結果発表
「それでは、鑑定」
スキル発動と共にアリシャの情報が頭に流れ込んでくる。
ふむ、これは…。
「どどど、どうだった?」
「ちなみになんだが、この世界では魔力量がどれくらいあるのが普通なんだ?」
「判定玉っていうのがあって、そこに手をかざすの。そうすると魔力が多い順に色が変化して赤・橙・黃・緑・青・藍 ・紫となるわ。私はどんなに訓練しても赤のまま…」
「なるほど?」
色での判別か、俺の鑑定だと数値で出てしまうので、数値としての平均を知らないと何ともいえんが…今までの経験上そんなに言うほど低い数値とは思えない。
おそらく問題は魔力量というよりコレだな。
「多分、召喚魔法の感じからしても魔力量が少ないなんて事は無い。問題は魔力の出力、瞬発力が弱いということだろう。その判定玉とやらを見てみないと確実なことは言えないが、おそらくその玉は魔力量ではなく出力量を判定しているんじゃないかな? 一般的には魔力と出力は比例するものだから完全な間違いではないがアリシャの場合は正しいとは言えない」
「そんな…本当なの?」
アリシャは伝えられた内容に酷く動揺していた。
「俺の鑑定結果に間違いはない」
「その出力量というのは上げることは出来る?」
「出力量も魔力量と同じく生まれ持ったものだからな、そう簡単な事ではない」
「不可能ではないのね?」
「不可能ではないが、アリシャの体を魔改造することになるぞ?」
「なにそれこわい」
魔力的な改造、略して魔改造である。
「相応の設備や材料も必要でかなりお金もかかるし体にも負担がかかるからオススメはしない」
「やっぱり無理なのね…」
「別の方法があるかどうかは俺がこの世界について学ばないとまだ何とも言えん。この世界でのみ適用される法則もあるからな」
世界が違うと魔法を含む様々な能力、薬やアーティファクトなどは思いもよらない効果をもたらす場合があるので情報収集を怠ってはいけないのだ。
「何か試しに魔法を見せてくれないか?」
「うん」
『ファイア』
前方にかざした手のひらから拳大の火球が生まれ壁に向かって勢いよく飛んで行った。
火球は壁に当たると小さく爆ぜ、壁が少しえぐれて焦げ跡が残った。人間相手なら十分殺傷能力はありそうだ。
「今のが私が使える下級の火魔法よ、これ以上のランクになると途端に発動しなくなるの。本当に魔力不足が原因じゃないの?」
「今の魔法に使われた魔力量とアリシャが保有する魔力量から考えると、アリシャの場合ネックになっているのはやはり出力だな。普段使おうとしている魔法は瞬間の出力が足りないから発生するまでに時間がかかりすぎて失敗するのだろう」
今回の召喚魔法は陣に描かれた内容が特殊で必要量を術者から強制的に吸い出すという機能があり、足りなければ命に関わる可能性もある危険なものであった。魔力が少ないと思い込んでいたアリシャが描く陣とは思えないのだが…そこらへんはおいおい確認していくとしよう。
「それにしても下級魔法しか使えないとはいえ7つの属性を持っているのは大したものじゃないか?」
鑑定によるとアリシャは火・土・風・水・雷・光・闇の属性を持っていた。
「どうしてそれを…鑑定でわかるのか。すごいのね、鑑定って」
そう言うと、アリシャは俯いてしまった。
「学園に入学したての頃は皆に期待されてたの、入学以来初の全属性持ちだって。でも、それからどれだけやっても下級魔法までしか使えなかった私についたあだ名が器用貧乏…」
「ふむ、不器用なやつらが妬んで言いそうな事だな」
「でも! 実際、下級魔法しか使えない私は模擬戦で負け続きで」
「では単なる器用貧乏ではなく、超器用貧乏になれば良い」
「ちょ、超器用貧乏ですって?!」
馬鹿にされていると思っているのかアリシャの顔は真っ赤になっている、だが俺はいつでも真剣だ。
「今まで以上にもっと本当の意味で器用に魔法を使いこなすのだ。そうすれば今までの常識では考えられない結果に結びつく。7つも属性を持っているアリシャにはその可能性がある、そう俺は信じている」
可能性、その言葉を聞いてアリシャの体がピクリと反応する。
「私でも出来ることあるのかな…」
「おいおい、このエリートである俺を召喚した契約主なんだからもっと自信を持ってくれないと」
「そうね、フフッ頼りにしてるねトーマスさん」
その笑顔を見て、契約期間の2年間でアリシャに自信を持たせることを俺の中でのミッションと決めたのだった。
「ではまずは…俺の勉強会だな」
「トーマスさんの勉強会?」
「アリシャが何をするのが一番良いのかを知るためには、俺もこの世界の在り方や、魔法体系など色々と知らなくてはならないからな。ただ敵を倒せばいいようなミッションならある意味簡単なんだが、今回は地道な努力こそ最短の道のりだ」
「それなら学園の図書室が最適ね、魔法に関しての蔵書は国で一番と言われているのよ」
「俺も学園の施設を利用できるのか?」
「そうだった、トーマスさんこの腕輪を左腕に着けてもらえる? 召喚された者の証として認められるから、学園の生徒と同じように施設を利用することが出来るの」
「学園まではどれくらいの距離なんだ?」
「学園の敷地はとても広いの、ここも一応は敷地内ではあるわ」
この洞窟? みたいな所が敷地内なのか…。さっき魔法ぶっぱなしてたが大丈夫なんだろうか。
アリシャの後に続いて行き洞窟から出るとあたりは森林が広がっていた。
「この森を抜けてしばらくすると学園の建物につくわ、急いで3時間くらいかしら」
「ずいぶん離れたところまで来ているんだな?」
「私が課外時間に何かしてるところを見られると色々と言われたりするから…」
ずいぶんと根深い問題のようだ、全属性持ちという華々しい立場からの転落コースは妬みを持つやつらからの恰好のターゲットになったのだろう。
「なるほど、だがそれも今日までだ。これからはそんな事は俺が許さん」
「ありがとう、でもあまり無理はしないで」
「無理はしないとも、俺のモットーは安全第一、それが異世界攻略のポイントだ」
「トーマスさんは、どれくらい異世界召喚されたことがあるの?」
「フフフ、よくぞ聞いてくれた。それはな…」
森を抜ける道中それなりに話が弾み、俺とアリシャは少しずつお互いの理解を深めていくのだった。
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