第2話 今、裁判所に負けました。同窓会には行けません。

  「つまり被告人黒咲綾乃、あなたはロニョの剣をスライムから手に入れたと?」


 ただっぴろいドーム型の、数万人の聴衆に囲まれ、まるで闘技場のような更地の真ん中。俺はそこに立たされ、声色厚いデブの裁判官から尋問されていた。姿はロリのまま。

 今の時代、裁判もゲームの中で行われるようで。なんかそこまで真面目にやる必要があるのかって馬鹿馬鹿しいけど、閻魔大王も腰を抜かす形相の裁判官の前ではそのような気休めもできない。真面目に返す。


 「はい。だからこれはバグであって、チートや不正では――――」

 「そのような詭弁が通ると思っているのか!」


 地が割れ炎が噴き出してもわからないほどの怒号を裁判官は飛ばした。たかがゲームでなぜそこまで怒るのか。そもそもそうまでしても免罪だというのに。


 「確認しよう、黒咲綾乃。あなたは運営のデータにあるように、先日ゲームにログインしてチュートリアルを進めていましたか?」

 「はい」

 「ロニョの剣を手に入れた後は57層まで駆け抜けてルシファーを倒しましたか?」

 「はい」

 「なるほど。運営のデータによるとロニョの剣を手に入れたとされる時間、あなたは謎のエリア”ty9293”にいたようです。これも正しいですか?」

 「いや、だからそのとき俺は第1層でスライムを倒してたんだって。ty9293? そんな場所知らないって!」

 「なるほど――――そこまでして嘘を垂れるか!!」


 デブの裁判官は憤慨した。その木槌をもぐらたたきのようにして机で叩いて俺に「ネカマロリの時点で有罪に決まってるだろ!」と支離滅裂罵詈雑言、唾を飛ばした。

 

 「いいかね。このゲーム、チェインエルドラードではプレイヤーの情報は常に共有されている。データの書き換えは不可能なのだ。そもそもチートも不可能だ。しかし今回、このようなことが起きた。一体どんな手を使って――――」

 「だから俺は――――」

 「黙れい! 貴様が不正をしたのはデータから明らかなんだ! これ以上の詭弁は刑を重くするだけだ! 慎め!」

 「刑?」

 「そうか、まだ知らされていなかったのか。貴様は国の法律に基づき、詐欺罪およびその他の罪で、検察から懲役10年が求刑されている。それでも足りんと思うがな」


 にやり。裁判官は笑った。俺に恨みがありすぎるのか、それともやはりネカマロリが嫌いなのか。ただそれも醜悪なだけ。ゲーム内の話。


 「馬鹿馬鹿しい。もうそれでいいから早く終わらせろよ」

 「ほう? 認めたのか?」

 「もうこんな糞ゲーしないからどうでもいい」

 「……しないのではなく、するしかないのだがね。まぁそうか、では実刑を言い渡そう、黒咲綾乃。貴様は日本の法律に則り、懲役10年を言い渡す。その間の諸々はチェインエルドラードがするものとする」

 「ん?」

 「ではこれにて閉廷」

 「あれ?」


 最後の文言。それが引っかかるまま俺は運営の騎士に牢獄へ輸送された。やけに手縄がしぶとく感じてもいたが、ついに二日経っても冷たい牢獄の中。俺は――――ログアウトできなくなっていた。


 「黒咲綾乃。手紙だ」


 看守から渡されたそれを読むと『ゴールド円の取引において巨額の円が行方不明。犯罪組織へ渡った恐れあり。代理裁判の結果、加えて懲役30年が言い渡されました』らしい。なるほどネカマロリもネカマババアになる年月、俺はゲーム内の監獄に閉じ込められるらしい。怖い時代になったものだ。てか、


 「冤罪だろおおおおおおおおおおおお!!」


 そう叫ぶ二日目。三日目には手紙がもう一通。俺は怖かったので読まずに食べた。食べたら看守が教えてくれた。「ロニョの剣が行方不明。加えて20年の判決だってよ! クソワロタ」


 「どうしてだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」



――あとがき――

ノースペースの時代。どうやら日本はサイバー空間に監獄を設置し、罪人を閉じ込めるようです。つねに囚人はデータで監視されるから脱獄もできないね。


といいつつ、次回から脱獄を目指して動くわけですけどね。アンクルプリズン脱獄編、開幕です。

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