到着

実は、彼が提案してくれたことはとても嬉しかった。

彼らには聞きたいことがあったから。

俺は向かい合わせになっている座席に座って質問した。

「この辺りでは見たことのない髪色と服装だが、どこから来たんだ?」

俺が気になっていたことの一つは彼らの見た目だ。

彼らは奇妙な格好をしていた。

全員が馬乗り袴のような服装で、履き物が古代ローマ風のサンダルであった。

どこの国の人なのだろうか。

「この服はねえ、アルが選んだの!」

無邪気な声が元気に答えた。

どうやら、髪の色と服装は彼女が決めているようだ。

「そうしないとアルが駄々をこねるの。あたしの補聴器の耳のときだって、つけたくないって言ったら、こいつ半日も泣いてたんだから。」

そう気だるげに言うイヅルヒは、汗が拭き取られた肌をアルにペタペタ触られたり、髪を撫でられてくしゃくしゃにされながら、ヘッドホンのようにも見える補聴器についた猫耳に指を差した。

不機嫌そうな顔をしているが、猫耳をつけられて頭を撫でられるのは満更でもないらしい。

そうだ。

俺にはもう一つ聞きたいことがあった。

「あんたらは、どこへ向かってるんだ?」

「私たちはトキノ国へ行く予定だ。イヅの勘が当たればね。」

「勘頼りでその国へ行くのか?」

「舐めないでよ!イヅの勘は必ず当たるんだから!」

「やめてよ、ただ運が良いだけなんだから。それより、ロージィはどこ行くの?」

「俺は・・・」

俺が答えに詰まったとき、ちょうど列車が駅に停まった。

「もし、行くところがないならあたしらと来る?あんたとここで出会ったのは偶然じゃないと思うんだよね。」

俺は・・・

行くあてがない!

「俺も連れて行ってくれ!」

俺は、彼らを追って駅を降りた。


降りた駅は、とても駅と呼べるような場所ではなかった。

廃墟のようなところで、背の高い草だらけで暗く、ジメジメとして湿っぽい。

「ついたな、『トキノ国』だ。この国は面白いぞ!なんせ、通貨が時間なんだからね!」

「はあ、ライドー、あたし、やっぱ密入国は嫌なんだけど。」

「え!今密入国って言った!?」

俺の驚く声を聞いてアルが説明をしてくれた

「そうよ!お兄ちゃんったら、うっかりしてて、アルの国からトキノ国への飛行機がないことを忘れちゃってたのよ!」

「仕方がないだろ。誰だって失敗はあるさ。だから今回の私たちは旅行客じゃなく、ここの国の労働者ってことだ。さ、みんな、一応身分情報書を受け取ってくれ。一つ多く作っておいて良かったよ。まあ、この国の人の情報はデータで管理しているようだから必要なさそうだが。アル、そっちはどうだった?」

「問題ないわ!しばらくはバレないはずよ!」

「よし!では各自服を着替えて、これからはここの国に溶け込むよう努力すること!」

「なあ、俺ここの国の言語がわからないんだが。」

「それも問題ないわ!」

そう言うとアルは俺の右耳の下と首に何か貼り付けた。

「これをつけておけばそれっぽく聞こえるし、それっぽく話せるわ!」

なんだそれ。便利すぎやしないか?

俺たちは着替えた後、一時的な住居へ向かった。

アルはその日寝るまで現在の服装についての不満を言っていた。

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