第14話 氷結女神と虻女神

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 抵抗性魔法は相手の魔法を受けづらくする為の魔法であり魔族との戦争で開発された魔法である。

「普通は何十年かけて作り出すものなんだけど……」

 その抵抗性魔法をハビ・エール夫人は数分で作成し私の氷結魔法の効力をほぼ無力化してみせた。

「経験の差と言った所かしら……これでもダンジョン攻略とか飛竜討伐とか色々やってきたし……」

 今やハビ・エール夫人の攻撃を受け続け防戦の一方である。

「箱入り娘の机の上でした様な魔法使いとは訳が違うの」

 氷の壁を作り虻女神ベルゼブブになったハビ・エール夫人は攻撃しながら語りかける。

 確かにハビ・エール夫人の言う通りだ。

 私の魔法は机の上の習い事であり冒険者が幾つもの修羅場を越えた魔法とはわけが違う。

 だから私の魔法が早々に通用するなんて甘い考えだった。

「さぁ・・・そろそろ氷の防壁が破れる頃あいかしら?」

 彼女なら近くにいるだけで凍り付き跡形もなく壊れ消えてしまうような氷結結界の中だ。

 存在している方がおかしい。

「楽しみだわ・・氷結魔法はなかなか見つからないからね?」

 氷の防壁が崩れ目の前にハビ・エール夫人は現れ語りかける。

 もう魔力も切れ変身した氷結女神も解除されてしまった。

 万事休す他にハビ・エール夫人に対抗する手段はなく私は生まれて初めて死を意識した。

「悪いがお前が楽しむ事はねぇよ」

 俯き諦めかけた時に聞き覚えのある声が響き私は顔を上げる。

「いつの間に……」

 すると目の前には虻女神ベルゼブブに変身したハビ・エール夫人の胸に刀を突き刺すリオベルさまの姿があった。

「早く攻撃しろ鈍間人形!!」

 ハビ・エール夫人は周囲に立つスペアの肉体に向かって命令する。

 しかしスペアの肉体は自分同様に胸を突き上げ苦しんでいる姿が見えた。

「痛覚が共有されている?」

 血を吐き出しながら胸に刀を突き刺されたハビ・エール夫人は驚いた。

 本来ハビ・エール夫人が攻撃されればスペアの肉体が自動的に反撃する。

 痛覚など共有していないし逃げもしないなんて事はありえない。

「そら飯の時間だそ?」

 そうリオベルさまは語りかける。

 するとハビ・エール夫人の頭上に現れたのは黒翼を広げ血の涙を流す大きな角が特徴的な女神の姿だった。

「あら……美味しそうじゃない」

 黒翼の女神は恍惚な表情を浮かべると目は真っ赤に染まり口は裂け黒竜の様な姿に変わる。

「イタダキマス」

 瞬間私は目を背けた。

 呼応する様に激しい粗借音が響き渡ると恐る恐る視線を向ける。

「ゴチソウサマデシタ」

 リオベルさまの背後に現れた黒竜の姿をした女神は一瞬でハビ・エール夫人を喰らう。

 残ったのは飛び散り広がる血の池と血に濡れた仮面だけが残されていた。

「大丈夫かリゼッタ?」

「大丈夫……です……」

 リオベルさまの心遣いに返答するが心は落ち着かない。

 彼の背後にいる黒い女神は何とも言えない独特の殺気を放っているからだ。

「見えているみたいですよ・・・黒翼の女神」

「えっ?」

 ふと少女の声が聞こえる。

 視線を向けるとリオベルさまの傍らに寄り添う短い髪の幼女を見つけた。

「・・・・ッツ」

 幼女と視線が合うとリオベルさまの背後に隠れてしまう。

 なんだか・・・少しうらやましい。

「やはり女神化すると私たちの姿が見えるようになるみたいね?」

 今度はハビエール夫人を食らった女神の声がして私は視線を向けると彼女は私の眼前まで迫り血の涙を流す赤い瞳で私の事をのぞき込んでいた。

「紹介しよう・・・俺の眷属である黒翼の女神べテルスと刀に宿る精霊『朧』だ」

「黒死の女神に・・刀に宿る精霊?」

 どちらも聞いた事がない初めて遭遇する存在である。

「俺の両親は変わり者で各領地にある曰く付きの魔具を集めるのが趣味だったんだ」

「曰く付きの魔具を集める?」

「このマントを着用すると馬車に引かれやすいとか・・あとは鞘から引き抜くと目が見えなくなる妖刀とか?」

「そんなの集めて大丈夫なの?」

 率直な気持ちを私は言う。

 すると黒翼の女神は笑いながら言った。

「大丈夫じゃなかったわね……私達を引き取ってくれた前の主は死んじゃったし……」

 確かに黒翼の女神の言う通りだと思い言葉を失っていると徐ろにリオベルさまの声が響く。

「ハッツ関係ねぇよ現に俺は生き残っているし因果の類なら俺もリゼッタも死んでいるだろ」

 それもそうかと思いつつしかし良い気持ちはしないなと思う。

「それに大体の代物は不倫相手との逢い引き用マントだったり使用者の事は考えずに作った刀とかそんなんばかりだ」

 呆れながらリオベルさまは言う。

 確かに逢い引き用のマントと考えるなら便利だろうと思うし用途の説明がないから曰く付きの魔具になったのだろうと思い至る。

「前の主は優しい人でした……忌避されていた私達を引き取ってちゃんと管理してくれた……」

「仇は討ったんだ気は晴れただろう?」

 妖刀の精霊『朧』は悲しげに語りかけ慈しむ幼女に対しリオベルさまは優しく語りかける。

 やっぱり……とてもうらやましい。

「さて……あとはボンボニ・エール卿の死体をどうするかだな?」

「そうですね………やはり教会に持って行くのでしょうか?」

 人が亡くなった場合の亡骸の処置は主に近隣の教会にお願いするのが通例だ。

 しかし決闘と言っても人殺しである。

 何処か気が引ける気がすると考えていると月が陰ると同時に声が響いた。

「心配する必要はない既に私達が片付けた所だ」

 リオベルさまは刀を構え私は魔法の杖を翳す。

 そうして暗闇から現れたのは赤毛の長い髪をまとめた粛清仮面騎士だった。


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