第3話

 土曜日、由依姉さんが帰ってきた。

 なぜか佐田部長を連れて。

「ヤッホー、ひとちゃん、京ちゃん連れて来ちゃった。」

 そう由依姉さんは微笑むと説明もせずに佐田部長と一緒に自分の部屋に入ってしまった。

 説明を聞きたいものの、姉弟ヒエラルキーから姉の部屋に入っていけないことが身に染みているので悶々としながら待つ事にした。

 しばらくすると、2人は出て、説明すると言って居間に誘導された。

「この一週間でね、京ちゃんと話し合ったの。」

 あの日、僕の話を聞いて家から出た由依姉さんはまず、佐田部長に会いに行ったそうだ。

 最初は不審がられたものの、僕の姉である事を知った後は、話には応じてくれたみたいだ。

 そして、由依姉さんは今のままではいけない、自分に助けさせてほしいと伝えたそうだ。

 最初は、自分の問題だと聞かなかった佐田部長だが、最後には助けを求めてくれたそうだ。

 佐田部長もこのままではズルズルと関係が深まり、一線を超えて逃げられなくらりそうだと、今のままではいけないと分かっていたそうだ。

 ただ、自分ではどうにも出来ずに現実から目を背けていただけだった。

 そして助けるために、まずその取引の証拠や強要の証拠を集める事、そして佐田部長を保護する事、この2点を実行しているそうだ。

 佐田部長が来た理由は理解したので、証拠集めの方を聞いてみる。

「証拠の方はお母さんとや西園寺息子とのトーク履歴はあるんだけど、西園寺父親との繋がりがないんだよねー。西園寺父親の会社の影響力を考えると、下手な事やるとこっちが悪者にされちゃう。」

 確かに西園寺父親の会社の規模だとお金の力で自分から体を売った事にされてしまうだろう。

 それに、リベンジポルノの危険性もあるらしい。

 ここは慎重に行く必要があった。

「だから、今は大翔に頼んで、会社の不正を集めてもらってるの。大翔のお父さんとの会社とは直接の取引はないけど共通の取引先とかはあるみたいだから。」

 それなら問題ないだろう。

 由依姉さんの彼氏の大翔さんの会社は西園寺の会社にも勝るとも劣らない大きさである。

 西園寺の不正があるなら探せるだろうし、まず間違いなく西園寺は後ろめたい事をやっているからだ。

 次に心配なのは証拠が見つかるまで、西園寺のやつが暴走しないかだ。

「それなら心配ないわ。西園寺くんには、今関係を怪しまれているからしばらくは控えるようにいってあるから。西園寺くんが私との関係性を黙っているのは最初の契約もあるけど、関係性がバレた場合に、私が取引を全部公にするといってあるからだもの。」

 そう言って微笑むと佐田部長はやっぱり綺麗だった。


 そして、それから佐田部長との共同生活が始まった。

 と言っても、こちらの関係性もバレるとやばいので一緒の登下校とかは出来ないし、佐田部長は僕に対してなんだか分かんないけど避けているように見える。

 僕の方も本当は距離を縮めたいけど、今はそっとしておいたの方がいいと思い、何も出来ずにいた。

 そんな時由依姉さんが吠えた。

「もう、ひとちゃん何やってるの!こんな時だからこそ支えてあげなさい!」

 そう言って、佐田部長と2人きりにされた。

 

 僕は最近僕を避けてないか正直に聞いてみる事にした。

「正直に言うと避けていた。あなたに失望されていると思うから。」

 そう言って佐田部長は悲しそうに笑う。

 僕は安心した。

 僕を嫌いなわけではない事を。

 だから僕は一生懸命伝えた。

 懸命に生きようとする佐田部長を失望するわけがないと。

 佐田部長は糸が切れたように泣き出した。

 だから僕は由依姉さんが僕にしてくれたように、黙って彼女を抱きしめていた。

 そして決意する。

 彼女を絶対に見捨てないことと、全てが終わった後にこの思いを伝える事を。


 そして由依姉さんから伝えられる。

 時が来た、と。


 

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