16話 騒がしい食卓 2

「あ、あ、あの……わ、私に何か御用でしょうか……?」


全身をガタガタと震わせ、青ざめたメイドが怯えた様子で現れた。


「お前か! 私の前にくだらない料理を出させたのは!」


「ドナッ! よくも私の名前を使って、勝手な振舞をしてくれたわね! いったいどういうつもりなの!?」


ランドルフとゾフィーの怒声がメイドのドナに降り注ぐ。


「あ……そ、それは……」


すっかり涙目になっているドナ。皆に喜ばれると思っての行動が裏目に出てしまうとは思わず恐怖で震える。

特に可愛がってもらえていたゾフィーからの叱責はあり得ないものだった。


「さっさと答えろ!」

「答えなさい!!」


2人の怒りの声は、しんと静まり返ったダイニングルームに反響した。


「も、申し訳ございません……ゾフィー様に失礼な態度を取った……オリビエ様に嫌がらせをして……ご自分の態度を改めて貰おうかと思って……」


ガタガタ震えながら答えるドナ。

すると、フッとミハエルが笑った。


「まぁ……目の付け所は悪くなかったかもしれないが……それにしては、やり方を間違えたな。我々の前で、こんな粗悪な料理を出させたのだから」


ミハエルもまた、ランドルフの美食家の血を色濃く引いていたのだ。


「全くだ……よくも、我等美食家として名高いフォード家の泥を塗ってくれたな!」


「そう言えば、オリビエはどうしたのかしら?」


自分に火の粉が飛んでくることを恐れたゾフィーがオリビエの話題を口にした。


「お取込み中、申し訳ございません!」


そこへメイドのトレイシーが現れた。

彼女は今まで様子を伺い、現れるタイミングを見計らっていたのだ。


「何だ、 この騒々しい時に!」


舌打ちするランドルフ。


「はい、私はオリビエ様の専属メイドです。実はオリビエ様は、今夜の夕食で御自身にはパンとスープのみしか与えられないことを偶然知ってしまいました。まさか美食一族として名高いフォード家でそのような料理しか出されないことにショックを受けられたオリビエ様は、町の外に外食に行かれてしまったのです。粗悪な料理を口にするくらいなら、外の食事の方がずっとまともだからとお話されておりました」


「な、何だと!? フォード家よりまともだと!? あのオリビエがそんなことを言ったのか!?」


「そんな! 下町の料理よりも私の腕前の方が優れているはずなのに!」


この話に美食家のランドルフ、自分の腕に自信のある料理長が怒りを露わにした。そしてその怒りはゾフィーとメイドのドナに降り注ぐ。


「ゾフィー! お前がくだらないことをメイドに吹き込むからオリビエに馬鹿にされたのだぞ!」


「ドナッ! よくも一流料理人の俺を騙して、くだらない料理を作らせたな!」


「そんな……私は何も悪くないわ! 悪いのは……そう! 全てドナのせいよ!」


ランドルフに怒鳴られたゾフィーはドナを指さした。


「お、奥様! 私は、ただ奥様の為に……!」


ドナがボロボロ涙を流す。


「お黙りなさい! ちょっと贔屓にしたくらいで、調子に乗るのはおやめなさい! だいたい頼んでもいないのに、私の名前を使って勝手な真似をして……! もう顔も見たくないわ! 今すぐ出てお行き!」


「ああ、そうだな。出て行ってもらおう」


「私も賛成だわ」


ゾフィーに続き、ミハエルとシャロンが頷く。


「そ、そんな……」


「聞こえただろう? お前は今この場でクビだ。むろん、次の紹介状など書くつもりは毛頭ない。とっとと消え失せろ!」


「う……うわああああんっ!!」


ドナは泣き叫びながら、ダイニングルームを飛び出して行った。


「全く、あのメイドのせいで……折角の料理も冷めてしまったではないか」


ランドルフはため息をつき、オリビエの席を見詰めた。


(今頃オリビエはどんな料理を食べているのだろう……)


そんなことを考えながら――

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