて投げる。

 兎の玩具は落ちた場所で太鼓を叩き、笛をならして動いて振動を起こす。


『いやなんでポケットにそんなものが入ってるの?』

『解説のために仕込んでた?』

『ワロタ』

『今動画見直したけど、ポケットから取り出すまで膨らんでなかったぞ?』


 配信視聴者達は姉須戸のポケットから出てきた玩具に対して突っ込みをいれる。


「アースエレメンタルの攻撃で気を付けないといけないのは距離です。あのように組みつかれると、とても危険です」


 アースエレメンタルは音を出す兎の玩具にのし掛かると、体内に飲み込んでいく。


「アースエレメンタルの攻撃方法の一つ、飲み込みです。飲み込まれたら土砂に生き埋めになったように圧迫され窒息します」


 兎の玩具を飲み込んだアースエレメンタルの体から物が押し潰される音がダンジョン内に響く。


『うわぁ………』

『ゾッとした』


「万が一味方が飲み込まれたら三分以内に助けるように。三分を過ぎると生存率は著しく低下します」


 姉須戸は真剣な顔でタイムリミットを強調して伝える。


『姉須戸先生、アースエレメンタルに対して有効な攻撃方法は?』

「はい、岩と砂で出来ているアースエレメンタルには鈍器による打撃、パイルバンガーによる核を攻撃、このように魔法攻撃がお勧めです。魔力波フォース


 視聴者からの質問に答えながら、姉須戸は呪文を唱える。


 魔法の衝撃波が姉須戸の手から放たれ、アースエレメンタルに直撃すると、アースエレメンタルは粉砕され霧散化していく。


『すげえっ! 一撃だ!』

『鈍器でスモールアースエレメンタルと戦ったことあるけど、かなり時間かかった』


 姉須戸の魔法で一撃粉砕されたアースエレメンタル。

 一部始終を見ていた配信視聴者達は盛り上がる。


「因みに、ラージサイズからはアースエレメンタルも魔法を使ってきますので、人間サイズよりも大きなアースエレメンタルと遭遇した時は気をつけてください」


『ダンジョン潜らないけど気を付けます』

『他の探索者グループと戦ってる巨大アースエレメンタル見たことあるけど、魔法もハンパなかった』


「さて、アースエレメンタルからドロップする素材ですが、ほぼ確定で土が出ます。かなり栄養が高いらしく農作物に使える土で、農家から素材回収依頼がきたりします」


『農家のものです。アースエレメンタルの土を使った畑は本当に実りが違います』

『えっ、俺放置してた』

『俺も、重たいから拾わなかった。それよりコンパクトで儲かるの優先してた』

『ほんと次から拾ってください、お願いします!』


 アースエレメンタルの換金素材について説明すると、コメント欄には農家の人と探索者の書き込みが続く。


「アースエレメンタルのドロップ素材でレア物もありまして、この中にあるかな?」


 姉須戸は杖でドロップ品である土をしばらく弄る。


「お、ありましたね。このように宝石や鉱石の原石がごく稀にドロップすることもあるので、土を弄ってみてください」


 姉須戸はダイヤの原石を拾い、ドローンカメラに見せつける。


『マジかっ!?』

『うわ………もったいねえことした』

『アースエレメンタル狩り始まる?』


 姉須戸が宝石の原石を見せると、コメント欄がざわつく。


「さて、今日は慣らしのつもりでしたので探索はここまで、また明日も探索するのでよかったらチャンネル登録や高評価などよろしくお願いします」


『おけ、登録した』

『高評価押しました』

『リマインダー登録したよ』

『おつー』

『ためになりました』


 姉須戸はポケットから懐中時計を取り出して時間を確認すると、探索を切り上げて配信を終了する宣言をした。

 


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