15話 騒がしい食卓 1
一方その頃――
フォード家ではオリビエを除く全員がダイニングルームに集まり、席に着いていた。そして給仕たちにより料理が運ばれ、それぞれの前に置かれていく。
そのどれもが見事な物だった。
「ふむ。今夜の料理も素晴らしいな」
ランドルフが満足そうに頷く。
彼は美食家であり、料理に一切の妥協を許さないことで貴族の仲間同士に知れ渡っているほどだったのだ。
「ええ、そうね」
「今夜も美味しそうだ」
「楽しみだわ~」
家族3人も嬉しそうに料理を見つめていたその時。
「……おい、何だ? その粗末な料理は」
ランドルフがまだ空席のオリビエのテーブル前に置かれた料理を見て、眉をひそめる。
置かれているのは具材の無いスープに、パンのみだった。
「フォード家で、このような貧しい料理を出すとは……一体どういうことだ!?」
例え冷遇されている娘とはいえ、美食家のランドルフにとって目の前で粗末な料理が出されることは許し難いことだったのだ。
ランドルフの怒声に給仕のフットマンは震えあがった。
「あ、あの……そ、それは……料理長の指示でして……」
「何だと!? では、その料理長を今すぐ呼んで来い!」
「はいぃっ! た、直ちに!」
フットマンは駆け足で厨房へ向かった。
「……全く、いったいどういことだ? 私の前であのような料理出すとは不快い極まりない」
苦虫を潰したような顔になるランドルフ。
「ええ、そうね。一体料理長は何を考えているのかしら?」
まさか自分のメイドの仕業とは思いもしないゾフィーは首を傾げる。
「不愉快な料理だな」
長男のミハエルは顔をしかめ、シャロンは無言で自分の髪の毛をいじっている。
「お待たせいたしました!!」
そこへ先程のフットマンが、料理長を連れて戻って来た。
「あ、あの……旦那様。私に何か御用があると伺ったのですが……」
ここへ来るまでに、ある程度のことは聞いて来たのだろう。青ざめた顔の料理長が恐る恐る尋ねてきた。
「お前が、あの料理を出すように命じたのか?」
鋭い口調でランドルフが尋ねる。
「はい、そうですが……」
「何故、私の前であのような粗末な料理を出したのだ!」
「そ、それは奥様付きのメイドが言ってきたのです! 本日、オリビエ様が奥様に失礼な態度を取ったので、罰として夕食はパンとスープのみにするようにと! 奥様がそのように命じられたそうです!」
火の粉が飛んでは堪らないと言わんばかりに、料理長は大きな声で説明した。
「な、何ですって!?」
身に覚えの無いゾフィーの顔色が変わる。
「何だと……?」
ランドルフが怒りの眼差しをゾフィーに向ける。
「ゾフィー! 勝手な真似をするな! いくらオリビエに腹を立てたからと言って、私の前であのような粗末な料理を見せるな!」
「そんな誤解よ! 私は何も知らないわ! そ、そうだわ。私に濡れ衣を着せたメイドは誰!? 今すぐここへ呼んできなさい!」
すると、いち早く反応したのは料理長だった。
「ええ、そのメイドなら私がよーく分かっています。今すぐ連れて参りますので少々お待ちください!」
料理長は胸を叩くと、脱兎の如くダイニングルームを飛び出し……5分も経過しないうちにメイドを連れて戻って来た——
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