第13話 盲目座頭剣士と粛清騎士

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 月明りだけが降り注ぐ平原は薄っすらと雪が積もっていた。

 リゼッタの氷結魔法による影響だろう。

「はぁ・・・」

 吐く息は白く雪原でこだまするのは甲高い金属音。

 それは剣と刀の鍔迫りあいによる副産物。

 礼儀など微塵もない無礼講の決闘戦。

 その中でボンボニ・エール卿は言った。

「……それが我が妻が使う魔法だ」

 ボンボニ・エール卿は激しい剣撃戦の中で妻のハビ・エール夫人の魔法の能力を明かす。

 魔法『虻女神ベルゼブブ』は様々な人間に寄生した虫で肉体を支配し魂を移動する。

 何より複数の魔法を同時併用するとの事だ。

「もしかしたら既に貴様の妻はハビ・エールに寄生され肉体を……」

「それはねぇよ」

 ボンボニ・エールの言葉を遮り即答する。

 すると暫しの沈黙の後にボンボニ・エール卿は問い掛ける。

「何故そう言える?」

「俺が迎えた妻だからだ」

 そうボンボニ・エール卿に啖呵を切るが実際は違う。

 俺の耳は未だにリゼッタの鼓動が聞こえ平常心である事がわかるからだ。

「……処刑人の剣か」

 ボンボニ・エールが持つ両刃剣は処刑人の剣と呼ばれ罪人の首を切る為に刀身の先端が重く作られており重心が先端にあるため罪人の首を切りやすくなっている。

「なるほどダリルは剣の能力まで漏らしていたか?」

「いいや……俺はあんたが剣の能力を使って両親の首を切った所を見ていたし何より二つ名を知れば想像がつくよ首切り卿」

 ボンボニ・エール卿は別名『首切り卿』と呼ばれており彼の使う戦術も『首を切る』事に特化していると思われる。

「だったらどうする大人しく首を差し出すか?」

「はっつ!!」

 挑発するボンボニ・エールの一言に俺は思わず笑ってしまう。

 誘っていることは明らかだ。

 相手の手の内はわからない。

 むやみやたらに飛び込めば首が切られる事は明らかだ。

「それは良いかもな!!」

 しかしそれでも躊躇いも無くボンボニ・エール卿の懐に飛び込んだ。

「ーーーーーーーーーッツ!?」

 ボンボニ・エール卿は驚くも本能的に剣を振り下ろす。

 すると鍔迫り合いとは全く違う甲高い音が響くと同時に俺の首は切り落とされ地面に落ちた。

「はっコイツはスゲぇや!!」

 俺の驚く声が響きボンボニ・エールは沈黙するが心臓の音が驚愕している事を教えてくれる。

 確かに首を切り落としたと思った相手がまだ生きているのだから驚きもするだろう。

「なにをした……リオベル・ウルフィン?」

「ちょっとばかしつまんだだけよ首切り卿」

 ルマリ・エール卿に見せた『残身』の応用技である『当身』は自分が死ぬ未来を体験し実現する前に攻撃を避ける技である。

 死ぬ事象が起こる前に後方に避ける事で手の内を知ることができるのだ。

『なるほど剣を振り下ろし音が聞こえる間合いにいた場合に強制的に首を切り落とす技か……』

 ボンボニ・エールの御業を俺は体感する。

 彼の使う『処刑人の剣』の発動条件は二つ。

 ・剣を振り下ろし音を響かせること

 ・相手が響かせた音の聞こえる間合いにいること

 特定の条件を架すことで『処刑人の剣』の能力である『首を切る』と言う概念を具現化しているのだ。

「蹴付けるぜ首切り公……言い残す事はあるか?」

 処刑人の剣の能力を知り頭の中で対策を考え出しだ後に俺はボンボニ・エールに問いかける。

「ハッ戯け痴れ者がぁ!!」

 それがボンボニ・エール卿の怒りを買ったのか彼は感情を露わにし身体から『魔力』を立ち上らせた。

 魔力は身体能力や肉体強化の他に剣術や魔剣の能力を引き上げる。

 多分処刑人の剣の発動条件てある音が聞こえる間合いが広くなっているはずだ。

「捨て駒貴族の分際で復讐すらもおこがましい……首を取られる方が悪いと言う事が何故わからない?」

「ようやく認めたな首切り卿」

「飢饉が起これば穀物の値が上がり他国で買った差額で儲かる私は貴様らと違い安穏な日常を送っていないのだ」

 ボンボニ・エール卿は剣を振り上げ構える。

 やはり『処刑人の剣』の能力を発動させる間合いの中にいるのだろう。

「我は王族直血貴族にして粛清十二騎士が一人ボンボニ・エール……名を示せ……」

 決闘戦における唯一の礼儀は名乗りを上げる事だ。

 故にボンボニ・エールは名を示せと言ったのである。

「北端領主リオベル・ウルフィン……いざ尋常に参る!!」

 再び何の躊躇いも無く俺は踏み出した。

 同時にボンボニ・エール卿は処刑人の剣を振り下ろす。

「ッツ!?」

 再びボンボニ・エール卿は驚く。

 視界が真っ黒になり何も見えなくなったからだ。

「小賢しいわ!!」

 視界を奪ったところで剣を振り下ろすことも『処刑人の剣』の発動条件である『音の聞こえる間合い』にいることも変わらない。

「終いだ……ボンボニ・エール」

 語り掛ける俺の声が響いた瞬間ボンボニ・エール卿は違和感を感じ取った。

『体感時間がズレている?』

 ボンボニ・エール卿は気が付く。

 脳から送るはずの『剣を振り下ろす』と言う伝達命令が圧倒的に遅い。

 剣を振り下ろすと思った時には既にリオベル・ウルフィンは間合いを詰め刀を振り切っていた。

「それが・・・お前の剣術か?」

「いいや・・・これは『朧』の能力さ」

 ボンボニ・エールの問いかけに対して返答する。

 しかし既にボンボニ・エール卿は鎧通しの剣撃を受け絶命していた。

「恨みつらみは地獄の沙汰で息子にでも聞いてもらうんだな?」

 ボンボニ・エール卿の亡骸にそう語り掛ける。

 そうして瞬時に体を反転させ身体から魔力を生成し発すると超人的な脚力で彼女のところに向かって飛んで行く。

「・・・リゼッタ」

 先ほどまで平常心だった彼女の心音が明らかに強張っていた。

 緊張し追い詰められている。

 頭をよぎるのはボンボニ・エールの言葉だ。

 俺はリゼッタを殺したくはない。

 だから一刻も早く彼女のもとに駆け付けようと思ったのだ。


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