はああああ、可愛い。好きだ。愛している。

 オフィーリアと別れ部屋に戻る。そうして彼女と過ごした時間を思い返して、とめどない愛にどうにかなってしまいそうだった。

「アーロ」

「いたのか、イアン」

「人の気配に敏感なお前が俺に気付かないはずがない。最初から分かってただろ」

 もちろん分かっていた。だがイアンよりも、頭の中はオフィーリアのことでいっぱいだった。あの幸せな時間にいつまでも浸っていたい。

 こほん、と咳払いをしてイアンに向き合う。

「待たせて悪かったな」

「お前……どう考えても漏れてるだろ」

「ああ、すまない。音楽が大きかったな」

「お前の声だよ」

 頭を抱えるイアンの姿はここのところよく見る。はあ、とひとつ息をつくと切り替えたのか、はたまた諦めたのか、俺の机に広がっていたものを見た。

「どうやらランタン祭りは成功したようだな」

「ああ、オフィーリアも喜んでくれていた」

「その準備で、ここしばらくは寝ていないだろう。ただでさえお前の業務は多いっていうのに」

「心配してくれているのか。あのイアンが」

「引いてるんだよ、お前の溺愛ぶりに」

 溺愛か。言われてみればそうかもしれない。この十年、彼女にはなにもできなかった。

 近づくことさえ、許されてはいなかったのだ。全ては俺に力がなかったから。

「オフィーリアはお前のことをどこまで知ってるんだ」

「幼少期のころと、騎士団長をしているとこまでは把握させている」

 イアンが口角の片方を上げた。用意周到。おそらくそう思っているのだろう。

「オフィーリアにまで情報の調節をしているのか」

「すべてを知る必要はない」

「ならほとんどお前のことを知らないのも同然じゃないか」

 当たり前だ。彼女にとってノイズとなるものをあえてこちらから伝えることはないのだから。今はただ、俺のことを意識するだけの時間にしてくれればいい。

「そろそろブラックウッド家が黙っていないんじゃないか。お前がオフィーリアの婚約者として自慢げに歩いているところは多くの住人に目撃されているだろう」

「そのことなら問題ない。ブラックウッド家に伝わる情報も調整済みだ」

「そもそも噂の広がりは調整できるもんでもねえんだよ」

 そうだろうか。首を傾げればイアンは「そういうとこだよ」と言う。

「アーロ、お前は自分が思い描いた通りにすべてはうまくいくと思ってるんだろう」

「実際にそうだからな」

「それならもし、あの計画がオフィーリアに伝わったらどうする。彼女はお前を拒絶するかもしれないんだぞ」

 緊張しながらも精一杯俺の婚約者としての務めを果たそうとしてくれている彼女を思い出す。もしあの顔に、拒絶の色でも見てしまったら、俺はおそらく生きていけないだろう。

 だが──。

「それも見込んでの計画だ」

「拒絶されることもか」

 ああ、とうなずいてみせる。強がりなのではない。実際にそれも、オフィーリアを手に入れるため、長年温めてきた計画の一部として存在している。避けられるものであれば、おそらく避けるべきなのだろうが、しかしスパイスも時には必要材料となる。

「大丈夫だよ、イアン。オフィーリアは必ず俺を心の底から愛してくれるから」

「……お前が怖いよ」

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