第7話 邪魔者:裏
「魔族もどきー!」
心底馬鹿にしたような目で、ぼくのことを3人の貴族の子供が笑っている。
本当のことを言うと、なんとも思わないし、どうでもよかった。
こんなことは今までもたくさんあったし、興味もない人に何を言われても興味はない。
だけど、期待しなかったといったら嘘になる。
だから、ぼくは泣いた。
「リオン!」
「姉さま……!」
ぼくを庇うように、3人の男の子の前に立ちふさがるフィオナ。
ああ、やっぱり、来てくれた。
フィオナが来てくれるんじゃないかって、期待していたぼくは嬉しくて。
だけど、あまり良くない流れになる。
「何よ、魔族もどきって」
ドキリとする。
ぼくはフィオナに夢中で、ぼくが泣いてれば、大人しくいじめられていればきっとフィオナがきて甘やかしてくれるって、それにばかり気をとられていて。
大事なことを忘れていた。
「私のリオンは魔族もどきじゃないし、」
「姉さま……」
その先をあんまり聞きたくなくて、思わずフィオナを小さな声で呼ぶ。
だけど、フィオナは止まらない。
「もしも魔族もどきだったとしても、なんなら魔族そのものだったとしてもリオンはリオン!こんなに可愛い私のリオンが悪い存在なわけがないでしょー!?こんなに可愛いのにっ!!」
その言葉に呆気にとられて。
意味がじわじわ自分の中に染み込んでくると、フィオナの陰で、にやにや緩んでしょうがない顔を隠した。
そっか、フィオナは、ぼくならなんでも可愛いんだ。
ぼくがなんでも、愛してくれるんだ。
嬉しくて苦しくて、体中が喜びでいっぱいになる。
フィオナはまるで、甘い毒みたい。
ぼくは気づいてるよ。
姉さま、「私のリオン」って、3回も言ってくれたね。
それが嬉しくて、怖かったふりをしてフィオナに思い切り抱きついて甘えた。
だけど、反省点もあった。フィオナのきれいな顔に傷がついてしまったこと。
ぺろりと傷ついたほっぺを舐めるとびっくりした顔をするフィオナは可愛かったけど、これはダメだと思う。
ぼくのことはいっぱいいじめてくれていいんだ。何とも思わないし、その気になればあんな子たち相手にもならないし。
なによりフィオナがぼくを助けにきてくれて、可哀想なぼくをいつも以上に甘やかしてくれるから。ぼくにとってはいいことの方がいっぱいなんだ。
だけど、フィオナに傷をつけるのはダメだよ。
そうなるとぼくは、許すわけにはいかなくなるでしょう?
ね?お前たちは許されないことをしたんだから、罪を償う必要がある。
屋敷に戻ると、フィオナとぼくは引き離されて、フィオナだけユーリア夫人とかいうおばさんに連れて行かれた。
……もっとフィオナに甘えたかったのに。
不満だな。あのおばさん、ぼくにはフィオナの前とは全然違う変な声ですり寄ってくるし、好きじゃない。
邪魔だな。
とりあえずフィオナと一緒にいられないなんていじめられたかいがないから、フィオナの部屋に向かう。
まずは様子見、とのぞいた部屋で、信じられない光景を見た。
フィオナがなぜか床に座らされている。おまけに鞭で打たれていて。
は……?なんで?
「そもそもあなたはあまりにも淑女としてなっていないのです!見た目が既に上品ではないのですから、せめて振る舞いくらいは最低でも──」
耳に飛び込んできた言葉も絶対に許せないようなもので。
見た目が上品じゃない?せめて振る舞いくらいは?
あのおばさん、ぼくのフィオナに何をさせて、何を言ってるの?
その瞬間、好きじゃないなと思っていたおばさんが、排除するべき邪魔者に変わった。
◆◇◆◇
「姉さま、今日はいっぱい、おやすみの挨拶して……」
ここぞとばかりにフィオナに甘える。
いっぱいキスしてもらえて、今日はいい夢を見られそう。
ぼくは大満足でベッドの中に入り、フィオナにくっつく。
貴族の子供の方は簡単だった。
フィオナの顔に傷をつけた魔法は、あの1番大きな子のものだったから。
ちょっと夜にお出かけして、自分の罪を白状するまで体のあちこちがただれる魔法をかけてあげた。
フィオナやぼくにしたこと以外にも随分やらかしていたらしくて、今は辺境近くにある領地に引きこもって再教育させられてるらしい。
せっかく体は辛いけど軽めの罰にしたのに、これじゃ台無しだとちょっとだけがっかりした。
フィオナに傷をつけた罪を償わせたら、またぼくをいじめてほしかったのに。
おばさんの方はちょっと頑張った。
ぼくはこの家の後継だから、と言って、猫撫で声でぼくの機嫌をとろうとするおばさんにニコニコ笑って相手するのと、何をしてるのか全部確かめるために2、3回フィオナが虐められてるのを黙って見てなきゃいけなかったのが辛くて辛くて。
でも、おかげでこのおばさんは完全に排除することが決定した。
わざと手首とお腹にあざを作って、服のボタンの1番下を引きちぎったあとに泣きながら義父さまのところへ行く。
あとは意味ありげに、叩かれたり、反対に気持ち悪く体を触られて怖かったって泣けば終わり。
血相を変えた義父さまがおばさんの調査をして、フィオナへのいじめが発覚した。
どうも、おばさんは昔から義父様のことが好きで、なのに自分じゃなく選ばれたのは義母さま。
それが許せなくて、義母さまのことも、母親似のフィオナのことも大嫌いだったんだって。
なんて身の程知らずなんだろう。
そんな馬鹿げた理由で僕のフィオナを傷つけるなんて。
ぼくは寝ぼけたフリをしていつも以上にフィオナにくっついて甘える。
まだ起きているのか、優しい手がぼくの髪をすいてくれた。
フィオナ、大好きだよ。
フィオナにひどいことするやつはぼくが全員排除するから。
だから、約束通りずーっと僕のそばにいてね。
大好きだよ、フィオナ姉さま。
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