第12話 ハンザさんのお部屋点検続きます。
ハンザ工務店さんの屋根修理の下見が終わって、屋根の補強材料は、この物件に併設されてる倉庫のものを使えば資材費をがくんと抑えられるとのこと。
ついでに、ハンザさんはひととおり、建物内部の怪しい部分とか、一緒に見てもらった。
「お嬢さんには嬉しいだろう、こんな町はずれの一軒屋に風呂付物件はめずらしい。だが、脱衣所の床はベコベコしてるな、浴室の壁もカビている。壁は塗装でなんとでもなるが、床はまずいな」
おお~浴室付き、暗いからわからなかったけど、お風呂もある~。
「バスタブも――この汚れはとれんな。アニスの奴、金具のついた何かをバスタブ内で洗ったな。汚れというより傷がひどい」
在来工法タイル風呂ではなく、そこは異世界中世チックな猫足バスタブでした。
「取り替えたいです」
「その方がいいな」
トイレも同様、水漏れとかあった。
ボットンではなく、一応水洗。この建物からちょっと敷地の端の方に、浄化槽がある。ここの浄化槽ってスライム素材を活用して、汚水浄化してるのよね。奥の森の方向へ浄化された水が流れていくようになっていて、ここの造りはあの倉庫よりも大丈夫みたい。
こういうところはしっかりやってるって、ハンザさんは感心していた。
「ふむ……水栓管の交換はした方がいい……というかお嬢さん、水回りは業者に頼んだ方がいい。オレの弟子がそっち系の専門で独立してるから、話を通してもいい」
「……そ、そうですね……よ、よろしくお願いします」
ふわあああん。お金が飛んでいくよお!
築古物件のリノベーションはこの異世界でもお金が飛ぶよ!!
資材は倉庫に残ってるけど、この物件の大きさや、補修しないとダメなところとかのスペースを考えると、足りなくなるじゃないの?
頼む、冒険者ギルドの管理費、早く入ってきて~!! そしてどうかお金が足りますように!!
「キッチンも古いな。アニスが死んだのはかなり前だから」
ドワーフとかエルフって長命種だから、それでかなり前っていうならかなり前だろうな。
「未練が今になってゴーストか……捻れ具合も相変わらずか。口が悪くて、バカ息子なんて知らんとか言ってたくせに、オレがメルクーア大迷宮に潜ると、きまって息子を見たら顔を出せと伝えろとうるさくてな」
「ハンザさんはメルクーア大迷宮に潜られていたのですか?」
「若い頃にな。怪我をしてからサンクレルに引っ込んで店を建てた」
ほう。人に歴史ありですね。
「ま、冒険者よりはこっちの方がオレには合っていたってところか」
そりゃサンクレルのお店を見ればそうだろうなって思う。本当にたくさんの従業員? 職人さん? を抱えてるんだもの。
「お嬢さんは、魅了持ちだろう?」
「あ、はい……」
やっぱり元冒険者ならわかるのか。
あ、新人さんのそわそわ具合でわかっちゃうのかな?
「想像もつかんが、生きづらいだろうな。大方それが原因で、大陸を移動してこんな迷宮大陸にやってきたんだろう」
転生転生また転生を繰り返して、必ずと言っていい程わたしにくっついてる魅了スキル。
同性からは煙たがられ、異性からは下心で近寄られるこれを、生きづらいって言ってくれるなんて……理解が嬉しいよお!
ハンザさんいい人だ! 好感度が上向きなんだけど、ベテラン冒険者並みにゆるやかな上昇具合。こういう人って、魅了スキル持ちのわたしとの距離の測り方が上手いのよ。
「冒険者ギルドにも伝達しておく。うちの若い連中をここに寄せるが、お嬢さんの魅了がどう働くかわからんからな。お嬢さん自身も危ういだろうし、改築の間、ボディガードぐらいは手配してくれるだろう。オレが顔を出せる時は顔を出す」
え? そんなことできるの? お金かかるじゃん!!
「お、お、お金が……」
「なるべく早く改装してやる。そしたら店でもなんでもここでやれば、なんとかなるだろう。オレんところは割賦でいいぞ。ゆるく設定してやる。アニスの浄化の礼だ」
「あ、ありがとうございます!」
え~アニスさんの浄化のお礼て……そんな冒険者ギルドからもらってるのに。
はっ! ドワーフのハンザさんとドワーフとハーフエルフのアニスさんだから、え~もしかしてハンザさんはアニスさんのこと特別に想ってたってこと⁉
ひゃ~ロマンスだ!
でもありがたい。頑張ってここを何かのお店にしないと!
休憩所で儲かるかしら……不安~。
そんなことを思いつつ、物件の確認は続く。
二階の廊下もやっぱりきしんでるところもあったり、板を張り替えした方がいいとなった。
「あいつ、ところどころで砂壁をつかってやがるな……」
ハンザさんは建物内部の壁を見てそっと触れて、指先にくっつく壁から浮いてる粉を指先でこすり合わせながら呟く。
あいつとは前の持ち主のアニスさんだ。
「一時、流行したからな……使いたかったんだろうが……。それだけの技術もあったけどよ。お嬢ちゃんが住むなら、クロス(壁紙)か塗装か……漆喰塗りでもいいだろうな……。建物内部が明るい方がいいだろ?」
「はい、それはもちろん」
「全部白くしよう。塗装や漆喰塗り、クロス張りぐらいなら、屋根修繕や床修繕の時にウチの若いのに指導するように言うが? そしたら自力でできるだろ?」
「いいですか⁉」
「おう」
そう言いながらハンザさんは、昨日、寝室にしていたわたしのお部屋になるところの扉を開ける。
「ここの内装はクロスか……。うん……剥がせるっちゃ剥がせそうだな。廊下や店舗の壁に比べれば比較的、楽に剥がれて、塗装でも、漆喰塗りでもいけそうだ」
「あの……この大陸に漆喰とかあるんですか?」
漆喰ってこの異世界ファンタジーにもあるもんなのかしら? そんな疑問から尋ねたんだけど、ハンザさんはあっさり答える。
「あるぞ、サンクレルの街は海に面してるから石灰石が入手しやすい。漆喰はこの大陸じゃよく使われる建築材だ」
「そうなんですね」
ハンザさんは柱や窓枠のチェックなんかもしてくれて、ふと、わたしがアイテムバッグから取り出していた作業ベルトに視線を落とす。
えへへ、実は作っちゃったんだあ~作業用ツールバッグ、ウェストポーチ型!
シザーズバッグみたいにショルダーにしようかと思ったけど、ショルダーにするとブラブラしたりショルダーの紐がどこかに引っかかりそうかなって思って、ちょっとガテン系の人が良く使うウェストポーチ型にしたんだよね。
これだから素人は形から入るし~とか思われちゃうかな? 恥ずかしー。
「ちょっといいか?」
ひょいとハンザさんはツールバッグを持ち上げる。
「あ、どうぞ、ここに来る時、修繕するから必要かなって思って、作ったやつなんですよ」
「思ったよりも軽いな」
「軽量化の付与をかけてます」
嘘です。勝手に軽量化の付与がかかっちゃいました。
「ちょっと身に着けてくれ」
「え、あ、はい」
ウェストポーチを身に着けるとハンザさんはツールポケットのサイズとかいろいろ見てる。
「お嬢ちゃん……いや、アリスさんよ。これ、大量に作って、ウチに卸してくんねえか?」
「はい?」
「料金は払う、ここの修繕を差額でやってもいい」
こ、これはお仕事ですか⁉
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