第4話

 佐田部長、僕、由依姉さん、大翔兄、大翔兄の知り合いの弁護士と、指定されたホテルの部屋に向かう。

 そこでは、西園寺親子、佐田部長の母、そして相手方の弁護士が待っていた。

 佐田部長の母を見た時、僕はなぜそちら側なんだという怒りと同時に何か違和感を感じていたが、その理由が分からなかった。

 なぜか、西園寺息子の顔はぼこぼこだった。


 相手方の弁護士が口火を切る。

 相手の言い分では、今回の契約に関しては息子が勝手に言っている事で、西園寺父は関わっていない事、といっても父親としての責任はあるので勘当した上でお金を払うと言ってきた。

 つまり、息子を切り捨てるらしい。

 佐田部長の母も娘に申し訳なかったが、追い詰められて正常な判断が出来なかった、

 医師からの精神鑑定の診断書もあると診断書を見せてきた。

 どうりで、西園寺息子がイケメン台無しのぼこぼこだったかがわかった。

だが、その言い分はおかしい。

 というのも、佐田部長の母が大規模なパート切りの後もパートを続けているからだ。

 こちらの弁護士ももちろんそこを突っ込む。

 それに対して、確かに会社のパート切りは計画していたが、佐田部長の母は対象外だったと言った。

 確かに、そう言われてはこちらとしては反論できない。

 西園寺父には佐田部長に危害を加える意思がない以上、相手の言い分を飲んだ方がいいかもしれない。

 そう考えていた時、こちら側の弁護士がレコーダーを取り出した。

 それは西園寺父と佐田部長の母の会話だった。

 そこでは、佐田部長の母も西園寺父と契約をしており、そちらは一線を超えていること、そのうち佐田部長と息子にだけではなく、自分とも契約をする様に誘導してほしいと、西園寺父が言い、佐田部長の母が了承する代わりに、お金を要求する話だった。

 どうやら佐田部長の母は雇用の延長だけではなく、愛人として、お金をもらっているようだ。

 そして佐田部長の母を見た時の違和感の理由が分かった。

 彼女の身につけているものが高価すぎるのだ。

 とても、お金に困っているとは思えないくらいに。


 さらにこちらの弁護士の攻勢は続いた。

 他にも佐田部長のように西園寺父の被害者がいる事、その被害者達の証言や他の従業員達の証言もある事を告げる。

 佐田部長の母には、精神鑑定の医師が賄賂を受け取っていたことが判明したと告げる。

 それらを聞いた後、相手弁護士はお手上げとばかりにため息を吐き、西園寺親子は真っ赤になり、佐田部長の母は真っ青になった。


「ふざけるなよ親父。京は俺の彼女だぞ!」

「黙れ!わしの金で好き放題しおって!わしの金で何をやろうとわしの勝手だ。おい、お前ら穏便にすませようとしていればいい気になりおって!目にもの見せてくれる」


 西園寺息子はどうやら、父親が佐田部長に手を出そうとした事に腹を立てており、父親の方はヤケクソでキレているみたいだ。

 大翔兄がそんな西園寺親子を笑う。

「お金お金言いますが、あなたの会社の不正を警察は掴んでるみたいですよ?いつまでお金が持ちますかね。」

 それを聞いて西園寺父は真っ青になる。

「ふ、不正だと。そんな事しとらん。少なくともわしは知らん。」

「自分は清廉潔白だというなら焦る必要がないのでは?まぁ、賄賂から脱税、色々やっていたみたいなので全部知らないのはあり得ないと思いますが。」

 西園寺父は膝をついた。

 どうやら、自分の未来がどうなるかが分かったみたいだ。

「待てよ、俺はどうなるんだ。俺は親父の不正なんか知らない。それに京とは付き合ってるんだ。非難される覚えがない!素直になれない京のために契約って言ってるだけで、俺たちは好きあってるんだ!そうだろ?京?」

 西園寺息子が怒鳴る。

 その顔を見ると本当に佐田部長が自分が好きだと信じているようだ。

「いいえ、あなたのことは嫌いよ。契約前も後も生理的に受け付けないわ。」

 それを聞いて、西園寺息子が膝をつく。

「……俺を嫌いな女がいるはずないんだ。それにあいつだって京は俺のこと好きだって言っていたんだ。」

 ブツブツ呟いている。

 それを聞いて佐田部長は悲しそうな顔をした。

 僕も予想していたとはいえ、悲しくなった。

 彼女の裏切りがこれで確定したのだから。

「京、私はあなたの事を思ってやったのよ。お金持ちの人と結婚すれば幸せになれるんだから。それにこの契約がなければお金がなかったのよ。お金がなければ生きていけないのだからしょうがなかったのよ。」

 佐田部長の母親が佐田部長に訴える。

「お母さん、お金がなかったのはあなたのせいですよね?私はもう知ってるんです。お父さんの遺産でブランド物買ったりギャンブルしたせいでお金がなくなったこと。それさえなく、慎ましく暮らせば遺産だけで暮らせたことも。」

 どうやら、契約のせいでおかしくなってブランド物を買ってたのではなく、契約前からの佐田部長の母親自身の業だったらしい。

「だってあの人が死んで寂しかったんだもの。京、私はあなたのお母さんなのよ。お母さんを、助けて!」

 それを聞いても佐田部長の母親は食い下がる。

 3人の中で1番メンタルが強いかもしれない。

「あなたはお父さんが死んでからおかしくなりましたね。そこは同情しますし、私にこんな契約押し付けてくる前まではあなたを母として慕い、支え合って生きていたいと思っていましたが、今はもうただの血のつながっだだけの他人としか思っていません。」

 それを聞いて佐田部長の母親は泣き崩れた。

 やっと何を犠牲にしてしまったのかが分かったらしい。

 しばらくすると警察がやってくる。

 どうやら、こちら側の弁護士が呼んでいたらしい。

 3人が連行されていく。

 これで佐田部長も救われるが、ただもう1人犯罪者ではないが断罪されるべき人が残っていた。

 

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