第3話

 あの理不尽裁判から何日経っただろうか。刑務所もまた理不尽で、ログアウト絶対不可能で加えて、しかも仮に脱獄できても強制テレポートで戻される上、少しでも行ってはならない場所に踏み入ればすぐわかってしまう。加えて強制労働AIのせいで身体が勝手に動かされる仕組みだから、これまたああ、理不尽――――らしい。何もない空間でしばらく寝ていた俺に、スライム色の巨乳美少女が刑務所の環境を教えてくれた。


 「でスライムさん、ここはどこ?」

 「さんじゃなくて様ですよ。私はスライムの王女ですからね」

 「じゃあスライムの王女様、俺はいつここから出られるんだ?」

 「ごめんなさい。私もよくわかりません」


 刑務所の檻に入ってふて寝して気づいたら俺はこの空白の空間にいた。

 これは俺の予想であるが、質の悪い裁判官にも負けず、またこのゲームがバグったのだろう。


 「いえ、違うと思いますよ」

 「勝手に内心を読まないでいただけます?」

 「えっと覚えてらっしゃらない? あなた、寝ぼけて勇者の剣を乱発しましたよね?」

 「ん? なんのこと……あ」


 あれって夢じゃなかったのか。看守から等比数列並みに増えていく余罪を言われまくって俺は気分が悪くなって、たまたま懐にあったあの剣をぶん回したら空間が切れて――――あ、ってことはここが刑務所か。刑務所だったのか。


 「まぁ刑務所に勇者の剣を持ち出せる時点でバグだよね。運営は早くバグ修正しろ」

 「運営? 何言ってるかわかんない」


 ちょうどショボンって感じの顔で俺を見つめるスライム色の美少女。スライム色というのはあくまで比喩で、スライム色のそこそこ高尚なローブを着ている金髪セミロングの巨乳美少女。

 そう紹介しながら胸を凝視していた俺を、その小さな顔でムッと睨みつける彼女はややスライムベス色。


 「ずっと前から思ってたんですけど、あなたってオカマですよね?」

 「オカマじゃない」

 「だけどロリじゃないですよね?」

 「ロリじゃないよ! てへ☆」

 「オカマでもなくロリでもない。しかも変な空間。私なんか悪いことしたのかなぁ……」

 「オカマじゃねえよ!」

 「めんどくさい」


 またスライム色――はショボンと顔を縮める。てかそろそろスライム色だとか美少女とか王女とかめんどくさい。


 「名前は? 俺は綾乃」

 「私はスラ・スライム・ホイホイ・スライ・ホマホマ・ナンデスカコレ・二世・ダイタイ=マロン・クリシェ」

 「……なんて呼べばいいんだろ」

 「すいません。ふざけました。クリシェでいいですよ、あーやん」

 「わかったクリシェ。俺は綾乃でいいよ」

 「でも名前はあーやんってオカマロリの頭の上に書いてありますよ」

 「綾乃がいいです」

 「はい」


 なお、この空白の空間に来てかなり時間が経っていて、クリシェともかなり時間を過ごしているが、それまでの呼称は全て適当でした。そういうことにしておいた。


 「あーゲームして暇でも潰すか。クリシェ、ゲーム出してー」

 「いきなり馴れ馴れしい……ゲームって何ですか」

 「ゲームボーイでいいよ、PSPでもいいよ、だいぶ古いけど」

 「んー……じゃあ、代わりにこれどうぞ」


 クリシェは口元を水が揺られるようにユラユラとさせて悩むと、まるで手品師が袖から棒を出すように、木の棒を出した。どうぞ! となぜか自信満々の笑みを見せつけながら渡してきたので、俺はてっきり新型の棒状携帯ゲーム機と勘違いし、電源ボタンを探す素振りをする。


 「うん、ただの棒やないかーい!」

 「ああ、打ち付けないでください! 折れちゃいますって!」

 「なら折ってやろうか、オラオラ! うん、硬い」

 「ええ、当たり前です。ただの棒ではないんですよ、それは。勇者の剣と攻撃力が同じの折れたら消費される特別な棒です!」

 「へー」

 「ちなみにサイドステップ少年の閉ざす道の奥にある道に生えている特別な植物から採取できますよ」


 クリシェはこれまた誇らしげに口をくの字にして笑っているが、そんなぶっ壊れた武器があるわけないだろうに。もしもそんなのがあったら、何のために苦労して勇者の剣を手に入れるのか。え、武器じゃなくて火をつける道具?


 「うーん、そんなに疑うなら素振りしてみるといいですよ」

 「ははは、しなくてもわかるだろ。勇者の剣っていうのは、適当に振るっただけでも一面をぶっ壊してしまうんだよ。こんな棒きれに――――」

 「あの、なんかそこ、おかしくないです?」

 「え?」


 指を差され、そこを見るとあら不思議。適当に棒切れを持っていただけなのに空白の空間が穴だらけになっているではありませんか。穴の向こうにはこれまた不思議、牢獄の廊下で椅子にもたれて寝ている看守が見える。


 「あ、棒が消えた」

 「はい、どうぞ」

 「あ、どうも」

 「じゃあ刑務所に行きましょうか」


 凍てつく暗い隙間にクリシェは目を輝かせて俺の手を引っ張った。うん、そんないいところじゃないよ。いや、待て、違う。これは目が輝いているんじゃない、炎に燃えているんだ。


 「さぁ綾乃、刑務所の奴らを皆殺しにしよっか!」


 なぜ意味のわからない空白の空間で彼女と出会ったのか。彼女がなんなのか。その意味があの燃え滾る復讐の炎に見える気がした。



――あとがき――

最後まで読んでいただきありがとうございます。今回はもう思うがままに書きました。


次回こそは脱獄するぞー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スライムを倒したら最強の剣をドロップしたので無双したら運営と戦うことになった。 ラッセルリッツ・リツ @ritu7869

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ