第8話 私のリオンになんてことを!
リオンを可愛がり甘やかし、相変わらず夜は一緒に眠る毎日を続けてあっという間に月日は経ち。
私は8歳、リオンは6歳になった。
8歳になった私の、1番の不満。
「リオンだけ連れてドルンセン子爵家に遊びに行くなんて……どうして私はお留守番なの……」
ここ最近、リオンと別行動されることが増え始めていること。
「ほらほらフィオナ、手が止まっているわよ?リオンやお父様が帰ってくる前に仕上げてしまいたいんでしょう?」
「……はい、お母様」
私はぶすくれたまま刺繍針を持って、あと少しで完成の刺繍を再び刺し始める。
◆◇◆◇
私がリオンと一緒にいられないことを嘆いている間に、重大な事件は発生していた。
「姉さま……」
帰宅したリオンが、お父様と別れて私の部屋に来た瞬間。
ぼろぼろとその大きな目から涙をこぼし始めたのだ!
「リオン!?どうしたの!?誰かにいじめられたっ!?」
「ううっ……姉さまぁ……」
駆け寄った私の胸に飛び込んで泣き始めるリオン。一体ドルンセン子爵家で何があったの……!?
すると、リオンはとんでもないことを告白した。
「ひっく、子爵家で……女の子に……無理矢理ちゅーされたの……」
「なんですって……?」
自分でもびっくりするほど低い声が出た。
無理矢理、ちゅー?ちゅーってあれよね?私がおやすみの挨拶でリオンにいつもしてるようなものよね?
子爵家のことは先日お母様に習ったばかりで覚えている。
確か、私より1歳年上のご令嬢がいたはず。
ぐるぐると考えている私に、リオンはさらに爆弾を落とす。
「僕、初めてちゅーするのは姉さまがよかった……」
──ちょっと待って。
「ま、まさか、口に……?」
「ううん、口はギリギリよけた」
ホッと一息つく。
つまりリオンの中で、おやすみの挨拶はキスには入っていないと。
一先ず安心したところで、ハッと大事な事実に気がつく。
……ていうかリオン、今、初めては私が良かったって言ったわよね!?なんて……なんて可愛いの……!?
うっ、鼻血が出そう。
「姉さま……?」
!!い、いけないいけない、喜んでいる場合じゃなかったわ。
私の可愛いリオンに無理矢理キスしてこんなになるまで泣かせるなんて……許せない……!
メラメラと怒りの炎を燃やす私に抱き着いたまま、顔だけ上に向けたリオンが潤んだ上目づかいで見つめてくる。
「姉さま……僕、悲しいから、姉さまに消毒してほしい……」
「消毒??」
消毒。消毒か。そうよね、こんなにリオンが嫌がってるんだもん。洗うだけじゃ嫌なのかも。
侍女のアリーチェに言って、救急箱を持ってきてもらって、それから──。
「あのね、ここ」
「えっ?」
リオンが私の目の前に、自分の右手を掲げて手首のあたりを指さして。
「最初にここにちゅーされたの。だから、姉さまもここにちゅーして?」
息が、止まるかと思った。
「ここにちゅーして、消毒して?」
……消毒って、そういうこと……。
思わずポカンとしてしまう。
ついで、可愛いお願いに胸がキュンとしてしまった。嘘だ。キュンなんて可愛いもんじゃない。ギュンとした。
そうだよね!手首とはいえ無理矢理ちゅーされて嫌だったんだよね!だから大好きな姉さまに消毒して上書きして欲しいんだよね!
この義弟は、なんって可愛いの!!
いつも頬や額、頭だけだけど、毎日おやすみの挨拶でキスしているわけだから、今更なんの抵抗もない。
怒りの炎が消えたわけじゃないけれど、それより今はリオンの可愛さで頭がいっぱいだった。
「いいよ、姉さまが消毒してあげる!」
目の前に掲げられた手を両手で握って、自分の方に引き寄せる。
意気揚々と指し示された手首の部分にキスしようと顔を近づけながら、ふと思ってしまった。
……私は今、おやすみの挨拶以外で、初めてちゃんとキスとしてリオンに口づけしようとしている。
場所が手首とはいえ、これは私からリオンへの初めてのキス……。
なんならいつものおやすみのキスの方が顔中にしてるわけだから、よっぽど恥ずかしいはずなのに。
意識してしまうだけで、一瞬で恥ずかしくてたまらなくなった。
それでもリオンがこんなに泣いてお願いしてるのに。今更やめるなんて選択肢はなくて。
ちゅっ。
目をぎゅっと瞑って、思い切って手首に唇を押し当てる。
顔を上げると、リオンが涙に濡れたままの潤んだ瞳を細めて、ふにゃりと顔を綻ばせた。
ああ、可愛い。姉さま、可愛いリオンのこの笑顔のためならなんだってできるよ──。
「あのね、姉さま、次はここなの」
さすがに一瞬固まった。
そっか、一箇所じゃ、ないんだね……。
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