第11話 リオンのいない社交界デビュー
私は15歳になった。
今日はデビュタントの夜会に参加する。
「フィオナ!とっても綺麗だよ!」
「私たちのフィオナはお姫様より輝いてるわ!」
優しくて私のことが大好きなお父様とお母様が、嬉しそうに褒めてくれる。
「ありがとう、お父様、お母様!ね、リオンはどう思う?似合ってるかな?」
この日のために準備してもらった真っ白なドレスを翻して、リオンに可愛いって言ってもらいたくて尋ねる。
「姉さまはいつも綺麗だよ……でも、僕が一緒にいけないのにそんなに綺麗にしてたらちょっとモヤモヤしちゃうな」
私をじっとみつめながら、リオンは本当に浮かない声でそんなふうにこぼす。
「まあ、リオンったら」
可愛い独占欲にキュンとなりながら、私は笑った。
社交界デビューの特別な日に、本当に浮かれていて。リオンがいつものように瞳を潤ませても、輝かせてもいないことには気が付かなかった。
まだ13歳のリオンは当然一緒に行くことができない。
私はお父様にエスコートされて、会場である王宮に向かう。
王宮はたくさんの白いドレスが華やかに彩られて本当に煌びやかに見えた。夢のような空間にふわふわして、胸が高鳴る。
だけど、ドキドキして楽しかったのは最初だけ。
……リオンに会いたい。
気づいてしまったのだ。どんなにここが素敵な空間だとしても、今この場にリオンはいない。リオンがいないとつまらない。
王宮やたくさんの白いドレスの華々しさにときめいたのは一瞬で。
「帰りたい……」
小さな小さな声は幸いお父様には聞こえなかったみたい。
よかった、つい本音が漏れてしまったけれど、せっかく準備してくれたお父様は悲しむところだったもの。
よく見ると、周囲のご令嬢やご令息は親しい者同士で挨拶を交わしたり談笑したりしている人も多いみたい。
だけど、リオンがいじめられていた一件から我が家はそこまで他家と積極的に交流を持つことはしていなくて。
私の友人ともいえる存在はマーガレット様くらいだけれど、彼女もひとつ年上なので、今日この会場には来ていない。
あーあ、どうしてリオンは私と同い年じゃないのかしら?
同い年なら、今日だって一緒にいられたのに。
リオンの社交界デビューには絶対についていきたい。嫌がられたってついていきたい。
え、嫌がられたらどうしようそんなの私絶対に泣いちゃう自信しかない……!
だけど2年後のリオンは15歳だ。
いくら私の可愛いリオンでも、その頃にはひょっとして反抗期を迎えている可能性もある。
これは……もっともっと可愛がって甘やかしてますます私なしで生きていけないようにしなくちゃやばいかもしれない。
心に誓うと、ますますリオンに会いたくなってきた。できるだけ早く帰りたい。
そう思うと時間がたつのがどんどん遅くなっていくのだから辛い。
国王陛下に順番にお言葉をいただいて、会はつつがなく進んでいく。
そのうちに、一角がざわっと騒がしくなった。
どうやら私たちと同い年の第二王子殿下が会場に入ったらしい。
デビュタントの女の子たちは、この日だけは身分を問わず、申し込めば王族にダンスを踊ってもらうことができる。そしてほとんどの令嬢がそれを楽しみに待ち望んでいる。
『ほとんど』と表現したのは、私はそうでもないから。
これまでは王太子殿下がデビュタントのお相手を務めることが多かったのだけれど、今回は同じく正式な場でのデビューを迎えた第二王子殿下がその役を担うことになっている。
つまり、今日最初に踊ってもらう令嬢が、第二王子殿下の正式な場での本当のファーストダンスのお相手ということ。
自分こそがその特別な立場に!と、一気に会場中のデビュタントの令嬢が第二王子殿下のいる方に集まっていく。
「す、すごいわね」
私はというと、その場で普通に待機。だって王子殿下にあんまり興味ないし。
ほかの令嬢の熱量に少しだけ引いていた。
ダンスがすごく好きなわけでも、得意なわけでもない。綺麗なドレスを着て着飾っているだけでわりと満足で。
だから、群がった令嬢たちとひととおり踊り、疲れた様子の第二王子殿下と目が合ったって、別に胸が高鳴ったりなんてしなかった。
だけど第二王子殿下が近づいてきて、微笑みながら手を差し出される。
「麗しいデビュタントのご令嬢。私と踊っていただけますか?」
しまった。目が合ったせいで、気を使わせて誘わせてしまった。
いや、デビュタントの令嬢で殿下と踊りたがらない人はほとんどいないから、全員と踊らないといけないと思っているのかもしれない。第二王子殿下、初めてで慣れているわけじゃないわけだし、結構真面目そうだし。
これは断れない。まあ、せっかく来ているんだから、人気の王子様と踊って楽しんだ方が時間が経つのも早く感じるかもしれない。
差し出された手に手を重ねると優しくフロアに連れ出される。
なるほど、銀髪に宝石のような青い瞳の王子様は確かにとっても素敵。令嬢たちがその瞳にうつりたくて必死になるのもうなずけるほど、近くで見た王子殿下は美形だった。さすが、王族ってすごい。
まあ、私のリオンの可愛さには負けるけれど??
リオンがいなければ私も夢中になっていたのかもしれないなとは思う。
私は一生分のときめきをリオンに感じているので。
ああ、いけない!王子殿下と踊っているというのに、うっかりリオンに思いをはせてしまった!
そのせいでいつのまにか頬がゆるゆるに緩んでいたことに気が付いて、さりげなく表情を引き締める。
魅力的だと思ってほしいわけではないけれど、さすがに素敵な王子様に「なんだこいつ、へらへらしやがって」とは思われたくない。
いや、王子様と踊れてうれしい!の顔に見えていればまだいいけれど、リオンのことになると顔がでろでろに溶けてしまう自覚がある。
あのリオンにまで一度、「僕以外の前でその顔を見せないでね」と注意されたくらいだもの。きっとそうとうひどい顔に違いない。
……リオンにそういわれたとき、なかなかの衝撃だったのよね。
まあ、あの子が「僕はそんな姉さまも大好きだよ」と慰めるために頬にキスしてくれたので、それならいいかと思ったのだけれど。
ああ、やっぱり早く帰ってリオンに会いたいな。
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