17話 マックス
フォード家でメイドがメイドがクビにされる騒動が起こっている一方、オリビエは店の料理を堪能していた。
「……美味しい! このお店の料理……家の料理と同じくらい……いえ、それ以上に美味しい!」
オリビエは美味しそうな表情で、スパイスの効いた肉料理を口に入れた。
「そうか、気に入ってくれたか。フォード家の令嬢にそう言ってもらえるのは光栄だな」
カウンター越しからマックスが笑顔になる。
「私が料理を気にいると、何かあるのですか?」
「ああ、大ありだ。何しろフォード家といえば、美食貴族ということで有名じゃないか。それに現当主は、たまに食に関するコラムを書いて新聞に掲載されたりしているぞ?」
「え!? 何ですか? その話」
「自分の家のことなのに知らないのか?」
「い、いえ。父が料理のことに関しては、中々こだわりがあるのは知っていましたが……」
だからこそ、今夜粗末な料理が自分に出されることを知ったオリビエは外食をすることにしたのだ。料理に関してプライドの高い父親が、パンとスープのみの食事を見過すはずが無いと思ったからである。
だが、まさかコラムまで書いていたとは思いもしていなかった。
「特に今の当主が訪れる店は、味に間違いはない。必ず儲かる店になると言われているくらいだ。実際その通りだし」
「そんな話……少しも知りませんでした。驚きです」
「驚くのは、むしろこっちだ。オリビエはフォード家の娘なのに、そんなことも知らなかったのか?」
マックスは肩をすくめた。いつの間にか、彼は「オリビエ」と呼んでいる。
「私……家族とは、うまくいってなくて疎外されているんです。会話に入ることもできません。顔を合わせるのは食事のときくらいなんです。それでも居心地が悪いので1人遅れて食卓について、一番早く席を立っています。だから家族のことを良く知らなくて……」
「ふ〜ん。それで居心地が悪すぎて、今夜とうとう1人でバーに来たってわけか?」
「いえ。そういう理由ではありませんが……ただ、何となく今夜は外で食事をしてみたかったんです」
まさか義母に従順な態度を取らなかった罰として、夕食はパンとスープしか出してもらえないから……とは口に出せなかったのだ。
(私自身、夜1人で外食するほど自分が行動的だったとは思わなかったわ。でも、これもきっとアデリーナ様のおかげね)
笑顔のアデリーナの姿がオリビエの脳裏をよぎる。
「よく夜に1人で外食をしたりするのか?」
マックスが再び話しかけてきた。
「まさか! 初めてですよ!」
「ハハ、そうだよな。何と言っても、オリビエはフォード子爵家の御令嬢だからな。それで初めての夜1人の外食はどうだ?」
「そうですね。お店によっては昼と夜とでは違う顔になるということが分かって、良い社会勉強になりました。ところでお客さんがだいぶ増えてきましたけど……私と話をしていていいんですか?」
店内にはオリビエが来店したときよりも客が増えている。仕事をしなくてよいのだろうかと、他人事ながら気になったのだ。
「いいんだよ。別に俺以外にもウェイターはいるし、それに……」
そこでマックスは言葉を切る。
「どうしましたか?」
「いや、それより家族が心配するだろう? 早く食べ終えろよ」
「はい」
マックスに促され、オリビエは食事を再開した――
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