第14話 ルイスさんにまたまたご飯を奢ってもらった。



 穴があったら入りたいとはこのことよ!!


「じゃ、あの、急いでますんで!」

「ごめんごめん、なんか、可愛くて。笑っちゃったお詫びに、夕飯奢ろう」


 結構です!

 そう叫びたかったけど、言葉よりも早くわたしのおなかの方がきゅりゅきゅるると叫ぶ。

 わたしの意思とおなかの空き具合は別……。


「ほら、アリスさんのおなかも大賛成って言ってるから。ね?」


 小首を傾げてニコっと笑うルイスさん。

 ざまあヒロインに転生してきたわたしにはめっちゃ既視感。

 これまで、さんざん二次元異世界転生悪役ヒロインを繰り返してきたわたし。

 これはわたしを「オモシレー女」枠と攻略対象が認定し、好感度が爆上げされていく初期状態に似ている!!

 強制力やめてええええええ!!

 そんな心の絶叫をかき消すようなおなかの音も止まれええええええ!!

 それでも結局ルイスさんに夕ご飯奢ってもらいました。

 サンクレルの街って港町だからお魚をメインに出すお店が多い。

 だけど、ルイスさんが連れて行ってくれたのは、ちょっと隠れ家風の外観の肉バルっぽい感じのお店だった。なんで肉バルのお店なのがわかったのかっていうと、メニューがお洒落。この世界の食堂って文字のみメニューが主体なの。席を案内されてメニューを見るとレピシノート風の完成図をちらちらとちりばめていて、見てて楽しい。


「おなかがすいてるなら、ここはがっつり肉でしょ」


 確かにそれはそうなんだけどさあ!


「この間は冒険者ギルドの食堂で終わっちゃったから、お詫びにもならないなって思ってたんだ」


 ああ、例の鑑定を勝手に見ちゃってごめんねの件ですね……いやーそれはお仕事だから。


「ここはステーキいっとく?」

「いきます!」


 ええい、もう恥ずかし~ヤダーとか言ってられない。

 このおなかの音を鳴りやませなければ! 鎮めなければ!


「いいねえ、僕もそうしよう」


 メインのステーキが出来上がるまでに、ルイスさんはちょいちょい摘まめるような小品をオーダーしてくれた。

 チーズの盛り合わせとか、ピクルスとかサラダとか。


「はい腹ペコさんに乾杯」


 ワインまで。

 とか思ったけど、これ、赤ワインじゃなくて、ぶどうジュースじゃない!

 あっ! ルイスさんだけワインだ! ずるい!

 子供扱いですか⁉ わたし前の大陸だと今年が社交デビューの予定でしたよ⁉


「アルコールでおなか一杯にしないで、肉でしょ?」

「そうですけども!」


 そう答えたら、「おまたせしました~」と若い店員さんがステーキを持ってきてくれる。

 焼き野菜も端っこに盛り付けられて、見た目は普通のステーキですが、肉がっ!! 下味が!! うっま!! 

 ソースかけて食べてる前に、普通に切り取って一口口にすると、ガーリックパウダーとかブラックペッパーと塩とハーブ? 口の中で嚙み千切ると、肉汁と一緒に合わさって美味しい~。下味がしっかりしてると肉のうまみがひきたつよ!

 ああ~強制力から脱出しようと、この大陸にきたけど、この大陸は、食事がおいしい~!

 カトラリーを上品に音を立てずに貴族風に食べることもできるけど、ここは食欲に任せて、ガツガツ食べますよ!

 ソースをちょこっとつけると、酸味と脂がっ口の中で踊る!!

 おいしいよお!


 ありがとう肉、肉こそ正義、みーといずじゃすてぃす!


 外食はこのあとしばらくできないだろうということも、ちらっと頭によぎって、がっつり食べてしまった……。デザートのプリンまで食べてしまった……ああプリン……おいしかった。


「ご、ごちそうさまでした!」

「いい食べっぷりだったねー若いっていいなー奢り甲斐があるよ」

 それで、本当に奢ってもらってしまった……。

「じゃ、ありがとうございました!」

「だから、待ちなさい。ちゃんと送るから」

「へ?」

「転移魔法使うから」

「へ?」

 て、転移魔法!? そんなの使えるの⁉ 便利すぎじゃない⁉

「腹ごなしに、街をぶらつきながら行こうか、まだ何かやることあった? ギルドへ行きたかったんだっけ? サンクレルとメルクーア大迷宮都市はどこのギルドも24時間空いてるよ」


 ギルド、すごい! まさかの三交代シフト制!? それともブラック!?


「あの物件、やっぱりお店にしようと思いまして、でも、お食事処っていうには、わたしの腕がないので、休憩所にしてお茶を出したり、なんか小物を作って展示してそれを売ってみたりしようかなって思ってて」

「あーうーん、そういうところか……小物ってどういうの?」

「例えばこういうのとか、あ、これに鑑定使って見てもらっても大丈夫です」


 わたしは背負っていた巾着リュックをルイスさんに見せる。

 ルイスさんはリュックを手に取って、じっと見る。


「あ~なるほど……え、これ、アリスさんが作ったの?」

「はい! ……売り物になりますかね……」

「売れるね。アイテムバッグだから」

「でも、先にあの物件の修繕が先で、ハンザ工務店さんからもお仕事貰っちゃって~まずはそっちを先行にちょっと数を作らないとならないので、こういったのはまた、落ち着いたらって感じなんですけども」

「ハンザ工務店さんからの仕事って?」

「えっと作業用のツールバッグです。35個発注受けて、作らないと」

 ルイスさんはうんうんと頷く。

「お仕事が入ったんだ」

「はい。ハンザさんにも気に入ってもらって、そういうお話になったんです」

「そっか、じゃあ、商業ギルドは後でもいいんじゃないかな。とりあえず、準備中ってことなんでしょ?」

「はい」

「それよりも、冒険者ギルドかな。浄化した曰く付き築古物件管理を冒険者ギルドで受けてるし、修繕費申請しておこう」

「そんなことできるんですか⁉」

「ハンザ工務店さんを挟んでるなら、ギルドが工務店さんに修繕費について問い合わせて、助成してくれるはず」

「管理費とか以外にも!? そんなことが可能!?」

「可能だよ」

「助かります~!」


 そんなこんなで、まだまだ知らないサンクレルの街を案内してもらいながら、ギルドに行くと、イリーナさんが目にクマを作ってカウンターにいた。

 ひえっ! 冒険者ギルドってブラック企業!?

 イリーナさんがわたしを見ると、ぱあっと笑顔を浮かべてくれる。


「イリーナさん、お疲れ様です!」

「今日はどうしました?」

「実は、例の物件、老朽化で修繕が必要なんですやっぱり。ある程度は自分でやろうとは思うんですが、ハンザ工務店さんに依頼してるので、修繕費の助成ができるって、ルイスさんから聞いて」

「了解しました、ではこちらの書類に記入してください」


 わたしはイリーナさんから書類を受け取り、その場で記入するのだった。



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