二日目
扉の前に立っていた男はライドーと俺をみると困ったような顔で話しかけてきた。
「すみません。こちらにアルテージア様とイヅルヒ様はいらっしゃいますか?」
「いますが、どうしたのですか?」
「ええ、その、非常に言いづらいのですが...」
その男は少し躊躇った後話し始めた。
「明日までにそのお二方には働いていただきたい。」
「どうしてでしょうか?」
ライドーは初めて険しい顔を見せた。
「実は、近年では田舎生まれや都会生まれなどの出身による格差をなくして、平等を目指さなければならないという風潮がございまして、いつまでも職を探す身でおられては都合がよくないのです。」
「はあ。しかし、明日までというのは無茶では?」
「ええ。無茶を承知で申し上げています。明日もう一度訪れますから、就職が不可能だと判断した場合はお伝えください。私たちができる限りお助けします。」
男が立ち去った後、ライドーはため息を吐いた。
「...素直に聞き入れてくれるとは思えないんだよな。」
扉を開き、押入れに籠城していたイヅにそのことを伝えることにした。
彼の言葉とは裏腹に、イヅはやる気に満ちていた。
「いいよ。やってやろうじゃん。」
「アルは?」
「多分、どこかをうろついてると思う。」
「連絡は取れるか?」
「無理。あと、あたしは何をすればいいの?」
「そうだな、明日は私の代わりとして働いてほしい。」
「ええ!?」
「すまん。私は明日やることがあるんだ。作業はロージィから教わってくれ。」
イヅは頼りない奴を見るような目を俺に向けた。
おいおい、確かにあの作業所までの道のりさえわからないが、俺じゃそんなに心配か?という言葉を、俺は夕食と一緒に飲み込んだ。
次の朝、ライドーが途中までついて来てくれたので、イヅと俺は迷わずにくることができた。
作業服に着替えたイヅは、ライドーの服のサイズに対して文句を言っていた。
あまりにもダボダボだったので俺も来ているものとの交換を申し出たが断られた。
とても気まずいので、俺はライドーが今ここにいてくれればと何度も思った。
しかしイヅは、俺の言葉にしっかり耳を傾けてくれて、昼までには自分だけでできるようになった。
「思ったよりも面白いかも!」
イヅは自分のペースで一つずつ丁寧に仕上げていった。
作業は大雑把で少し荒いが、楽しそうなところを見ていると俺も楽しくなってきた。
昼は二人で食べた。
イヅは食べるのに夢中で常に口がいっぱいだったが、時々話してくれた。
「ねえ、ロージィ、こんなところに2日も閉じ込められて楽しいの?」
「まあ、楽しくはあるよ。」
「ライドーは、多分飽きたから別のところに行ったんだ。だって、ここは死んだような人ばかりで、退屈だもの。」
「そんなことないよ。」
「そんなことないことないよ!空っぽな目で、膨れっ面で常に怒ってるみたいで、心臓だけ焦ってて、退屈と沈黙に刺されてしまいそうな余裕のない顔をしてる人に囲まれてたら、いつか自分も感染しちゃうよ!」
「みんないい人だから。」
「んぐ!」
俺はイヅの口にパンを詰め込んで作業に戻った。
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