18話 食事の後

――20時半


 食事を終えたオリビアは見送りするマックスと一緒に店を出た。


「それで自転車はどこに止めてあるんだ?」


マックスが周囲を見渡す。


「ここに止めてあるわ」


オリビアは店の路地脇をに置かれた自転車を指さした。


「へ〜これがオリビアの自転車か。女で乗っているのは本当に珍しいよな。すごいじゃないか」


「そう? ありがとう」


いつの間にか、2人は砕けた口調で話をするまでになっていた。


「もう遅い時間だが、家は近いのか?」


「近いわよ。せいぜい自転車で10分程の距離だから。でも歩きだと20分はかかるけど」


「へ〜それは便利だな。だったら、ちょくちょく来店出来るよな?」


「え?」


その話に、オリビアはマックスの顔を見上げる。


「美食家のフォード家の御令嬢が足繁く来店してくれれば店の評判も上がるからな。その分サービスはするし、店にいる間は悪い男が絡んでこないように俺が見張っているから」


「あ……ひょっとして私をカウンター席に移動させたのも、食事の間ずっと傍にいたのも、そのためだったの?」


「ああ、そうさ。何だよ、今頃気づいたのか?」


マックスが肩をすくめる。


「ええ、……ごめんなさい。気づかなくて」


「そんな謝ることはないって。でも、本当冗談抜きでたまに来店してくれるか? 新メニューを考えておくからさ」


「まさか、この店の料理ってマックスが考えたの!?」


「当然だろう? 俺はこの店のオーナーなんだぞ? 自分で考案して、レシピを雇った料理人に作らせている。それで俺はウェイターをして、悪い客がいないか見張ってるんだ。何しろ、昼間の時間帯は姉の店だから評判を落とすわけにはいかなくてね」


「そうだったの……」


(この人、口調も態度もどこか乱暴だけど……いい人みたい)


「おい、心の声が漏れているぞ」


「あ、ご、ごめんなさい!」


まさか口に出していたとは思わず、オリビエは顔を真っ赤にさせた。


「ハハ、別に謝らなくていいって。自分でも貴族らしくないと思ってるんだ。それじゃ気をつけて帰れよ。今度は婚約者も連れてくればいいんじゃないか? そうすれば安心だろうし、売上にも貢献してもらえそうだ」


「え? 婚約者がいること、知っているの?」


「あぁ、まあな。2年の女子学生の中で一番の才女だということで、試験結果が張り出される度、ギスランが自慢していたからな」


「ギスランが私を自慢……?」


同じ大学なのに、オリビエにとっては初耳だった。


「そう……」


(それだけギスランとの関係が希薄だってことよね。当事者の耳に入って来ないし、彼も何も話してくれないのだから)


「あいつ、自分の成績があまりパッとしないからオリビエの名前を出して目立とうとしているのかもしれないな……あっ、婚約者を批判するような言い方して悪かった」


「謝らなくてもいいわよ。別に気にしていないから、それじゃ帰るわね」


「ああ、また是非来てくれ。待ってるから」


こうして、オリビエはマックスに見送られながら店を後にした。


フォード家で起こった騒ぎのことなど知る由もなく――

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