はあああああ~可愛い。だめだ、可愛い。なぜあんなにも怯えているオフィーリアが可愛く見えてしまうのだろう。俺という人間を心底嫌悪する。しかし、どうか許してほしい。

「だから漏れてんだって。あと、はああああ、から始まるの、デジャブなのか」

「なんの話だ」

「いきなりスンとすんなよ」

 イアンも今日も呆れた顔を披露する。懲りないのか。と向こうも言いたげだ。

「若い騎士に聞いたぞ。リチャードは、さも自分が忙しい人間であるかのように振る舞っていたらしいな」

 ああ、そういえばそんなようなことも聞こえていたな。

 イアンが皮肉めいた顔で口元を湯詰める。リチャードの「忙しさ」などというものが、いかにあてにならないかを知っているからだ。

「リチャードが忙しいだなんて、よほど重要なことでもあるらしい」

「まあ、本人いわく、彼の一日はとても充実しているんだとよ。例えば、鏡の前で自分の髪を整える時間だけで、朝の半分を使っているとか」イアンが肩をすくめて続けた。

「それから、村を散策しては、村人たちに自分の偉業を語って聞かせているらしいぞ。どれだけ『勇敢な行い』をしたか、どれだけ『重要な決断』を下したか、まるで彼が国全体を背負っているかのように」

「あの男の口から出てくる話は、聞くたびに新しい英雄譚ができているようだな」

「お前の伝記でも書いているのかと思うほどだ」

 伝記か。そんなものはこの世に決して残すべきものではない。

 ただオフィーリアと共に過ごせればそれでいい。

「けれど──そろそろ潮時かもしれないな」

 イアンが首を傾げる。

「お前の完璧な計画が?」

「ああ、材料をすべて出さずとも、ことはうまくいくはずだ」

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