はああああああああ、可愛いな、本当に可愛い。どこまでも可愛い。この世に存在しているということが罪なのではないか。

 オフィーリアを無事に家まで送り届けると、イアンは俺を待っていたかのようにその場に立ち尽くし見つめていた。

「これでオフィーリアは安心しただろうな」

「なんのことだ」

「国王に呼ばれたことは想定外だったが、それまでは全部シナリオ通りにしてやっただろ」

「オフィーリアはどんな反応をしていた」

「驚いていたいたな。でも見直したんじゃないか」

「俺をよく言い過ぎたのか」

「いや、お前が出来る男だというのは事実だろ。嘘は言っていない」

 それならいい。帰り道だってオフィーリアの変化はなかった。

 このまま俺のことを知り、そして愛してくれる可能性には着実に近づいているはずだ。

「もしかして、あれだけの溺愛ぶりも全て計算のうちか?」

「いや、それは本心だ」

「だろうな」

 それは最初から分かっているとでも言いたげな顔だった。可愛げがないのは今に始まったことではないが、協力者としてはこの上なく逸材だ。彼がいなければオフィーリアとの時間を確保することもできなかった。

 深く息を吐き、視線を遠くに投げかけた。暗くなり始めた空の中、星がぽつぽつと顔を出し始めている。

「とはいえ、少しは休んだらどうだ」

 イアンの言葉にふっと笑う。

「いつからそんな過保護になったんだ」

「騎士団としての仕事を疎かにするどころか、完璧にこなしているだろう。それに加えてオフィーリアだ。どう考えても両立できるものじゃない」

「できるさ。今のところ支障はない」

「これからは分からないだろ。お前が倒れたと聞けば国王だって黙ってはない」

「……そうかもしれないな」

 オフィーリアを訓練所に連れてきた直後にあった出来事を思い出す。

 イアンにオフィーリアを託し、俺は城の広間に立っていた。国王の前に直立不動の姿勢で控える。国王は威厳のある老齢の男性で、俺を見つめるその眼差しには、何か重大な決断を迫るような厳しさがあった。

『アーロ、聞いたところによると、村で少々目立つ行動をしているようだな』

『見回りの範囲を広げたいと思っての行動です』

 不要なことは言うまいと短く答えた。

『責めているわけではない。ただ、私の騎士団長として、無闇に目立つ行動は慎むべきだとは思わんか』

 やはりそうきたか。国王の言葉には明確な意図が含まれていた。

『承知しております。しかし、私が行っていることは村の安全と平和を守るために行っていることです。ご理解いただけないでしょうか』

国王はしばらく黙っていたが、その後すぐにため息をついた。

『よかろう。だが、無用な噂が広まらぬよう、慎重に行動するように。騎士団長たるもの、そして私の右腕となるよう、常に国の利益を第一に考えねばならぬ』

『ご忠告、感謝いたします。今後とも、国のために尽力いたします』

 そろそろ来るころだろうとは思っていたが、やはり国王の耳には入っていたか。

 俺を野放しにしたくないのは、やはり十年前の一件があるからだろう。それでも、この十年大人しくしていたのだから、少しは自由にしてほしいものだ。

 国を守るために尽力はする。だが、最優先事項はオフィーリアだ。

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